Chapter 011 斜陽に映える


「くっ……っ」


 意識を取り戻したトルケルは、ぼやけた視界が定まって見ると両脇を半ば持ち上げられながら他の二人に担がれ廊下を移動していた。

 その先ではミズナが、左脇に黒い玉を抱えたまま、先の部屋から廊下に走り寄ってきたパックマントード数体を右手に持った槍で一突きで片づけていく。

 左腕の斧槍で奪われた切断面を見ると、斥候担当の上着で切り裂き加工され止血されていた。


「……どうなった?」


 担いでくれている他二人に力の入ってない小さな声で尋ねた。

 先ほどの守護者の顛末のことを訊かれていると、少し間のあと気づいた斥候担当が返事をした。


 あの後、右手の甲が光りはじめたミズナの動きが突然、別人にでもなったかのように変わり、トルケルへトドメの一撃を見舞おうと、意識が逸れた守護者を先に胸部に強烈な突きを放ち致命傷を与えたそうだ。

 後は守護者の残った斧槍を手から弾き飛ばしている間に残る二人で、トルケルを担ぎ、守護者の攻撃範囲から離脱できた。

 ミズナはトルケルの離脱を確認すると、動けなくなった守護者にとどめを差さず放置し、奥に据えて黒い玉だけを回収して、奥の扉から脱出できたとのこと。


 だが、斥候担当はその時、ひとつ気になることがあったと状況を振り返った。


 奥の扉に辿りつき時間稼ぎのために扉を閉めようとした直前に自分達調査隊とまるで入れ替わるように入口の大扉側から大広間に“黒い煙のようなもの”が入ってきたのが見えた。

 守護者との戦闘中でもピクリとも反応せず眠っていたミズナの頭の上の『犬のような生き物』が、急に目を覚まし〝黒い煙〟に向かって威嚇するかのように体を震わせていたそうだ。

 黒い煙のようなものが、広場の中央に膝をついて動けない守護者に襲い掛かろうとしているところで扉を閉め、急いでこの建物を「下っている」とのことで、結構、時間が経っており、おそらくもう少しで建物入口のところまで来ていると斥候担当が返事した。

 トルケルはその斥候担当の説明を聞いていたが、いつの間にか意識がおぼろげになり、気を失ってしまった……。


 トルケルが次に目を覚ました時には、オーレンの医務塔の寝台の上にいた。

 二の腕まで包帯で巻かれた左腕の傷口は多少痛むものの、肩を回すくらいはできた。

 トルケルは、起き上がりそのまま、医務塔から出て、管理塔に足を向けた。


「トルケル!! 目をいつ覚ましたの? 動いて大丈夫?」


 医務塔から出てすぐのところで、トルケルの背を向けた方に黒い大渦の調査隊で船上で通信・音波探査を担当していたマリが、声を掛けてきた。


「あぁ……もう大丈夫だ……」


 トルケルは背を向けたまま、片方の横目でギリギリ届くくらいの角度で少しだけ振り返りそう答え、管理塔に歩き出した。

 背後からマリの声が続いた。


「あの娘、さっき管理塔の屋上にいたよ……」


(あぁ……、そうだと思った……)


 トルケルは返事をせず、医務塔を後にした。














 管理塔の最上階にある管制室階を更に階段を上がり、屋上の扉を抜けるとすぐに、屋上の柵のうえに両肘でもたれかかり、入り合いとなる夕陽を眺めているミズナを見つけた。


 トルケルは特に声を掛けるでもなく、ミズナより少し離れたところまで歩み寄り、そこで足を止める。

 するとミズナのそばの柵の上に乗っていた生き物。あの謎の海底遺跡の宝箱から出てきた犬みたいなのがトルケルに気づき振り返る。

 ミズナもつられて、振り返ると少し驚いた表情を見せたが、すぐに心から安堵したような顔に変わった。


「この子、結局、どういう生き物なのか誰にも分からないんだって、ただ【鑑定】で種族名だけ分かったんだよ【妖精犬クー・シー】って言うんだって、だから『クゥちゃん』って名前つけたんだけど、どうかな?」


 俺は、いいんじゃないか、と返事をした。


「私、あの守護者との戦いでトルケルが狙われたとき、力不足である現実がなんて残酷なんだろうって思ったんだ。でも、少しだけ違ったの……。私に足りなかったのは、いつ、いかなる時でもすべてを捧げる“覚悟”だったんだって。その覚悟を決めたときに右手の甲に 〝しるし〟が浮かび上がったの。それと同時に頭の中に直接、天使様の声が聞こえてきて一言だけ言われたの……『選ばれました』って……」


「……」


「なんのことなのか分かんないよね? 私もよく分からない……でも選ばれたってことは、何かすべきことがあるんじゃないかって考えるようになったんだ……」


 トルケルは肯定も否定もせず、ただただ静かに彼女の話を聞く。


「だからね、何をすべきなのかを探す旅に出ようと思うの……」


 ミズナはそこでいつもの彼女には相応しくない、少し不安げな表情を見せる。


「一緒に行かない?」

「やめておく……」

「どうして?」


「……俺は隻腕かたてでも並の者よりはずっと強いだろう……。でも、ミズナの旅についていけばいずれ足手まといになる…」


「いつもの“勘”なの?」

「あぁ……」

「どうしても?」

「あぁ……」


 二人は表情もなくただ静かに見つめ合い、やがて、ミズナが相好を崩す。   


「そっかぁ……。わかった!」


「じゃぁ〝探しもの・・・・〟みつけてくるねっ」


 はにかんだ彼女ミズナの笑顔がちょうど背後から顔を覗かせるようにまだ沈み切っていない夕陽が笑顔をぼかすようにトルケルの瞳に映り込んだ。










 


 うっひゃーっ、いいねぇ~!! 

 痺れる~っ。

 なんか見ててドキドキした(笑)


 場所は「神の箱庭」のモニタールーム。


 地球から天界通信販売で取り寄せたポテチとコーラを飲みながら、ミズナとトルケルの管理塔屋上の名シーンを視聴し終わった。


 いやぁ、海人族の子は今後、お気に入りとしてチャンネル登録しておくとして次を探そっかな? 


 あ、その前に……。


「一昨日は、啓示──伝言してくれて有難うナーステリア!!」


・・いえ・・・海人族・・・・・・担当ですから……」


 一昨日、ミズナに啓示をしてくれたお礼を伝えると「ナーステリア」と呼ばれた天使から、小さくか細い声で返事が返ってきた。


 声、小っちゃっ!! 


 私の神耳(まあ、世間では地獄耳ともいう)をもってしてもかろうじて聞き取れるくらいだけど……。

 他の天使ちゃん達よくこの子とコミュニケーション取れるなぁ……。


 ナーステリアは『八福』のうち〝結界〟を司る天使で、惑星「アルマニ」から海人族を移住させた天使である。


「……」


 うん! 私もさほど会話に自信なし、以上。


 笑顔をナーステリアに見せて、サクヤは、他の候補者を探すため、モニターを操作する。


「それでは~~、いきますよ~。ポチっとな!!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る