第39話 異世界 × ミステリー


「トゥルヤ半島に行きたいだって? 今はやめときな」

「〝今は・・〟とはどういう意味ですか?」


「スライムが大量発生してやがるんだ」


(は? スライム?)


<user3720517596>

:あの可愛いやつ?

<ムフフ99【司会者】>

:日本の定番のヤツじゃないかも

<PON骨チャリ>

:あれな? ラヴクラフトの小説とか海外のTRPGに出てくるヤツ


 神さま達の話ではスライムに対する意見が割れている。可愛いってスライムが? ボクにとってはスライムは恐怖の対象でしかない。粘性状の体内に取り込まれると、金属系の鎧や剣が溶けてしまうし、呼吸ができなくて窒息死する犠牲者が後を絶たない。動きはそこまで早くないので見つけたら、その場を速やかに離れ、相手にしないのが望ましい。だが、大量発生していて、そこを通らないといけないというなら話は別だ。


 スライムとの戦闘にあたって対処法として知られているのは、弱点である火で攻撃する。または金属でできていない重量のある武器で無理やり体内にあるコアを破壊すれば倒せはする。なので、とりあえずスライムに有効な武器が売っているお店を探すことにした。


 日も傾き始めたので、最初に見つけたお店に入る。ここは武器・防具専門ではなさそうだが、お店が大きいので、品数もそれなりに取り揃えているだろうと考えた。


「お姉ちゃん、そんなにおっぱいが大きかったら肩が凝るじゃろ?」

「うーん、まあ、多少は凝ってるかも」

「そうじゃろう。どれ、ワシが肩でも揉みながら、何ならそのおっぱいも揉んでやろう?」

「あははッ! お爺ちゃん、ぶっ●しますよ?」


 なにあれ怖い……。会計台レジのところで、年配の男性と店の女性従業員が、笑いながら激しい攻防じょうだんを交わしている。田舎から出てきたボクにとって、未知の世界が目の前に広がっていた。


「あら? いらっしゃい。なにかお探しですか?」


 胸の大きな……じゃなくて、濃青紫パンジーの短髪で活発そうな女性がボクに気がついた。


「あ、あの、スライムを倒せる武器を探しているんですが」

「でしたら、こちらの石斧や石槍がおススメです」

「服だけ溶かすスライムがおったら夢が膨らむのー」


 すぐ隣にある置き場に石製の武器を紹介された。そしてなぜか隣のおじいさんも会話に交じってくる。


 その時だった。


「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーッ」


 ただ事ではない叫び声……。響きからいくと上の階から聞こえた。


「ふむ、賊かの? では〝全館閉室クローズ〟」


 おじいさんが魔法を唱えると、入口の扉がバタンと閉まり、遠くからも似たような音があちこちで起こる。


「2階に行くぞい」

「え? ボクもですか?」

「なんじゃおぬし? 冒険者、それも腕利きじゃろ?」

「腕利きかはわかりませんが、冒険者のようなものです」

「私も怖いから一緒に行こっと」

「お、お姉さん、ちょッ、ボクの腕に胸が……」

「なぁ~~にぃ~? 恥ずかしいの? キャァ! この子かわいい♡」

「ワシにも! ワシにもッ!」

「お爺ちゃんは、黙って前を見てとっとと歩いて~」


 おじいさんに誘われて、一緒に2階へ上がることになった。すると店員の女性がボクに腕を絡めてきた。胸が当たり動揺するボクを羨ましがるおじいさん。そしてサクっとツッコみを入れたお姉さん……。


<魔王ニート>

:モテすぎで、素直に羨ましい

<PON骨チャリ>

:爺、いいキャラしてんなw

<ムフフ99【司会者】>

:事件、かな?


(さあな……それにしてもこのじいさん、只者ただものじゃないな)


「ひぃっ、だっ誰かぁぁぁ!」


 2階にあがると、悲鳴が聞こえた。肉付きのよい豊満な40代くらいの女性で、奥の方にある試着室のなかを頬に両手を当てながら凝視している。


 ──死んでる。


 男性はこのお店の店主で発見者は店主の奥さんだそうだ。


「あ、あの、なにかあったんですか?」


 次に階段の方からお客さんらしきひとがやってきた。「今まで1階にいたんですが……」と話しながら恐るおそる首を前に出して、試着室の中をのぞき込み「ひッ」と短い悲鳴をあげた。


「奥さま、さっきの声はもしかして……」


 最後に現れたのは、大柄な男。店員のひとりで、1階の倉庫にいたが、叫び声が聞こえたので、2階に上がってきたそうだ。


「他にひとがおるのか、魔法をかけてみようかの〝熱線探査〟サーモ・センサー


 おじいさんの目から赤い細い光の線が無数に壁状になり、床から壁、天井と赤い光を当てていく。


「誰もおらん。店主の悲鳴を聞いて、ワシがすぐにこの店の出入りを魔法で閉じたから、犯人はこの中におる」


<PON骨チャリ>

:じいさんスゲー!

<user3720517596>

:●っちゃんの名にかけてw


「アナタ……アナタでしょ?」


 店主の奥さんが指をさしたのは、大柄の男性。奥さんいわく、毎日のように怒鳴られ、イジメられていたそうだ。その復讐をしたんだと指摘する。


「そんな……それなら奥さまだって」


 大柄な店員は、毎日のように口喧嘩をしている仲の悪い夫婦で、それが原因ではないか? と異論を唱えた。


 この場で間違いなく互いに犯人じゃないと証明できるのは、会計台レジ近くに一緒にいたボクとおじいさんと女性店員の3人だけ。一方で、他のひとに証明してもらえない現場不在証明 アリバイ ができないのは店主の奥さん、大柄な男性店員、男性のお客さんの3人。消去法でいくと、この3名の誰かが犯人ということになる。




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