Chapter 007 洋上の少女



 ミズナ率いる調査隊の謎の海底建造物への調査・探索から一日ほど遡る。


 この世界には西大陸と東大陸の二つの大陸があり、大陸間はフィーリー海と呼ばれそのほぼ中央に海の上に浮かぶ港「海上商港オーレン」がある。


 惑星メラの海域は、沿岸から離れ沖に出ると、船が魔物に襲われることが多く外洋の航路及び漁場区域について、海人族が管理・運営を行い大陸の各国は安全な航行及び漁業の対価として、通行料や漁猟使用料を支払っている。


 海人族は、そういった安全圏を確保するために海の魔物が忌避する水宝玉アクアマリンを取り付けた浮標ブイの整備や航路上に入り込んだ魔物の討伐や船舶の護衛を各国と契約をしており、海上商港オーレンはそういった各航路上にある海人族が管理、拠点としている中継港の一つである。


 オーレンのほぼ中央に建っている管理塔階最上階の管制室内で商港長とミズナ、トルケルの三人で話をしている。


「駄目だ!! ……確かにお前の実力は私や皆も十分承知している……しかし今回は航路上に突然発見された無数の黒い大渦が何なのか調査に行くのだ!! 何が起きるかも分からない。リスクが高すぎる。成人前のお前を選ぶことはできない」


「成人前でも、これまで実績を重ねてきたのは父様も知っているはずよ!! それに来年十六歳を迎え、私も大人の仲間入りしますし……私が父様の娘だからなの?」


「いや……、とにかくダメなものはダメだ!! 話は以上だ」


 具体的な理由を言わないまま、ミズナの父親である商港長はそれで口を閉じてしまった。


 どうやら二人とも結構、頑固な性格らしくそのまま、対峙した形でその場で互いに立ち尽くしたまましばらく時間が経った。トルケルはミズナの少し斜め後方でただ二人の話し合いの行方を静かに見守っている。


「ルミロ、お邪魔するよ、どうしたの? 三人で」


 管制室に初老の女性が入ってきた。

 彼女は、商港長ルミロの母でミズナの祖母にあたる人物で前商港長でもある。

 ルミロがミズナから視線を外し、入ってきた彼の母に目をやる。


「今回の黒い大渦の調査隊派遣で、ミズナが志願したので私が反対していたところです」


「あら、いいんじゃない? ミズナで……、なぜ反対なの? 個の能力・観察・判断・統率力どれをとってもこのオーレンでこの娘が適任にしか私には見えないけど?」


「しかし母上……ミズナはまだ成人していないし危険です」


 ルミロの母、ミズナの祖母にあたる人はやれやれといった顔を見せて、息子を諭すように説明する。


「そんなのどうだっていいことよ、私なんてミズナより幼い頃から大人に付いていって魔物狩りをしてたわよ? 大人を差し置いて大物をよく仕留めたのが自慢!! それにあなただって、結構幼い頃から魔物狩りによく連れていってたわよね?」


「それは……母上が半ば無理やり私を連れて行ったんではありませんかっ!」


「なぁに馬鹿なこと言ってるの? 親からみれば子は自分が死ぬまで可愛い子供だけど、子からしてみれば、いつまでも子供ではいられないの……大人になるために『自分』を確立していくことが子供にとって必要で大切なことなんだから、親がそれを邪魔するなんて良くないことだと思うわ」


「……少し考えさせてくださいっ」


 前商港長であり、母でもある目の前の女性には口では到底、敵わないと悟っているルミロは考えさせてくれとは言ったものの、もうミズナを派遣することについて観念した表情をしていた。


「お婆様、有難う、父に口添えしてくれて……」

「あら、何を言っているの? 私は当たり前のことを伝えただけよ?」

「……それにあなたが調査隊を指揮しないと調査隊全体の危険が高くなるわ、状況判断や引き際を冷静に見極められる人じゃないと……それにそこの大きい人だと一人でどこまでも突っ込んじゃうからミズナがいないと……ねっ?」


 祖母はミズナと別れ際にトルケルには見えないように、こっそりミズナに片目を閉じてみせた。


 祖母と突き当りの廊下で別れた後、しばらくしてずっと黙っていたトルケルが口を開く。


「……どうしても、行くのか?」

「もちろん、トルケルも行くでしょ?」

「あぁ……」


 惑星メラでは一般的に十六歳で成人となるがミズナが十五歳、トルケルは二歳年上の十七歳でミズナが幼少の頃からの幼馴染で、口下手なせいか昔から二歳年下のミズナの後ろにいつもくっついて傍にいる。


 ミズナは小さい頃、その真っすぐな性格が原因で年上の悪童達と対峙する場面が幾度もあり、複数に囲まれピンチになると、どこからともなくトルケルが現れて、悪童達を懲らしめる場面が幾度もあった。


 彼は今ではこのオーレンでも一番の腕利きで、商港組合……港ギルドを通した諸国から護衛や沿岸魔物の討伐等の依頼でも指名希望可の場合、一番に名が挙がる。


 ミズナもオーレン内で五指に入る腕利きだが、まだまだトルケルにはサシでは敵いそうもない。


 夕方前に商港長ルミロから正式に調査隊のリーダーに選ばれたミズナは、事前に他に志願した海人族の中から調査に適した人員を選び、翌日未明までに出発の準備を整え始めた。


 









 うーん、なんか海底宮殿の方に海人族の人たちが調査に向かおうとしてるねぇ……。

 大丈夫かなー?


 一方、神の箱庭では女神サクヤが監視室前方の特大型画面盤をマルチモニターから単画面に切り替え・拡大してミズナ達を心配そうに見ていたが、あることに気づく。


 あれっ? 

 ちょっと待って……。

 この海人族の娘【隠しステータス】が結構、いいところまでキてる!


 やったぁ、さっそく見つけちゃった!

 この娘のこと予約・・しよっと。

 それでは、ここをこうしてっと……。


 それでは、はりきって、行ってみよう!!



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