Chapter 015 森の散歩者



 いや~、しかし無事うまくいって良かった。

 テラフは数時間前のサッシュ村を発つ前の出来事を思い返した。


 サッシュ村では、他の村人たちを証人とし、悪党な村長を拘留し、俺たち森の散歩者名義の書状を同封してギルド本部に村の伝書鳩を飛ばしてもらった。

 明日の夕方にもギルド本部から別の冒険者があの「悪徳たぬき村長」の捕縛・連行の依頼で派遣されてくるだろう。


「ねぇねえ、テラフ~これみて?」

「うん? このキノコがどうかしたのか?」

「このキノコの近くにはね~『オロバス』っていう心の抵抗が上がる花が咲いてる可能性が高いよ~」


 日が少し傾き始めた頃、道端にあるキノコを見つけて、マカロニが声を掛けて来た。

 しかし、サブクエストを受けたサッシュ村で思いがけないハプニングで予定よりかなり時間を要してしまい、俺の見立てより少し遅れてしまっている。


「どれくらいレアなんだ?」

「花の大きさにもよるけど、売ると大体1~2大ゴルドくらいになると思うよ」

「よし、すぐに行くのだマカロニよっ!」


 俺はすぐに方針を見直す。

 いいのだ。

 依頼主を待たせず、かつ短時間で稼げる仕事。

 でも探すのに時間が掛かったら洒落にならない。


「ちなみに探すのに時間はどれくらいだ?」

「うん、あってもなくても、多分そんなに時間は掛からないよ」


 無い場合もあるのか……まあ自然に生えてる花だもんな。

 遅延のリスクと優秀な斥候の提案。

 俺は心の中で天秤にかけたら「ズドンッ」と傾いた。


「わかった、じゃあ、探そう」


 しかし、皆で手分けして探すのか?


「俺たちと一緒に探すのとひとりで探すのはどっちが効率がいい?」

「ヒルメイさんに手伝ってもらった方が早いよ~」

「そうかじゃあ俺も……」

「でもテラフは、こういう探しものだと足手まとい」

「おまえ……はっきりモノ言い過ぎなの直せないのか?」

「なんで~本当の事だよ~」

「まったく……じゃあ俺はここで野営の準備を始めとくからチャチャっと探してきてくれ」

「オッケ~、じゃあヒルメイさん行こうよ」


 これまで黙々と俺達二人に挟まれて歩いていた妖精術士フェアリーテイマーのヒルメイは肩を震わせてマカロニの声に反応する。


「えっ? あ、はい!」


 聞いていなかったの? 

 俺達の今の話……。












「あの~、それで私は何をすればいいんですか?」


 ヒルメイは少しおどおどと目の前の斥候に質問する。

 これまでテラフと三人で組んでいて、マカロニと二人で行動するのは初めてだ。


「うん、ちょっと待ってね~……あの辺でいいかな?」


 マカロニは先程から木の上に登ったり、地面に手をつけたり何かゴソゴソとやっていたが何か手がかりを得たのか少し先の木が三本並んでいる場所を指差す。


「あそこで森の妖精さんに訊いてくれる?」

 マカロニの話は森のこの辺りにいる妖精と交信を行い、「妖精の輪フェアリーリング」という居場所がないか尋ねてくれとのことだった。


 ヒルメイは、マカロニに示された三本の木の前に立ち、目を瞑り森に住まう妖精たちに語り掛ける。

 すると、ヒルメイの声に耳を傾けてくれた妖精たちが木々や花たちと舞いながら囁き始める。

 モゾモゾと周辺の花や草が少しだけ傾きはじめ、全体的にある方向を指し示す。


 そこに向かうと木々が生えてなく少し開けた場所が広がっており、先ほど道端で見つけたキノコが円環上に連なって生えていて、その真ん中に紫色の花が咲いている。


「あった~やっぱり妖精さん達に聞くのが手っ取り早くて助かるね~」


 マカロニの無邪気な声にヒルメイは役にたててよかったと胸を撫でおろした。


 日が落ち始め辺りが薄暗くなってきている。

 紫色の花を回収し、素早く野営地に引き返す。

 

 戻る途中、野営地と決めた場所の方角から剣檄音が聞こえてきた。


「ヒルメイさん、妖精さん達を喚び出して~」

「はい?」

「それで自分を守りながら追いかけてきてね~」


 そういうと、マカロニは、素早い身のこなしで木々を抜けて先の方に消えていった。


「置いてかれた……」


 暗くなり始めた森の中に一人取り残され多少、ショックを隠せないがマカロニの言うことは常に的確で無駄がない。今回はテラフが優先と判断したんだろう。


 ヒルメイはマカロニに言われた通り、樹や花、草の妖精と交信して、草木人形グリーンドールを二体造り、自分の前後に立たせてから前に進み始めた。  










 マカロニは、戦いの音が響く場所へ到着した瞬間、やや小ぶりの細剣レイピアを抜き放ち、マカロニに小剣を振り下ろそうと肉薄してきた小鬼ゴブリンの右眼に突き刺し、まわり込むように背後に置き去りにして次の獲物を仕留める。


 周囲の状況は、テラフがハンドアクスを両手に構え、周囲の木をうまく利用し背後に死角を作らないようにしながら、目の前のゴブリンを切り裂いている。


 小鬼ならテラフ一人で問題は無かった。

 見たところ、残り二十体弱といったところだった。


 小鬼など、どんなに群れをなしても上級冒険者達の敵ではない。

 残り十体をきったところで背を向け、散り散りに逃走しはじめた。

 しかし、群れのボス、一回り体躯の大きいゴブリンリーダーは先ほどから捕捉していたので、背を向けたゴブリンリーダーに後頭部にナイフを投擲し、倒した。


 幸い、ヒルメイのいる場所とゴブリンが逃げた方向は違うので、彼女がゴブリンと鉢合わせになることは無いだろう。


 ゴブリンが黒い塵となって消失した後には、色見石カラーストーンというギルドで換金できる透明な小石が残り、それを拾い集めているとようやくヒルメイが野営地についた。


「マカロニさん、ヒドイですよ~置いていくなんて」

「ヒルメイさん、ごめんね~どんな魔物が相手かわからなかったら、テラフがやられてないか心配だったんだ~」

「俺がそんな簡単にやられる訳ねーだろ!!」


 マカロニが失礼なことを言うのでテラフは速攻で反論した。

 でもまあ、小鬼じゃなくて中鬼ホブゴブリンとか大鬼オーガ混じってたらちょっとヤバかったかも……。

 心配してくれてサンキュー、いや口には出さんけどな。


 テラフが心の中でブツブツと独り言をつぶやいてたらマカロニが手早く夕飯の支度をはじめた。


 コイツ……これまた器用な奴なんだ。


 普通、冒険者なんて旅の途中は携帯食を食べるか、せいぜい食糧持参で鍋で炒めたり、煮たり焼いたりするくらいなんだが、マカロニは森の中ではその場にあるものを食材にして料理して俺たちに提供してくれる。


 いつの間にか獲った鳥は、これまたいつのまにか羽毟りや血抜きの下処理がされていて、目の前であっという間に解体し携帯用の牛酪ぎゅうらくがしかれた鍋に入れ、先ほど生えていたキノコは食用だったらしく、ナイフで鮮やかにカットして投入し、火が通ったところで持参の酒と塩を足し、最後にこれも先ほど採ってきたであろう香草を載せ、“野鳥のキノコたっぷり牛酪焼き“が完成した。



 うわぁ……美味そう……じゅるっ。


 やっぱりコイツをパーティーに入れて正解だったな……。



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