Chapter 031 一斉同時攻略(後半)


【D班:オニギリ・ドクター班】


「オニギリ氏、準備はいいか?」

「あいや、待たれよ、ドクター殿! 拙者まだ心の準備ができておらぬでござる。」

「そっか、よし、突撃~!!」


 この一週間、オニギリ氏の性格を熟知したつもりだ……。

 何をするにしても優柔不断で自分で物事を決めることができない。

 いつまでも悩み続けられる……。


 昨日、鬼人族の自分の二つ年上の兄が優柔不断で困っていると愚痴をこぼしていた。

 いやいや、お前もそうなんだが? と何度ツッコみを入れようと思ったことか……。


 吾輩もあまり積極的な方ではないが、さすがにオニギリ氏とペアを組むと色々とこちらが判断に迫られてしまう。


 しかしもう慣れっこになってしまった。

 まあこれも吾輩の成長というものだろう。



 塔の中に侵入した吾輩達を三色の虎が出迎えてくれた。


 いや、そんないいのに……こんな大層な〝おもてなし〟なんてしてくれなくても……。

 よければ寝ててくれたら良かったのだが……。


 炎虎、水虎、雷虎の赤、青、黄色の虎とこれまた属性がはっきりわかるを色していて、


 左右に広がってじりじりと間合いをつめてくる。


 うむ……この時点で知性を感じる。

 ちょっと厄介かな?


 しかし、まぁやることは最初から決まっている。


 着ているラボコートの内側に大量に忍ばせていた円筒形のガラス瓶を三匹それぞれに投げつける。


 一本目が虎に触れた瞬間、鋭い光と爆風が巻き起こる。

 煙が薄くなってくると爆発地点の虎の魔物の黄色が多少傷つき、水色は瀕死、赤はピンピンしている。


 追加を放り込む……またも爆発が起きる。


(この際だ、何本まで持つか試してみるか?)


 三セット目を取り出そうとしたところで赤色の炎虎が煙を縫って、横から飛び出してきた。

 やっぱり、火属性の魔物には燃焼系の爆弾は効きが悪いようだ……。


 吾輩に向かって来た炎虎へオニギリが前に立ちはだかり、袈裟切りで一刀のもとに沈めた。

 煙がなくなると残りは二体は、もう消失した後だった。


 そのまま上層に上がり、四凶窮奇きゅうきと対峙する。

 見た目は大きな黒い牛で、頭部には大きな二本の角が生えて全身針に覆われており、素手では触れなさそうだ……。

 多少の知性を兼ね備えているのか、こちらの様子を窺っているようにも見える。


 問答無用、時間が限られている。そのまま戦闘に突入する。

 先ほどと同じパターンで、円筒形のガラス瓶に入った爆薬を数本投げつける。

 爆風が拡がる。更に追加を投げつける。


『──っ』

『ドォォン』──ガラス瓶が放物線状を描いている途中で爆発した。


 吹き飛ばされ、床に這いつくばる。

 

(痛い……)


 身体中が火傷を負ってしまった。いったい何が起きた?


 回復薬を急ぎ服用しつつ、状況を確認する。

 前方では、オニギリのスキル【火箭】による幾条もの火の光線と、窮奇きゅうきの身体から生えている針が、束になってオニギリに向かって発射されていて途中、火矢と毛針が衝突し激しく火花を散らして霧散していく。

 先ほどはこの毛針でガラス瓶を迎撃、誘発されてしまったようだ……。


 最初の爆発で、窮奇の身体はかなりダメージがあったらしく、特に足の部分の損傷が大きくその場からほとんど動けなさそうだ。

 この様子なら予想されていた大きな角による“突撃”は無さそうだ。


「鼻を狙えっ!」


 【鑑定】により得た弱点を大声でオニギリに伝える。


 オニギリは火箭による応酬をやめ、左右ステップしながら毛針を避けつつ、距離を縮めて窮奇きゅうきの鼻を刃で切り裂く。


 断末魔とともに倒れ、やがて黒い煙となって霧散した。


 <D班任務完了>















【E班:ミラー・プリンス班】


 ザシュッ、グシャッ 


「ふう……あと何体いると思う? 兄弟?」

「無尽蔵かもしれん、先に饕餮とうてつを始末すればよかった」


 ミラーとプリンスは塔の上層で饕餮が咆哮で呼び出す狼を延々と倒し続けていた。

 数が多いため、囲まれることを嫌った俺は、狼を片付けてから饕餮を討とうと考えたが、どうやら判断ミスだったらしい。


 しかし、だからと言って不利という訳でもなくむしろこちらが圧倒していた。


 プリンスの【幻霧】とミラーの【分身】のコンボ多重効果ははっきり言って敵からすると悪夢以外の何物でもないだろう……。


 目標を饕餮に切り替えたところ、相手もそれに気づき咆哮によるチャージをやめ戦闘に加わる。

 凄い速度で、移動しつつプリンスが生みだした幻による俺たちの姿を次々とかき消していく。


 が……途中で動きを止めた。

 途中でプリンスに狼達をミラーの姿に見えるようにしてくれとに伝えたのだ。


 すると、饕餮はもう学習したのかプリンスの姿だけを襲い始めた。

 しかし、その間にもプリンスの姿をした俺のスキル【分身】達もミラーの姿をした狼を始末していく。

 プリンスの姿をしたものが一番後方で控えていたもの一人になってしまった。

 いうなれば本体プリンスだ……。


 饕餮とうてつと俺の姿をした残りの狼が一斉にプリンス本体に飛び掛かる。


『ドドドドドドッ!』──四方の仲間であるはずの狼達から突然、何重もの打撃を浴びせられ、饕餮とうてつは何が起きているのかわからないまま、そのばで倒れ伏す。


 饕餮が倒れても周囲は容赦しない……。

 そのまま、黒い霧となるまで攻撃の手は緩まなかった。


 実は途中、狼をミラーの姿に見えるようにしたのは、知性の高い饕餮が、俺=狼(仲間)というパターンをすぐに学習するであろうことを逆手に取ったのだ!!


 その上で、狼だけをミラーの姿をした分身たちが始末していき、残るは饕餮と、狼だと勘違いした【分身】達だけになり、最後に周囲の【分身】達が油断している饕餮を袋叩きにした。


 まあ、なまじ知性があるから引っかかる策なんだけどね……。


 ミラーはプリンスとすぐに塔を出て中心地に向かった。


 <E班任務完了>




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