朝食後に村長の呼び出しがあり、皿を片付けた後に村長の家に行く。


 ノックをし入室する。


 室内は村長の服装と同じく、エジプトやキリスト教を彷彿させる家具や壁紙が広がっていた。中自体は、俺の家より少し広いぐらい。


「座りなさい」


「あ、はい。失礼します」


 村長と同様に、青い座布団の上に座る。


 村長と二人きりでの対談は初めてだ。


 もしや。脱出を勘づかれてしまったのか?


「........そう警戒をしないで良いよ。今日は水木君とゆっくりお話しがしたかったんだ」


 村長は微笑む。


「そろそろこの村の実態が分かってきたかな?」


「いえ。何かあるとは思いますが」


「柳村のことはどこまで知ってるのかな」


 柳村? この場でそれを?


「........平和な村であった柳村に、突如辻島牡蠣太郎が現れ鉈を振り回し村人を殺害した。村人は全滅をし、その後はどうなったか知らない。までですかね。事件は迷宮入りになり、果てには都市伝説化となっているみたいです」


「水木君達は。その事件が本当にあったのかを知りたいんだね?」


 深く頷く。


「その事件は本当にあったよ。そしてその後、辻島牡蠣太郎は村の中で生きていた」


 俺は目を見開く。


「どうして貴方が知っているんですか?」


「簡単な話だよ。辻島牡蠣太郎の親戚だからだよ」


 なるほど。この村の異常さはそこからか。


「牡蠣太郎は残酷で、人を殺すのに躊躇無かった。村に来る前までに五人の若者の女性を殺害し死姦した後、逃げるようにここへ来たらしい」


「その話によると、村長さんは辻島牡蠣太郎に殺されずに済んだってわけですか? というか貴方は柳村の生き残りですか」


「そうだね。生き残りは語弊ではあるけど、そうゆうことにしよう」


 語弊? さっきから濁して喋ってるみたいだ。


「牡蠣太郎は村人全員を殺してない。若くて健康な女性だけを敢えて殺さなかった。それは何故か。牡蠣太郎は自分の子孫をたくさん欲しかったからだよ」


「........じゃ。今居る大半の村人は、辻島牡蠣太郎の血の繋がりがある方々ですか?」


 村長は頷く。


 ........イカれてる。サイコの血を植え付けて何をしたいんだ。


「ですが辻島牡蠣太郎は、この世には居ませんよね?」


「そう捉えても良いかもしれないね」


 駄目だ。話が平行線のようだ。色々話すわりには何かを隠してる。


「........村長さんは亡くなった辻島牡蠣太郎の跡を継いだ、ということですか?」


「そこはどうだろうね。継ぐのは理玖だと思うよ。私より優秀で健康だから」


 優秀で健康.......。


「いくら優秀で健康でも、老いには勝てないものだよ。精子の数は減るし、体力にも限界が来る。理玖の女好きには少々困るもの、彼のおかげで子供は順調に増えてる」


「増やしてから消えるという件はどうなってますか?」


 村長の目付きが一瞬冷たくなる。


「はて。何の話かな。基本は村から居なくなる事は無いよ」


 嘘か。


 だよね。腹を割ったつもりでいたが、外部の人間は信用しないよね。


「........一つ。重要なことを聞きそびれていました。辻島牡蠣太郎の死因は何ですか」



「私が殺したよ」



 村長はサラッと言った。


「.......殺した? それはどうし」


 発泡のような音が響いた。


「綾女かもしれないね」


 俺は飛び出すように外へ出た。


 

 村の中心部で、綾女さんが散弾銃を理玖さんに向けていた。


「マジで撃つとは。さすが綾女様」


 地面には硝煙が舞っていた。


 散弾銃は誤れば、村人にも被害が及ぶのに。余程のことだよな。


「倉庫荒らしをしておいてさ! 何を呑気にしてんのよ!!」


「なに.......?」



「理玖様は食糧倉庫で盗みをしたみたい。しかも四分の一を」



 村人がつぶやく。


「お腹が空いたんだもん。ちょっとは良いじゃん。そこまで怒る必要無くない?」


「貴方のせいで。またあたし達は食糧不足になるのよ!? もしかしてそれをする為に物質の増加をしようとしたの。答えて!」


 次は外す気無さそうな構え方。なのに理玖さんは冷静だ。


「いやいや。単なる偶然だって。俺の気紛れはいつものことじゃん?」


「.......謝りなさい」


「そうカッカッするなよおばさん」


 綾女さんは銃口を、理玖さんの額に目掛けて.......。



「やめて!!」



 早見がいきなり現れ、理玖さんの前に出る。


 理玖さんを除き.......、俺や村人達も驚愕した。


「........貴方。一緒に心中したい?」


 早見は黙っている。


「これも計算の内かな、理玖」


「さぁ〜」


 綾女さんは口癖のようにため息をついた。


「庇うのも私の中では大罪だけど、村長様にはそう思わないらしいからね。ナイスタイミング過ぎて腹が立つわ」


 綾女さんは散弾銃を下へ向ける。


「聞きたいんだけど。前に助けてくれた仲間だから助けたの?」


「そうですよ。それ以外何かありますか?」


 綾女さんの威圧な目に、早見はさらに威圧的になる。


「........騙されてる。そいつは、人を利用するのが大好きなのよ? 貴方は弄ばれてるわ」


「弄ばれていたとしても。私はこうしたいからこうしてるって胸を張って言えます」


 綾女さんは再度ため息をついた。


「ほら! みんなはやく仕事に行きなさい! 見せ物じゃないんだから!」


 綾女さんは手を叩きながら叫ぶと、村人達はそそくさと仕事場に向かった。


「.......理玖。何が目的」


「だから何もないよ。ただの気紛れだって」


「........。早見、水木君もはやく仕事しに行きなさい」


 綾女さんは舌打ちをした後、何処かへ消えた。


「美来ありがとう。アンタに助けられるなんて光栄ですよ」


 理玖さんは早見の頭を撫でようとしたが、それを早見は回避した。


「お礼は良いです。本当に前に助けられてたからだけと、個人的に綾女さんが嫌いだからです」


「たしかにあのオバサンは、自己主義過ぎてウザいよな〜」


「貴方も大概ですがね」


 二人はなんだか楽しそうな雰囲気を醸し出しており、俺は少し嫉妬してしまった。


「早見。仕事しに行こう」


「あ、先輩居たんですか。気づかなかった」


 いつもなら平気なのに。今回は傷付いた。


「ひどいよ。美来が居なければ雄太が助けていたんだよ? だよね?」


 俺は軽く頷く。


「........どうして倉庫から盗みを」


「お腹が空いただけだよ。普通の男性には足りないでしょあの量じゃ。体力仕事をしてるしね」


 理玖さんは相変わらずヘラヘラと笑う。まるで死ぬ事に興味がないように平然としていた。



「おっと。やる事があったのをすっかり忘れていた。楽しいとなんでも忘れちゃうよね。じゃあねお二人さん。俺の分も仕事頑張って〜」



 理玖さんは早見の肩を軽く叩いてから、村外へ向かって行った。


 俺は早見に歩み寄る。


「.......早見。その、平気か?」


「私は大丈夫ですけど.......。それよりもこれ........、なんですかね?」





「早見と水木君は。おばあちゃんを家に送ってきなさい」

 

 夕食後に綾女さんに言われた。


 みんなは静かに席に座っている。


「何か会議をするんですか?」


「貴方には関係のない話よ。さっさと行きなさい」


 俺と早見は不思議に思いながらも、席をたち、雪子さんが乗る車椅子を押して家に向かった。


 ふと振り返ると、綾女さんがこちらをじっと見つめていた。俺達の姿が見えなくなるまでは、会議をしない気だろう。


「村人達と話すあたり。物質の件ですよね」


「だろうね。俺達に秘密にするというのは、あの人の読み通りだろう」


「.......し、.......しに、たくない.......」


 車椅子に座っている雪子さんがつぶやく。

 

「死にたくない? 雪子さん。何か知っていますか?」


 早見は顔を、雪子さんの口元に近づく。


「あ、あのひと.......は.......あくま.......」


「悪魔? 綾女さん? 理玖さん? それとも.......」


「そんちょ、うに、は、気をつけ、て.......」


 雪子さんは体をガタガタ震わしていた。


 村長に何かを吹きこまれたのだろうけど。錯乱状態の雪子さんからは、もう何も聞けなくなってしまった。




「雪子さんの体を痛めつけたのは多分、村長だろうね」


 寝る前に言った。


「村長が? ちょっと変だけど温厚そうですよ」


「早見は村長と喋ったことない? 話していたらかなりやばいのが分かるよ」


「........まぁそれは追々聞くとして。トイレについて来て欲しいです」


「寝る前に行ってなかった?」


「だって家の中も寒いから........。女性は冷えに弱くてトイレがしたくなるんですよ」


「そろそろ一人で行って欲しいところなんだけど」


「ひ、酷い! 私、すっごく嫌な目にあってばかりなのに! 女性の気持ちを分からない男は、一生モテませんよ!?」


 早見は顔を真っ赤にして怒る側で、俺はふと笑った。


「仕方がないなぁ。一緒に行くよ」


「もう。意地悪にも程がありますからね」

 

 二人の間で、久しく和んだ気がした。





 物質配給の一週間前からは、村人達は慌ただしくなり、空気がピリつくようになった。


 情報収集の為に村人と関わろうとするが、綾女さんの思惑を受けているか。物質について何も答えてくれなかった。村人の大半は朝はやくに物質を運ばなければならないと聞けただけ良しだな。


 綾女さんは仕事場を覗く事なく、何か作業をしたり理玖さんとよく喋っていた。勿論、綾女さんからは何も教えてくれなかった。いつものように仕事をしていれば良いと言われた。

 

 三ヶ月置きの物質配給だから失敗は許されないと思ってるのか? 


 配給後の間に、村長は何かを行動するんじゃないかと予感している。


 だから今回で、本当に脱出しなければならない。

 


 やはりあの地図が頼り橋になるのか。



 不安だが。あれを使うしかないのかもしれない。




 物質配給の日が来た。いつもみたいにどんよりとした雲がなく晴天。


 

 朝食時に何か機械の音がした。空を見上げると、中型のヘリコプターが飛んでいるのを見た。



「予定通りに来たわね。みんな速く食べなさい」



 綾女さんは言うと、村人達は急ぎに食事を進める。



 朝食の片付けを俺と早見だけにやらせた。村長は家に戻り、綾女さんと理玖さんは村人達に指示をしていた。


 綾女さんからマー君のお守りをしてとも言われたが、マー君は飼育小屋の豚や牛を虐めるのに夢中であった為、そっとしておいた。


 

 皿の片付けが終わった頃には。村内は静寂で、村人達も外へ行っていた。


 チャンスが到来した。


 これで動かなければ、俺達の未来は無い。



 急いで家に戻り、早見からくれた地図と隠しておいたヘリコプター操作本を手にする。


「スマホや鞄は?」


「とっくの前に燃やしたときいてるよ」


 ここを記録できなかったのは少し残念だが、今は生き残る事に集中しよう。



 

 外にも中にも村人が居ないか確認してから、外へ出てみる。


 村の外はやはり林だらけで、綺麗な道なんて無かった。一歩間違えれば、村に帰れなくなるだろう。


 早見から貰った地図を広げると、A4サイズぐらいあった。


 何処に何があるのかを詳細に書かれており.......。ヘリコプターまでの道筋を赤ラインで引かれ、矢印も付けてくれてる。


 綾女さん達とは違ったルートだろう。裏から回り、ヘリコプターまで行く道のはずだ。


 所要時間は徒歩で約十五分。走れば八分と、時間まで書き込まれている。


「大丈夫ですかね? 行けたとしても騙されていたら.......」


「騙されようが。もうやるしかないだろ? 次は死ぬんだ。どうせ死ぬなら動く方が良い」


 早見は迷いも、深く頷いた。



 地図をよく見ながら林へ入っていく。


 茂みが多く、歩けば必然と音が鳴る。出来るなら鳴らしたくないが、あまりにも遅く歩けば俺達が居ないことがバレてしまう。


 でも鳴らして誰かに気づかれるのも考えないといけないので、辺りを注意して歩いて行くしかない。


 神経がすり減りそうだが我慢だ。



 歩いてる際に熊を見かけた。幸い遠くで見かけたので、熊が消えるまでその場で止まった。


 地図の真ん中あたりに熊注意と書かれていたが、本当に出没した。それも何匹も見た。


 確かに夜中だと村に近づいてくるかもしれない。昼間だからなんとか避けれるものの、あんなでかい熊と鉢合わせてしまったら死ぬだろう。


 そういえばたまに散弾銃を持った綾女さんと、斧を持った数人の男性とで村外へ狩りに行っているが、誰も負傷しないで帰ってくるのを思い出した。


 綾女さんは必ず熊一匹を仕留める。あの人と戦うのを避けるんじゃなくて、まず無理だろう。


「なぁ早見。女性が散弾銃を扱うのって無理があるよな」


「そりゃそうでしょう。綾女さんは長身寄りではありますが、力があるようには思えない程細身だから、散弾銃を使用するには無理があります。男性でも難しいと思いますけど」


「だよな。昔に体験で散弾銃を扱ってみたが、重い上に構えて撃つとなると、体が吹き飛ぶんじゃないかと思う。器用だけでは話にならない。綾女さんの体は、ある意味異常だよね」


「村全体が異常だし、そうゆうのがあってもおかしくないですけどね。何か薬を飲んでいたりとか」


 綾女さんが薬か。飲んでる場面を一度も見た事がないが、もしかしたら昔に飲んでいたのかもしれない。あのヒステリックに度が過ぎているのは、ホルモンバランス以外にも理由があるのかも。



「あー........。まだまだ調べないといけないことが山積みだよ」



「え? まさか本気で言ってます? 私は一刻もはやく逃げたくて仕方が無かったです。記録よりも命だし、命があってこその記録ですしね」


「良いこと言うね。命あれば何とかなるよね」


「当たり前のことを言わないで下さいよ。村の異常さに毒されてません?」


「毒されてたかも。怖い怖い」


 けどこの二ヶ月以上は、ジェットコースターのように色々あり過ぎた。


 謎が謎を呼ぶように、主要人物達は伏線発言をしていった。


 こうゆう所が記者の悪い癖だね。調べたい好奇心、探究心が今更ながら疼いてしまう。


 真実を突きつめる為に命をかけてまで取材したいのが、正に記者の鏡じゃないかと思うけどね。


「! 先輩。あれ」


 早見は左へ指をさした。



 その先にはヘリコプターがあり、村人達が居た。

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