Chapter 026 初代学院長ねぇ……


「おいおいミラー氏らしくもない。No3(プリンス)の挑発に乗るなんて……それとも初代学院長に何か言われたのか?」


 俺にそう聞いてきたのは、先ほどお昼時間に研究室から無理やり引きずり出されてきたもう一人の仲のよい学友「ドクター」。


 こいつは、基本、人に対する興味が薄く生活面でもなんだか頼りない、ひたすら研究に明け暮れる生粋の”研究バカ”ってヤツだ。そんなドクターは、珍しく俺の行動に関心を寄せている。これまでの俺の行動パターンと明らかに真逆の行動を取ろうとしているからだ。その関心の先には、俺をあの耳打ちでこんなに変えた初代学院長に向けられている。


 俺が耳打ちされたのは……。


「ヴァン君、適度に負けたらダメだよ……でも目立ちたくはないでしょ? だったら、って感じで勝ってみてごらん」


 耳打ちされた途端、俺はゾッとして身体中、鳥肌が立ってしまった。

 まず、俺の本名は教師の中でも一部のものしか知らない。開示条件が厳しく、いくら伝説の初代学院長といえども、強権を振るっても入手できるか怪しい。


 次に、俺が適度に負けてみせようとしたところを、ことだ。

 俺は幼少の頃から、ずっと、自分の能力を誰にも知られないようずっと隠し通してきた。


 理由は、第三王子が上の兄達を差しおいて、末弟が異常に高性能ハイスペックだったら本人にどんなにその気がなくても周囲が色めき立って、時が来ると、いつの間にか?担がれてしまう?──。

 なんとなく小さい頃からそれが分かっていたからひた隠しにしていたことだ。

 まあ母親カルノアには見抜かれていた節はあったが、このことについて直接触れてきたことは一度もなかった。


 いつだって目立たないように、でもオルズベク家の恥とならないように“それなり”になるように何でも “適度” になるように考え、計算し、常に行動している。

 それすらも見透かされてしまった。


 あと、「たまたま勝てましたって感じ…」とは、No3(プリンス)とその仲間二人、俺を含めたシュート、ドクターの個々の能力と組み合わせ、相性を相対的に見て、俺だけの能力ちからや才覚だけで全力を出さずとも偶然を装って勝ちの方向に持って行けるとして、それを俺に伝えてきたことだ。


 これは、彼我の力量差が生む俺の感覚の“ズレ”なのだろうか? ……いや、根本的に何か“違う”気がする……。


 そのように、俺の能力面の伏せていたカードのことごとくを見透かしてきた初代学院長ザ・ナートがそう望むならそうせざるを得ない。


「いや、何でもない……全力を出し切りなさいって言われただけだ」


 俺の「面倒臭がり」はドクターやシュートはもちろん知っている事実だけに「ふーん」とドクターは完全には納得できないもののどこかひっかかる様子で、首を傾げる。


「まぁ、いい、それでどうやって、あの王子様に挑むんだ? はっきり言って戦力差は大きいぞ?」

「いや、簡単な話だ……。今から説明するから、ここにピッタリくっつくように集まってくれ」


 二人にそう伝えると、三人で輪になり屈んで、俺が実技場の地面に各配置図を書きつつ具体的な作戦の内容については言葉にすることをなるべく避けて二人に説明していく


 










「どうだい? 聞こえるかい?」

「はい、聞こえはしますが、でも具体的な内容は地面に書いているみたいでどういった作戦を練ってるのかは言葉だけではよく分かりません」


 第三番ことプリンスは仲間の一人に尋ねるが、スキル【盗聴ワイヤタップ】を使っている仲間は首を横に振る。


「ふむ、相変わらず悪知恵のまわるヤツだね…… 我が愛しの未来の花嫁ノビリスにあの悪知恵で近づいたんだな……不届きもの過ぎて彼を見てると常に不愉快だよ」


 いや、アンタも大概だけどねっと、仲間二人は心の中で思ったが、プリンスは入学前からこの二人と知り合いらしく、やけに彼に対して、へりくだった態度で接している。


 プリンス自体の普段の態度や言動と、彼の仲間二人のこの対応から某国の王子ではないか?との噂が流れてこういったニックネームになったというわけだった。



「それでは ルールを説明する」


「三対三の模擬戦で武器、道具の使用は禁止、想力の使用は可能、ただし殺傷能力の高いスキルは控えるように… 勝利条件は、『サークルから相手三人を出す』、『?参った?と言わせる』、『相手三人とも膝をつかせるか床に転ばせる』になる。制限時間内に決着がつかなった場合は引き分けとする。以上だが何か質問はあるか?」


「はい先生」

「なんだNo8?」

「アイタタ!!ちょっと砂埃すなぼこりが目に入ったみたいで取っていいですか?」

「……ああ、早くしろ」


 目を擦っているフリをしているとノビリスが、水を染み込ませたハンカチを手渡してくれた。

 取れたフリをして、お礼を伝えてハンカチを返す。


「先生、目から砂が取れたみたいです」

「あぁ、良かったな……。じゃあ始めるぞ?」

「お願いしまーす」


「それでは始め!!」


 開始の合図と同時に。


「きっ貴様ぁぁぁぁぁっ!!」


 頭に血が昇ったプリンスががむしゃらにノープランで俺に突撃してくる。

 頭に血が昇った相手なんて、行動が単純で動きも単調、はっきり言って、頭に血が昇った時点でプリンスの負けが確定する。


 突撃してきたプリンスを転がし、動きを封じ、三人で袋叩きにする……。

 はい、いっちょあがり!!


 俺はすぐに最大戦力であるプリンスを失った残りの二人に目を向けるとプリンスの仲間二人が同時に手をあげ“参った”と宣言した。

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