Chapter 009 戦闘開始の狼煙
子犬のような生物がいた宝物庫を後にしたミズナ達調査班はその後、いくつかの分岐点や階段を上がる道中、同じような部屋がいくつかあったがどれも魔物がいたり、何もない部屋だったりと特に問題なく進んできた。
現在、分岐となっている丁字路の廊下手前で休憩をとっており、ミズナは現在までの経緯を船上に待機しているマリに念話で連絡を取り、トルケルは廊下の左右を警戒にあたっている。
他隊員のうち一人は槍を油と砥ぎ石で簡易な手入れを行なっており、斥候役も担っているもう一人の方はこれまできた道程を走り書きしておいた構成網と歩測距離、方角、階層を記した簡易地図を整理している。
謎の建造物に入って自然の光が差さず、人工的な構造物と常時、発光している光源のせいで時間の感覚が麻痺しているがマリとの念話で約半日が経過し、今は外では夜中になっているそうだった。
食糧は少量の魚の燻製だけなので今回の休息時に食べきった。
先ほどのマリとの念話の中で心配する彼女から「そろそろ引き返してはどうか?」との提案を受けたが、作図担当から入口の位置からここまで上がってきた階層を整理すると、あと一層か二層でこの謎の建造物の最上層に到達しそうだ、との報告を受けたので、進む方針で返事をしていた。
「そろそろ移動します」
直後!
『ゴォォォォッ!!』
ミズナの言葉に移動の準備を始めようとした調査班の進んできた通路側から轟音と熱風が押しよせた。
「なに? 今の?」
顔を覆っていた腕を下ろしながらミズナはトルケルに訊く。
「わからん……が、
トルケルは背後の通路に視線をやりながら彼には珍しく少し急かすような口ぶりで返事が返ってきた。
引き返す選択肢は無いとのトルケルの忠告にミズナは若干焦りながらもトルケルが先に指し示していた右側の通路に早歩きで移動を始めながら、別ルートでの脱出についての可能性について作図担当に確認を取る。
作図担当からは、マリの【
ミズナと作図担当が脱出ルートについて相談しながらも、先ほど槍の手入れをしていたものが先頭になり、中間にミズナと斥候・作図担当、トルケルが後方で警戒しつつ前に急いで進んでいる。
突き当りの階段を上り、しばらく進むと左手側に通路の高さより大きい天井を切り開いた大扉の間が見えてきた。扉の間から先も通路があって仮に来た道と対称であるならそのまま広間を抜けていった方が別ルートに繋がっていそうだ。
ミズナと確認を終えた作図・斥候担当が先頭に代わったが、斥候役も同じように感じたらしくそのまま扉の間を通り過ぎミズナともう一人も後を追おうとしたところ、後方のトルケルがふと立ち止まる。
「……このまま進むと“
トルケルは恐らくこの謎の建造物の最奥部である大扉を指差し、そう告げた。
ミズナは迅速に判断する。
「入りましょう!!」
素早く斥候担当の【罠感知】を掛けてもらい、すぐさま大扉を開け中に入る。
中に入ると、建造物の入口の次にあったあの豪華な部屋を更に大きく真四角にしたような部屋に出た。
床には入口の大扉からまっすぐ前に絨毯が敷かれており、その先には階段が連なり一番奥に何か黒く発光している何かが台座の上に安置されているのが目に入ってきた。
「ミズナ、右側の方……」
トルケルに言われ、気づいたが台座の少し右側に扉が見える。
おそらくトルケルが感じたという
そのまま絨毯を踏みしめ、台座の据え置かれている階段の少し手前まできたところで、台座の左側にあった異形の怪物を模した石像が乾いた音とともに罅が入り、すぐにメッキがはがれたように薄い石の表面が崩れ落ち、初めはぎこちなく徐々に滑らかに動き出した。
今から駆け出しても扉には間に合いそうもない。
異形の怪物は体高が三メートルを優に超え、腕が四本あり、それぞれの手には先端付近に斧と鉤爪のついた長柄の槍のようなものが握られている。外見は全身が黒く、人間が怒りを
「おそらく
すばやく方針を伝え、固まらないように階段下で散開する。正面側はトルケルとやや側方にミズナ、他二人は完全に側方に回り込むように大きく左右に展開している。
「まともに受けるな、受け流すようにしろ……」
トルケルの警告が、戦闘開始の狼煙となった。
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