Chapter 014 一直線


 山林国ケルウッドの首都カプラルを出て翌日のお昼頃に無事、サブクエストの目的地であるサッシュ村に到着した。


 ここまでの道中は特に何事もなく配達依頼品を無事引き渡しが完了した。

 今回、着払い方式だったので依頼主から直接成功報酬を受け取る。


 サブクエストを終えたので、今回の旅程の本依頼の目的地である名前のついていない山村に向かおうとサッシュ村の北側の出入り口に向かい始めた。


「キャーッ」──大分離れたところで悲鳴が聞こえたので、立ち止まり様子を見る。

 すると、ここより少し離れた村の東の方で黒い煙が立ちのぼり始めたのが確認できた。


「ねぇ、テラフ~ちょっと様子見てきていい?」

「わかった、俺たちも向かうが先に様子を見てきてくれ」

「うん、わかった~」

「ただし、危ないと思ったらすぐに引き返して俺たちと合流することが条件だぞ?」

「オッケ~! 行ってきま~す」


 マカロニはそう返事をすると煙のあがった方向に軽やかに建物などの遮蔽物にかまわず、ほぼ一直線に移動をはじめ、すぐに姿が見えなくなった。


「──なぜアイツはまっすぐ行くんだ? ヒルメイ?」

「え? 私にそんなこと聞かれても……」


 ヒルメイは、自然魔法系の妖精術士フェアリーテイマーで、その場にいる自然に宿る妖精と交信し、その力を借り受けて魔法を発動するタイプの術士だ。

 大きなメガネを掛けていて、服装は緑色の多少皮で補強されたローブととんがり帽子をかぶり、手には何も持っておらず、割と大きいリュックを背負っている。


 あまり人と会話することが苦手だということで交渉事はもっぱら俺……テラフが担当している。


 まあ、もうひとりいるが、そいつに交渉させると俺たちまで何かの巻き添えを食らってしまう。


 来た道を引き返して、東側に伸びる道の交差した部分に差し掛かったあたりで 太った中年の男が息を切らしながらこちらに走り寄ってくるのが見えた。


「ゼェゼェ……あんた達、荷物を配達に来た冒険者だろう?」

「ああ、そうだが」

「頼む、村を助けてくれっ」

「向こうで起きてる騒ぎのことでいいかい?」


「あぁ、私はサッシュ村の村長をしているものなんだが……」


 中年の男はこのサッシュ村の村長を名乗り、早口で要件を勝手に喋り出す。


「最近この近くを根城にし始めた山賊に村の東側にある私の隣の家が襲われて、そこの娘が人質にされていて、『この街の工芸品のランタンに使う燐光ルミナス石を全部出せ』と近くの小屋に火をつけたり他の村の者を威嚇して暴れているんだ」


「わかった。娘さんの救出依頼ってことで、報酬は後でそれなりに頂くことにしよう。時間がないからそれでいいか?」


「よろしく頼む」


 村長へ最低限の確認を取り、依頼として受諾する。


 ラッキー!! 

 どうせ今頃、アイツがなんとかしてる頃だろ?


 俺とヒルメイは二人で急ぎ、東側の襲撃されている現場に向かった。


 







 俺とヒルメイが現場に到着した時には予想通り騒ぎは解決していた。


 うん、騒ぎは解決している確かに……。

 だが、見渡すとマカロニが元気に「こっちだよー」って、手を振っている以外は山賊、人質、他の村人問わず全員その場で倒れている。  


 これだからコイツは……。


 片手でこめかみを押さえながら、そこらに転がっている山賊に近づき、縛り上げていく。


 以前も使ったのを見たことがあるがその時は大事には至らなかったが問題である。

 マカロニがしたのは、おそらく【呪奏カースリサイタル】。


 演奏することで、奏者以外の周囲のものに効果があるやつで、今回は周囲を昏倒させる【呪奏:夢路】を使ったようだが、いささか乱暴なやり方だ。

 人質や村人が倒れこむ際、頭を打ったりなどしてなければいいのだが……。


「マカロニ、今回もやりすぎだ!」

「あれー? だってこの人達全員仲間だよ!」


(え? どういうことだ?)


 







 神の箱庭で画面を「じーっ」とみている神物じんぶつがいる。


 おっ!! 面白そうな子、みっけ!?

 ある村で例の高エネルギーを検知したから覗いてみたらやっぱり「なり得る」子を発見!!


 ふーん……小人族のマカロニ君って言うのかぁ。

 これは観てて、飽きなさそうだわ。

 しばらくこの子を追いかけよっと。


 はい、ポチっとな!!


 









 俺は、マカロニになぜ全員がグルと思ったのかを問いだしてみた。


「だって、僕が屋根伝いに来た時、皆でこれから来る冒険者にどうやって騙すのかを打ち合わせしてたよ?」


 あーなるほど……。

 こいつら道沿いに見張りを立てて、俺たちが来るのを見計らって何かしら演技をして騙そうとしてたってことか……。


 それをほぼ一直線に来て屋根の上に登った変わったマカロニを見落としてベラベラとしゃべってたってオチか……。


 でも、なんのためだ?


 山賊役の男をひとり蹴り飛ばして無理矢理起こし、急いでちょっとハードな尋問にかける。


 その間、ヒルメイには妖精魔法でこれ以上ここに人が近づかないよう、通ってきた道に【土壁】を作ってもらった。


 山賊役の男は、拷問に一瞬で耐え切れず、すぐに白状しはじめた。


 内容としては、工芸品であるランタンは他の国の貴族とかにも非常に高価で売買できるらしいが、その火元となる“燐光ルミナス石”もまた高価なので、このケルウッド国がランタンを買い取ることを条件にすごく安値で国が提供してくれるらしく、そこに目をつけたさっきの村長、たぬき親父・・・・・が村民に提案したらしい。


 あの村長。結構のワルらしく、ケルウッド国とのパイプが自分にしかないことを良いことに“貢納品”と称して、村人に造らせた工芸品のランタンを集めて私腹を肥やしていたらしい。


 腹黒な村長は更に欲をかいて、加工したランタンをケルウッド国に戻さず、そのまま東側にある隣国パルンニの商人と直接取引しようとしていたらしい。


 今回、俺たちをこの村に配達依頼として呼び寄せたのは「よそ者の証人」が必要なので、一芝居打つことになったらしくこの連中は、全員村長に脅されてやったそうだ。 


 村人さん蹴って悪かったな……。

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