Chapter 034 想い
シャワーはスキル【水弾】を力の限り撃ち出している。
ヴァンの指示通り、なるべく広範囲に散るように近場のものだけでなく奥に控えている守護者達にも届くように分散させていた。
それと並行して、シュートが延々とスキル【鉄】で生成したものを、ドクターの【錬金】で粉末状かつ火薬を混ぜ合わせて、それをヴァンの分身たちが袋に入れて、あちこちでばらまいている。
その間、プリンスが【幻霧】で攪乱しつつ、ロレウ、ローズ、タワー、オニギリがヴァンの分身たちとともに前線を支える。
途中、オニギリ、ローズが前線から抜けてずっと後方にさがり、スキルのチャージを開始する。
オニギリとローズの二人が抜けた分を火薬入り鉄粉をばらまき終わったヴァンの分身達とシュート、ドクターで穴埋めする。
ローズが抜けた瞬間から、重圧となって前線を支えるメンバーに負荷として掛かり、歯を食いしばり、皆、必死に耐える。
──ヴァンのスキル【分身】は一定のダメージを受けると消えてしまい、分身生成に消費したSPは戻らない。
しかし、途中で解除すると時間経過分のマイナスと残HP分のプラスで加減されてSPが多少戻ってくるというチート級のレアスキルになっており、今現在、SP回復薬を飲みまくりながら、そのレアスキルを惜しみなく使用している。
ロレウとオニギリのチャージが完了した。すぐに奥のマイネや巨人族の二人にも合図を送る。
全員一斉に背を向け避難し、マイネは宙に逃れる。
距離が開いたところで特大の雷球と無数の火箭が守護者を襲う。
着弾と同時に激しい稲光の直後に発生した巨大な爆風が吹き荒れる。
あらかじめ決めていた後方の岩陰に潜り込んだが、回り込んでくる熱風が皮膚をチリチリと焼く。
水を事前に撒き、伝搬性を高めて雷球による“水帯感電”と可燃性の高い鉄と火薬を粉末状に混ぜ合わせ飛散させた状態で着火した粉塵爆発のダブルコンボ。
爆風が収まり、確認すると守護者は十体程度まで数を減らしている。
中央の三体は依然、マイネと交戦を続けている。
「残りは任せた……ロレウ行くぞ!!」
ヴァンとロレウは周囲の残った守護者を他の仲間に頼み、中央の三体に接近しながら同時に三体の様子を窺う。
三体の中でも特に大きい守護者は、人族の慨嘆した面容。
六本の腕に弓矢を番え、残りの腕で斧、矛、剣を持っている。
間違いなく三体の中で一番危険な相手だ。
他の二体のうちの一体は、白髪の老翁で左手に車輪、右手に扇子を持っており、車輪は射出し扇子は風の刃を発生させているため、遠距離タイプだと判断する。
もう一体は、髭を生やした大男……。
手に大きなツボと丸い雷を帯びた石を持っており、水系と雷系の攻撃を行っておりこちらも遠距離タイプと判断した。
他二体が遠距離攻撃で支援、大きな個体が近接戦特化という組み合わせのようだ。
ならば、自分たちがやることは……。
(老爺の方を俺たち二人でやる。髭の方はあの巨人族の人達に任せよう)
俺はロレウにそう伝え、分身を増やしながら回り込み始める。
巨人族の二人は後ろが片づき、中央に向かっているところでロレウから念話で合図を送ってもらった。
了解したらしく巨人族は向きを変え、もう一体の髭を生やした方に方向を変えた。
すると頭の中にマイネと思われるものから念話が入る。
(中央ガ
やっぱりそうか!
今の念話で自分の仮説を正しいと証明してくれた。
こちらのやろうとしていることを把握している。
じゃあお言葉に甘えて。
素早く分身を展開し、雄たけびを上げ、風伯に挑みかかる。
そんなヴァンを見てロレウは開花した第三王子に、この身を心から捧げる覚悟がようやくできた。
第三王子と初めて接触したのは今から八年前、まだ七歳だったロレウだが、母からすでに様々な教育を受けていた。
母はこの国の女王カルノアの直属部隊「六花」のメンバーで、側近として活躍している。
私をゆくゆくは自分の跡を継がせようと考えていたようで、王族を守護する要職に就かせるべく私が物心がついた頃にはすでに様々な教育を施されていた。
私は、小さい頃から同じ年代の子ども達に比べ、あまりにも能力に差が出始めた。
そんな私に母は同じ年という理由で第三王子の護衛兼世話係を命じた……。
第三王子はしばらく世話をして気づいたが、
ただ、欠点といえば、生来の“面倒臭がり”であまり自分で何もやりたがらない。
もし、誰の目も気にする必要が無くなれば、恐らく自室に籠って好きな本を思いのまま読み耽り、外に出てこなくなるタイプだ……。
他人の目を気にしないでいいところでは、どこまでも私に甘えてくる。
そんなどこまでも、面倒くさがりで国政に関わる気などさらさらない彼は十六歳の成人を迎えたらこの国を何か理由をつけて出ていくつもりだろう。
……私にとってはそれでは困る。
母の意向に沿わないし、私だって王族から出奔した王子に付き従うのはご免
かといってそのまま国に残っても王位継承権は第三位。
彼の才覚でその気になれば、兄二人の年上という優位性など無いに等しい。
ロンメル高等技術学院に入学して、半年……何とかその気になってもらえないか色々と考えてみたが、彼はもう次の人生を夢見るように他の生徒に他国の情報をしきりに聞いて回っていた……。
私は半ば諦めていた……彼の心を振り向かせ……その
だが、彼の意志は
……それは私の望む方向のものではないのかもしれない……。
しかし、彼に忠誠を尽くすべき資格があることは随分と前から知っている。
あとは意識の問題だけだったのだ……。
自分の命ある限り彼を支えよう……。
そう強く思った時に右手の甲が光を帯び始め、天使エッダ様から直々に「啓示」を受けた。
彼は……そして私は決して間違っていないのだ。
あとは付き従い、彼の意志に従い私は彼の剣となり盾となり、突き進むのみ……。
私は一段と声を張り上げ、目の前のかつてない強敵に立ち向かう。
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