Chapter 036 終局


(うっ……)


 目を開くと頭が膝に乗っており、膝を貸してくれているロレウが俺を見下ろしていたが、目を覚ましたことによって、安堵の表情を見せた。


 起き上がり周囲を見渡すと、もう一体の雨師も倒された後で、黒い玉と白い玉に置き換えが終わっており、マイネの姿が見えないため、ロレウに聞くとマイネは黒い玉を持って空間転移で姿を消したそうだった。


 ──自分で思っていたよりも無理をしたみたいだ。


 少し離れたところでローズとプリンスが、巨人族の二人と何やら会話をしている。俺は起き上がり、巨人族のところに近づき声を掛ける。


 彼らの名前は巨人族のケノスとフィリペ。双子の兄弟らしく、巨人族と異種族のせいもあってかどっちがどっちか全くわからない。


 彼らは巨人族の中でも何か問題が起きたときの“荒事”担当とのことで、このブイリの森で災いを及ぼす存在について、彼らが信仰する時間を司る天使トイト―の『啓示』によりこの場所、この日時に厄災が現れるので戦っている他種族に加勢するようにと昨晩、お告げのようなものがあったらしい。


 ブイリの森の更に奥に住んでおり、親兄弟や親戚を入れてあと二十人くらいで一緒に住んでいるそうだ。


 しかし、驚いた。あの悪夢のような強さの守護者と二人だけで渡り合っていたのだ。彼らは本来、この世界の種族の中で最も温厚な種族で武器を持たず、森の奥深くで静かに暮らしていると聞いたことがある。


 だからなのか……素手でやりあっている。彼らの拳が当たるだけで守護者は吹き飛んでいた。やはり、この世界で筋力と耐久だけでいえば、最強の種族だ。


 先ほどの戦闘で、ヴァンが放った【聖槍ミッシガル】で雨師の腕を吹き飛ばした時に、手前の方に飛んできて落ちた”雷を帯びた石”を拾ったそうで、俺に手渡してくれた。


 まぁ、この雷の石は、ドクターに後で鑑定してもらうとして、これで指定された課題はクリアできたわけだ……。 でも特別指導コースという名の授業の一環で、国難レベルの一大事をあてるなんてあの初代学院長、ちょっとどうかしてないか?


 あと二年ちょっとは故郷を離れたこのロンメル高等技術学院でゆっくりしようと思っていたが、もうそうはいかなくなった。


 …か……。


 さて、これからどうしようか?


「なあ? ミラーじゃなくて、ヴァン王子だっけ? もうこれでさよならなのか?」


 シュートが心配そうに俺に尋ねてくる。


「そうだな……やることが見つかったし、あの『啓示』の内容だと、本当に大変なのはこれからだと思う……俺とロレウはもう、それを実行に移さないといけなくなってるらしいからな……」


 そうかと寂しげな表情でシュートは返事をしたが、すぐにちょっと無理のある明るい笑顔を取り繕い始めた。


「ノビリス……いえ、ロレウ。貴方、そのまま私に勝ったまま逃げるつもり……」

「私はあなたに勝ったなんて一度も思っていないわ。私はヴァン王子の護衛……私情を挟まないし、できないわ」


「兄弟、君の方が本物の王子だったとは一本取られたよ! 僕はプリンスなんて呼ばれているけど王族ではないんだ。まあ……どこぞの国の貴族の倅ではあるけどね、学院のことは僕に任せてよ。これからは|ローズさんを抜いて僕が学年No1になって皆を引っ張っていくよ」


 プリンスは、相変わらずな口調だが俺たち二人を穏便に送り出してくれるつもりのようだ。

 プリンスの発言でロレウに向いていたローズさんの怒りのような感情がプリンスに向く。

「貴方にだって当然、負けないわっ」「いやいや僕に任せなよ」と言い合いを始めた。


「よし【鑑定】できたぞ~。えーと、見たまんま【雷精石】って名前で効果は『発動者の想力を雷エネルギーに変換、増幅させて射出する』だそうだ。これを……ノビリスさんじゃなくて、えーと……ロレウさんが持つと【雷球】のスキルとの相乗効果ですごいことになりだね」


 俺たちが他のものと話している間にドクターが雷を帯びた石を鑑定し、結果を教えてくれた。


「サンキュー、ドクター世話になったな」

「なんのこれしき! いずれどっかでまた会えるさ、俺の勘がそう告げている」

「勘かよ!! 研究者っぽくないなっ」


 俺が、ドクターに軽くツッコミを入れると周囲に笑いが起きる。


 ……が。


「ロレウ……ううんノビリス……私これからどうすればいいの? 一人になっちゃう……」

「シャワー……」


 シャワーはただ茫然と立ち尽くし、親友に自分の素直な気持ちを吐露し、ロレウもどう返事をしていいのかわからず、二人とも向かい合って立ち尽くす。ここはヴァンの出番ではない……そのくらいはわかっている。


「シャワーさん、そこまで言うなら、彼女についていけばいいじゃない。貴方にその覚悟はあるのかしら?」

「……」

「彼女はすべきことがあるから学院を離れるのよ? 笑顔で見送るのが本当の親友ではなくて?」


 いいこと言ってるけど、アンタさっきロレウになんて言ってたっけ? なんていう野暮なツッコミはやめておこう……。


 ローズさんいつでも的確な判断するんだよなぁ。やっぱりこの学院の次の『第一番』はローズさんじゃないと。

 ──という訳でリーダーの資質としては、ローズさんがNo1だ。残念だな、プリンス。


 俺たちはベースキャンプまで一度戻り、装備を整えて、そこで「また会えるさ」と学院生たちと笑顔で別れを告げ、そのまま徒歩で自由国「オルオ」を目指し、ブイリの森を後にした。











(神の箱庭監視室)


 あちゃーっ、そういえば、ヴァン君とロレウちゃんの鑑賞に熱中しすぎて、私という女神の存在を売り込むの忘れてたわぁ……。


 まぁも取り替えたし、候補の子たちも無事「資格」を獲得したし、よしとしよう。


 初代学院長ザ・ナート弐号機マイネには別の機会にまた働いてもらうとして、そろそろ次探そうかな?


 それでは、久しぶりに~~っ。


「ポチっとな!」 





【魔物設定】────────────────────


 ?四凶?

 渾沌(こんとん)

 スキル 咆哮(ハウリング)、怠惰

 体高は約二メートル、長い毛で覆われ地面に垂れ下がっており、目も鼻も耳が長い毛で見えない、犬の魔物だが長い毛が邪魔で外見ではよく分からない。

 怠けもので、あまり体を動かしたがらない。

 シャワー曰く「なんかモサモサしててちょっと可愛い」らしい。

 一定時間のインターバルを挟むことで、スキル【咆哮】で眷属「リン」を大量に召喚することができる。


 檮杌(とうこつ)

 スキル 鉤爪、尻尾

 醜悪な人面に、虎の身体で恐ろしく長い尾をしており、爪と鞭をしなるよう尾で攻撃を仕掛けてくる。 

 眷属はいるか不明。いきなり入口付近で正々堂々と単独で待ち伏せしてタワー&シュートに返り討ちにあった。


 窮奇(きゅうき)

 スキル 毛針、咆哮(ハウリング)

 見た目は大きな黒い牛、頭部には大きな二本の角が生え、全身針に覆われている。知性が魔物の中ではかなり高く、相手を観察して弱点を見極めようとしてくる。


 饕餮(とうてつ)

 スキル 狼牙、咆哮(ハウリング)

 狼型の魔物で体高約二メートル、非常に素早く、知性もかなり高め。

 スキル【咆哮】で眷属”黒狼”を召喚できる。


 守護者【大樹】

 スキル なし

 体高二メートル程度で人型、頭部は金属製の仮面をつけており、両手斧、大剣、長柄のパイクに似た武器の三種類のどれか一つを持っている。


 守護者【蚩尤】

 スキル 再生、武具召喚

 人族の姿をした守護者で怒面、六本の腕に弓矢、斧、矛、剣を持っている。

 人知を超えたステータスにヴァンは気づき、覚醒する方向へと意識が変わった。


 守護者【風伯】

 スキル なし

 白髪の老翁で遠距離攻撃タイプ、左手の車輪は車輪ごと射出し、対象物に命中すると自動で手元に戻る。

 右手の扇子は風の刃を発生させ前方の敵を切り裂く。


 守護者【雨師】

 スキル なし

 体高二m程度の髭を生やした外見上は人族の大男、水系の遠距離攻撃のできる大きなツボと「発動者の想力を雷エネルギーに変換、増幅させて射出する」【雷精石】を所持。

 雨師の討伐後は【雷精石】は巨人族に拾われ、ヴァンの手に渡り、その後ロレウの所持品となる。

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