魔人族ヴァン、ロレウ編
Chapter 024 ロンメル高等技術学院
「ミラー、火閃薬ってこんなもんでいいかな?」
「そうだなぁ……んーまあ、それでいいんじゃないか」
俺は、調合の薬品の量を質問してきた学友に適量であることを確認して返事をした。
「おっ、うまくいった……じゃあこれを教授に提出してくるよ」
「あぁ、シュート頼むよ……まったく調合の実験にアイツがいないなんて、とんだ計算違いだよ」
「ホントだよドクターのヤツ、初歩的でつまらんって理由で欠席するか普通?」
俺がシュートと呼んだ青年が、実験室の黒板の前で腰かけている教授に今、出来上がった調合薬を提出するため席を立った。
俺はミラーと呼ばれたが、本当の名前はヴァン=オルズべク……。オルズベク皇国の第三王子にあたる。
「皇国」だが第一継承権の長男だけ「皇子」で次男と三男の俺は母国では王子と呼ばれている。
現在、俺は西大陸の最北に位置するビルドア帝国の首都ビヨールにある、この世界の最高学府にあたる「ロンメル高等技術学院」で学院生として、在籍している。
なぜ「ミラー」と呼ばれているかだが、この学院の教育方針が“完全実力至上主義”で多種のスキル等の修得、研究を目的とした全寮制の学院となっている。
そのため、入学時点の成績順で各自に番号が割り振られ、学年と番号のみで互いを呼び合うことが規則となっている。
氏名、身分等一切、素性を明かしてはならず、破った者は場合によっては退学処分もあり得る厳しさだ。
例えば、俺は
見た目で誰かがわかるのでは? と思うだろうがこの学院では工夫が施されている。
学院内では常に、頭部に
ロンメル高等技術学院は今年、ちょうど創立百年目の節目の年に当たるが、学院を創設した当時の学院長により、このスキルを発動させたそうだ。
現在ではそのスキルは失われ、
でもまぁ、そうは言っても互いを番号で呼び合うのは、学生内では到底馴染むものではない……。
先輩達の代から連綿と続く習慣……。
教授達には内緒でこっそりニックネームをつけて呼び合っている。
俺は相手に合わせてコロコロと対応や話し方を変えるのだが、そんな俺を見て誰かが、相手の鏡のようだと言いだして、この妙なニックネームが付けられた。
あと、先ほどシュートと呼ばれた学友は、自称パターンで
「教授から合格出たよ~、俺たちだけ先に昼メシ行こうぜっ」
「おう、ドクターはどうする?」
「ほっとけ、また研究室でブツブツ言って何かに没頭している頃だと思うから、午後の実技前に呼びに行こう」
シュートが提出物を教授に見せて合格を貰ったので、他の人達より一足先に食堂に昼食に行くことになったので、二人で席を立った。
食堂に着くと、まだお昼前なので、いつも満杯で座席確保に苦労するが、今日は割と席は埋まっていない。肉メニューのレーンに並び、食事を受け取り、適当に腰かけようとしたところで声を掛けられた。
「ミラーさん、こっちこっち!!」
見ると、食堂の窓側に女子が四人掛けのテーブルに二人座っていて、そのうちの一人がこちらに軽く手を振って合図している。
「二人とも早いね、もう終わったんだ?」
俺とシュートは、彼女達の向かいに腰かけながら話しかけた。
「まあね、なんていったってうちの班には
「あははっ、シャワーさんがそれを言う?」
「いいじゃん、親友なんだし、ね? ノビリス?」
「うん、そうだね……シャワーがそばにいてくれるから私はいつもすごく助かってるからお勉強の方は任せて」
顔にはモザイク、声も変声しているが、彼女の漂う気品と顔以外の容姿から、彼女がとてつもない美麗な顔つきであることは誰でも容易に想像がついてしまう。男子学生の憧れのマドンナで高嶺の花という意味合いからノビリスと呼ばれるようになった。
シャワーさんの方は、いつもノビリスのそばにくっついていて、変な虫がノビリスに近づかないよう彼女を守る番犬のような存在で、雨のように降り注ぐような言葉で、まくしたてて次々と撃墜していくので、ついたあだ名が『シャワー』。
先ほどから、シュートは頬を少し赤く染め、黙々と自分の食事を口に運んでいる。会話どころかノビリスに目を向けようともしない。
ノビリスも会話が少ないため、この組み合わせだと、自然の流れでミラーとシャワーさんがメインでおしゃべりすることになる。
(ヴァン様、午後は予定通り実技に出られるのでしょうか?)
俺の頭の中で声が響く
(ああ、早く食事を済ませてドクターを引きずり出さないと俺まで午後遅刻しそうだよ)
(わかりました)
「シャワー、そろそろ午後の実技のために着替えに行こっか?」
念話での会話が終わると、ノビリスがシャワーに向かって声を掛ける。
シャワーもそれに応えて、俺たちに「じゃあ後でね」と声を掛けて 二人席を立った。
「うわー、何回会っても緊張するぅ、お前の妹やばすぎだろ?」
「そうか? 妹だからよく分からん」
ノビリスこと、本名「ロレウ」は実は、オルズベク皇国から派遣された俺の学院内での護衛任務に当たっているが、普段は学友として接している。
護衛の関係で、どうしても距離が近すぎてしまうことがあるため、両者の親しい学友たちには「実は兄妹だけど秘密ね」という設定を吹き込み理解してもらっている。
「よし、じゃあ、そろそろあの
結構、面倒くさいが止むをえない。
食事を終え、もう一人の学友を呼びにシュートとともに食堂から研究室のある棟へ移動を始めた。
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