Chapter 035 覚醒一撃
くそっ、遠距離タイプだから近接戦に持ち込めば何とかなるかもと思っていたけど、とんでもない強さだ……地力が違い過ぎる。
大量に展開していたヴァンの【分身】を一撃ごとに“消し飛ばして”いく目の前の老翁=風伯の圧倒的な力に冷や汗が吹き出て止まらない。
分身を隠れ蓑にしてロレウの必殺の一撃を単発ずつ見舞っているが、どれほど効いているのかは見てもよく分からない。
幸い、ロレウの【瞬動】のおかげでこちらの方が速度で上回っているため、何とか耐えている状況だ。ヴァンにいたっては、分身の物量頼みの殴られ役でしかない。
両手の車輪と扇子は使わせないよう距離を詰めた接近戦に持ち込んでいるが、単純な殴り合いでも遥かに分が悪い……。
くそっ、俺に直接ダメージを与えられるスキルがあればいいのに……。
あれ? 俺のスキルが一つ増えている?
なんだこれ? 名前カッコ良すぎだろ?
さっき、啓示を受けたときに与えられたのか?
気づかなかった……まあいい。
……よしっ早速、実戦投入。
スキルを発動すると、前面に周囲を空間を取り込むように渦巻いている白色半透明の球状のものが現れる。
発動した時点でこのあとどうしたらよいのか体が分かっており、勝手にモーションに入る。
収束を始めた球を上下から両手で挟み込むように抑えつつ、更にエネルギーの出力を上げていく……。
球が膨張し、段々と色が白色半透明から赤色に変わり更に紫、青色へと変色していく。
その間に球状だったものが形を変え、段々と槍の形になってきた。
それまで立体的に収束していたものが、槍の横軸方向に回転が始まり、回転方向にエネルギーの収束が変わって『キィッ──ッ』と金属音のような高い音が響き渡る。
そのまま風伯に狙いを定めたが……ちょっと待て!
いいことを思いついた……。
俺は起動させたまま『待機』の状態でその場から動き始め、風伯と雨師が直線状になる角度のところまで移動した。
あわよくば串刺しといこうか……。
照準を定めている間にくらくらっと強烈な眩暈がし始めた。
いかん、今のでごっそりと想力を消費してしまっている。
撃ち出したらすぐにイメージビタミンVで想力を補充しないと……。
「我が槍は、闇を穿つ聖者の槍、何人たりとも防ぐこと敵わず……」
「【
言葉が口から勝手に紡ぎ出された。
少し恥ずかしいが……まあしょうがない……。
両手から放たれた槍は、渦を巻きながら風伯に超高速で接近、風伯は俺が時間を掛けて狙っていたのを気づいていたらしく(そりゃそうか……)躱そうと身をよじるが、槍は自動で軌道を少し変えて命中、期待通り風伯の腹部を貫通しそのまま、雨師の腕の部分に命中し同様に貫ぬき、そのままその先に飛んで消えていった……。
──っ、威力がエゲツない……。
これはこの世界の住人に与えていいものなのか…天使様?
まぁ今さら取り上げられても困るし有難く頂戴しよう。
見ると、風伯は致命傷だったらしい……。
動きに精彩が欠けている。
あちらでは、雨師……髭の方は、俺が放った槍に右腕を持っていかれ、丸い雷の石は手放しており、壺を振り回し壺の口から水流が線状に伸び、巨人族を傷つけているが、耐久値の方が勝っているらしく、大きなダメージになっていないようだ。
風伯にトドメを差すべく、動きの極端に鈍くなった老爺に全力で猛攻撃をかける。
速度で圧倒しているため、もう一方的なサンドバックの状態なのだが……。
しかし、なかなか倒れない……タフすぎる。
この老爺でこんなに苦戦するならあの中央の“蚩尤”の強靭さはいかほどのものなのだろう。
手にはまだ車輪も扇子も持っている。
使われでもしたら、形勢が一気に逆転しかねない。
油断しないよう腕の動きには細心の注意を払う。
そうこうしているうちに背後に他のメンバーが駆け付け、遠距離での支援攻撃が始まり、ようやく風伯の息の音を止めた。
他のメンバーには巨人族の方の遠距離射撃の協力を依頼して、俺とロレウは二人中央の“蚩尤”に近づく。
はっきり言って、この闘いに割って入ることは、力を得た俺とロレウでもほぼ不可能だった。
それほど目の前では次元の違う戦闘が繰り広げられている。
蚩尤とマイネはほぼ互角で、俺たちはただの足手まといとなる。
(ロレウ、さっきの俺みたいに何か新しくスキルを覚えていないか?)
(はい……今、確認したところ
なにそれ……怖い……。
そういえば天使エッダ様が最後に人族には負けるなとか言ってたけど……やっぱりメチャクチャ自分の担当種族をひいきしてないか?
(よし “蚩尤” めがけて撃て!! 想力がかなり持っていかれるから残量に気をつけてくれ……あと、さっき気づいたんだが、この反則級スキルは“発動に相当する物質あるいは敵対意志を持つ存在の検知”を条件に一日一発しか発動できないらしいんだ…)
(分かりました)
ロレウがスキルを発動し、俺と同じように個別の動作に入る。
その間にも少しでも、マイネの負担を軽くするために“弾避け”として俺の分身を大量に作り、送り出し続けるが蚩尤はまるで、紙きれのように分身達を引き裂いていく。想力の限界が近づいている。切れたらマインドダウンを起こしてしまいそうだ……。
ロレウは舞をするように鮮やかにステップを踏んでいき、やがて“蚩尤”の足元に円形の陣が浮かび上がる。
“蚩尤“はそれに気づき、完全回避行動に移るが、円陣は自動追尾式のようだ。
常に円陣の中央にロックオンされていて回避できないと悟るも既に遅い。
想円起動後に積層型の円陣が現れ“蚩尤”を閉じ込めた。
円陣の下部から、灼熱の紅に染まった炎柱が渦を巻き競り上がり、たちまちのうちに蚩尤を飲み込む。
炎の渦が収まると蚩尤は、焼きただれボロボロになっているが、体が淡く光っている。
マイネがトドメをさすべく、手から光線のようなものを発射し、ロレウも微力ながら、雷球がその光線を追いかける。
『ゴォァァァァ─ッ!』──蚩尤は、耳をつんざく様な断末魔の叫びを放ち、そのまま立ったまま黒い灰となって消失した。
やっ……た…っ……。
ロレウが何かを叫びながらこちらに駆け寄ってくる姿が見えたところで俺は意識を手放した。
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