Chapter 013 冒険者ギルド


「おはよう!! 今日も元気にいってみよ~!!」


 朝からご機嫌な挨拶で、俺……テラフとヒルメイに小人族が少し離れたところから大きくこちらに手を振っている。


 いつもご機嫌だけどコイツ、怒ったり機嫌悪くなることってあるのか?

 コイツとは三か月前に首都カプラルで俺たち「森の散歩者トレッキング」が所属する冒険者ギルドに強制クエストを発令された時に知り合ったんだが……。

 これがまた優秀なスカウトで今じゃウチの看板なんだが、コイツの癖がなぁ……。


 なんというか『おおらかで・・・・・すごく素直で・・・・・・とても正直・・・・・』なんだよなぁ……。  

 まぁ普通は「良い性格だね」って意味の誉め言葉なんだけど、コイツの場合、度が過ぎてて扱いが難しいんだ……。


 まず斥候担当なのに嘘をつかない……というかつけない・・・・

 ちょっと前に受けた依頼でも一部秘匿内容含みの依頼票ってヤツを受けたんだが……。依頼主に直接会って依頼内容の確認した時に依頼主の夫が自分の妻の浮気調査をしてくれって、なーんか面倒そうな内容だったんだがコイツは言ってしまった。


「まわりくどいから、直接奥さんに聞いた方がいいよ~!!」


 顔の青ざめたご主人に更に追い打ちをかける。


「ダメな場合は奥さんを諦めたらいいよ~。男女の仲は割れたガラスと一緒で元に戻らないんだって」


 ってさらっと告げちまった……。

 本人にだよ? 

 思っても言うか普通……。


 あと素直すぎて、すぐ騙されそうになる。


 俺たちと会うまでよく今まで無事にこの街で生きてこれたよなぁ……。 

 夜の街中で、近道だからって理由で何も考えずに路地裏にいつの間にか入っていきやがった。

 それで慌てて追いかけたらそこで変な奴に声をかけられてて、それもいちいち返事してるし……。


 金を貸してくれってロクでもない奴が近寄ってきた時も「いくら?」って返事するし……。

 本当に何考えてるのか、さっぱりわからん。

 以前、会ったことのある小人族の斥候は、こんなんじゃなかったんだよなー、やっぱりコイツが変わり者なんだと思う。


 あと、大事なところで敬語が使えない。

 多分、国王に謁見しても普通に友達のように話しかけるぞきっと……。


 まぁ、いろいろ愚痴ってみたが、やっぱりイイ奴で腕も確かだからパーティーに入ってもらったから……まあ今更なんだけどな。


 なんて事を考えながら俺とヒルメイ、マカロニの三人は冒険者ギルドの扉をくぐった。


 この国の冒険者ギルドの本部だけあって活気がある。

 まだ早朝なのに中は熱気が漂っていた。

 非冒険者斡旋所である日雇い部門も兼ねているので、冒険者では無さそうな一般人らしき人も結構、交じっている。

 俺たち森の散歩者は、顔見知りと挨拶を交わしながら冒険者専用の掲示板まで進み、今日から始まる依頼のついでに出来そうな依頼がないか確認していく。


「ねぇ、これなんてどうかな~?」


 横で掲示板を眺めていたマカロニがある依頼票を指差す。

 みると届け物の依頼で、所要日数は二日以内──。

 目的地は依頼受理済みのミルミウ山の麓の山村までの経路から少し迂回する形になるサッシュという村までの配達となっている。

 まあ半日くらいの遅れになるので、歩く速度と一日の移動を少し長くすればなんとかカバーできる範囲だ。


「これでいいんだな?」

 

   俺はマカロニに確認し、ヒルメイにも了解を取って冒険者パーティー「トレッキング」として、サブクエストを受けることにした。

 依頼票を掲示板から剥がして受付カウンターに向かうところで、つまらない声を掛けられた。


「おいおいテラフっ!! まーだ、その小人野郎を連れて歩いてんのかよ?」


 正直、あまり拝みたくないが、放っておくと違う方向で絡まれそうなので、声を掛けて来た連中に仕方なく顔を向ける。

 この連中は昔からこの冒険者ギルドを拠点にしている古参の三人組だが、三人とももれなく・・・・あまり人相がよろしくない。


「こいつは、これでもうちのパーティーの稼ぎ頭なんだ。あまり悪く言ってくれるな!」


「けっ、何が稼ぎ頭だ!」


 先頭の男がペッと横に唾を吐く。汚いな……。


「そんなチビっこいのが稼ぎ頭? 面白い冗談だぜテラフ?」


 男はそう言いながら、後ろで暇そうにしているマカロニをわざわざ首を傾けて覗く。


「魔物との戦闘になったら、テラフの後ろでブルブル震えて隠れておしっこ漏らしちゃうんだろっ! なぁチビ?」


 先頭に立っている男がそう言うと、その後ろで他の二人が後を追うように下品な声で笑ってくる。


「ううん、違うよ~僕もちゃんと戦ってるよ」


 声を掛けられたと思ってマカロニが口を開く。


「たぶん、オジさん達より戦えると思うよ!」

「テメェ……チビ! 今なんて言った? 俺たちよりお前の方が強いって言いてえのか?」


 うわぁ……コイツのこういうところが、イヤなんだ。


「おっと、失礼っ!」


 テラフは男達の視線を遮るようにマカロニの前に出てフォローする。


「こいつが言いたかったのは『僕はそんなに強くないから、皆さんみたいに魔物に対して手加減して勝てないから常に全力出してるんですぅぅぅ~~!』って、言いたかったんだ……」


 この説明はさすがに苦しいか? 

 苦しいよな。

 でも、まあいい。連中がキョトンとしてる間に先手を打つ。


「ああぁっ! そうだそうだ!! いかんいかん、依頼、依頼っと……じゃあな!!」


 後ろから険悪な視線を感じつつも足早に受付カウンターに行き、手続きを始める。隣にいたマカロニは不思議そうに俺に話しかけてくる。


「さっきのね~僕の方が、あのオジさん達より強いって意味で当たってるよ!!」

「いいから、お前は黙ってろ!!」


 以前、マカロニはあの連中にからかわれて、いつものように本音で返事したら、連中に何かと逆恨みされて絡まれているが本人はまったくその自覚がない。


「等級を照合・確認しました。それでは代表者の押印をどうぞ」


 依頼票の下にある押印欄に指を押し当てるとボウっと指が光って紋様が依頼票に浮かび上がる。


 不思議なもんだ。


 なんでも天使様からの天賜品【天眼鏡ルーペ】ってやつで付与されるものらしく、個人の識別とか等級の書き換えとかも更新できるから天使様ってこの世にいるってのが、この世界の常識だ。

 今回俺たちは常時パーティーだからメンバーを事前登録してるからパーティーの代表者である俺のみの押印でよかったんだが、臨時パーティーであれば、参加者全員の押印が必要となるから面倒だ。


 俺たちは、副依頼の受付を済ませ、街で準備を整え午前中に首都カプラルを出発した。

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