Chapter 030 一斉同時攻略(前半)


【B班:ローズ、シャワー班】


「では行きますわよ!!」

「いいよ! サクッと終わらせましょう」


 ローズとシャワーは、四凶【渾沌こんとん】討伐のため、四本の塔のうちの一つに突入した。

 入口から入ると中は床も壁も真っ白で何もない殺風景な部屋が一つあるのみだった。

 入口に対面、奥側から塔の形状に沿って螺旋状に延びた階段があるだけだった。


 大きな咆哮が上層より聞こえた。


 その後すぐにリンと呼ばれる渾沌こんとんの眷属が上層に繋がる階段から大量に降りてくる。

 眷属の情報もあらかじめ、初代学院長ザ・ナートから聞いていた。


 犬系の魔物……大型犬くらいの体躯の塊が群れで襲ってくる。

 階段を降りきる前に手前まで到着したローズは、特殊系スキル【具現】により投網を作りだし、まだ階段を降りきっていない群れの先頭付近に放り投げる。


 ──掛かった。

 すかさず、シャワーが入口付近からすでに練り始めていた一週間前と比べ格段と強化された【水弾】を大量に撃ち込む。


 網に掛かった魔物は大方は今ので倒せたが、階段の途中からジャンプして逃れたものや、後続の“リン”が網を踏み越えて、こちらに跳躍して襲い掛かる。


 階段から飛び掛かってきたものはローズが細剣で切り伏せていく。

 階段の横から飛び退き廻り込もうとしたものは、シャワーの【水蛇】がリンの足元に這いより絡めとる。


 時間にして、数分でリンを全滅させた。

 下の層で拡がって包囲されたら、時間がかなり掛かっただろう。

 想力を一気に消耗したため、戦いながらもイメージビタミンVを服用したため、エネルギー切れになることはなかった。

 上層に上がると、また対面上に同じ構造で上り階段があったが、この層は特に何も出てこなかった。

 更に上がっていき同じ構造が続き五層目に渾沌こんとんがうつ伏せのまま侵入者へ唸り声をあげる。


 体高は約二メートル、長い毛で覆われ地面に垂れ下がっており、目も鼻も耳さえはっきりしない。

 犬の魔物だと聞いていたが、毛むくじゃらの塊にしか見えない。


「なんかモサモサしててちょっと可愛い」


 その毛むくじゃらを見て、シャワーが戯言をほざくがローズは完全無視シカトを決め込む。

 渾沌こんとんが大きな咆哮をあげる。


 ……口ってあったんだ……。

 咆哮と同時に渾沌の前に黒い無数の渦が現れ、中からまたリンが大量に発生する。

 これは本体を早めに叩かないといけないパターンだ!!


 事前に立てていた作戦を行動に移す。

 目の前のリンを倒しつつ、事前に準備してあった油のガラス瓶を渾沌の周囲に投げつけ瓶を割り、油をまき散らしていく。


 撒き終わったら次の咆哮のためチャージ中の渾沌のそばにスキル【具現】で作った火のついた松明を投げ入れ、辺りを業火に包みこみ、渾沌が悲鳴を上げる。


 そこにシャワーが特大の水球を打ち込む。

 大爆発が起き、渾沌は跡形もなく吹き飛んだ。

 周囲に残っていた“リン”も吹き飛び動くものはいなくなっていた。


 階段の近くまで避難していた二人は、ローズが作った硬岩でできた防爆壁の中でやり過ごした。


(B班任務完了)














【C班:シュート・タワー班】


「……」

「わかった、いこう」


 相棒タワーは人より背が抜きん出ていることから名づけられた名前だが、普段からぼっ~としているところから「」という揶揄した意味も含まれているらしい。

 だが本人は一切言葉をしゃべらないため、このニックネームのことを良しとしているのか定かではない。


 しかし、この俺ことシュートは、この一週間で相棒……タワーの心の声が聞き取れるようになった。


 ちなみに彼だけは俺を心の声で「シューティング・スター」とちゃんと呼んでくれる。


 ちなみに、昨日夕食の後のほんの少しの休憩の時間、俺がタワーと愉快そうに会話しているとミラーとドクターが気味悪そうに俺たちを見ていた……失礼な奴らだ……。


 突入した塔の下層にとうこつがいきなり待ち構えて襲ってきた。

 他に魔物はいない。


 おいおい、ボスは一番奥にいるのが普通だろ? 

 いきなり出てくるなんてえらく喧嘩っ早くないか……。


 醜悪な人面に、虎の身体で鋭い爪と恐ろしく長い尾を持ち、尾を鞭をしならせて攻撃を仕掛けてくる。


「……」

「オッケー」


 タワーから合図があり、通常とは逆のタワーが後方。普段は後方担当のシューティング・スターが前に出る。

 これまで遠距離が武器で近接に持ち込まれると、まったく役立たずだった俺はこの一週間で生まれ変わったのだ……。


 以前は両手の親指にためて撃ち出していた特殊系スキル【指弾】だが、今はエネルギースキル【鉄】で生み出したビー玉くらいの鉄の球を目の前にばらまき浮かせた瞬間に、十発ほぼ同時に撃ち込む俺の必殺技【散弾ショットガン】を生み出した。


 他にも単発だが曲線を描いて対象物に当てる【曲弾アーティスティック】や先に撃った複数の固めた遅弾に威力を高めた高速弾を対象物の近くで当てて、爆発させる【砲弾キャノンショット】など新技を編み出し磨いてきた。


 それらを駆使し、多少のダメージを与え俺に注意を向けるようにしながら、立ち位置を横にずらしていく……。


『ドゴオォォン!』──決まった。


 タワーの長い“タメ”により蓄積したスキル【剛力】のパワーをそのまま右肩に構えていた金棒に伝え、とうこつの真横でフルスイングすると爆発が起きる。


 とうこつは肉片とともに壁に吹き飛びやがて黒い霧となって、消失した。


「やったなタワー」

「……」

「え、お前の手柄だって……シュートが引きつけてくれなかったら倒せなかった? よせよ~照れるだろ相棒!」


 シュートとタワーの今の会話をミラーとドクターが聞いたら恐らくまた不気味な視線を送ることだろう。


(C班任務完了)




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