第38話 ムンク司祭


「神プレイヤの信徒である証明はできますか?」

「えーと……」


 門が開いて進み出てきたのは、全身、青色で統一された祭服を着た黒色のメガネを掛けた男。武器になるようなものは持ってなく、ニコニコと笑顔で質問してきた。正直、帝国の人間って皆、縦社会で厳しいというイメージがあったのに、その様子はいっさい感じない。


 どうしよう? 神プレイヤなら今まさにボクを天から眺めているけど、これをどう証明したらいいんだろう?


(セル、ポチョを出してみろ)


「あ、はい」


 神プレイヤに言われたとおり、耳飾りに変化しているポチョを鳥モードになってもらった。


「むはぁぁぁぁッ……こここ、これは48年前を最後にその姿を確認できていなかった神プレイヤの神獣ぅぅッ!」


 ちょっと人格が変わりすぎて怖いんですけど? ポチョを見た瞬間、うしろに勝手に転がっていき、開いた扉にぶつかり、奇声を発した。


「はァはァ……ちょっ……ちょっとだけ触ってもよろしいですか?」

「え……いや、なんかダメです」

「なんで? ちょっとだけ、ちょっとだけだからぁぁ~ッ」

「ダメなものはダメです」

「どぉぉぉうしてェェェェェ?」

「なんか怖いからですぅぅーーーーッ」


<漆黒の性年>

:うるせーよッ静かにしろやぁぁぁぁ!!

<ムフフ99【司会者】>

:いや、おまえがなw


「あの……通してもらえるんですか?」

「え? はい、どうぞどうぞお通りください」


 ポチョを耳飾りに戻して、門を抜けると、兵士たちが5名ほどいて、その内ふたりは、左右の歯車に繋がった太い綱の手回し装置を回して、扉を閉じている以外は皆、博打に興じて遊んでいた。アーキテクト王国側の砦には50名以上の兵が、帝国側を監視しながら、防衛に取り組んでいるのに大きな差がある。


「これだけしか兵はいないんですか?」

「ええ、王国はどうせ帝国側から侵攻しない限り、あちらからは攻めてこないですからね。手を抜いてるんです」

「失礼ですが、あなたは?」

「申し遅れました。私は神プレイヤさまに仕える司祭ムンク・A・グーグーリットと申します」


 へ~。神プレイヤに仕える司祭に初めて会った。アーキテクト王国では、狩猟と豊穣の女神ヴェールや太陽と月の神ルーラーの信者のどちらかしかいない。


 ムンク司祭に聞くと、ザッヴァーク帝国は剣と鎚の神アトランカーの信者がもっとも多く。次に魂の神プレイヤが多いそう。


「やっぱり神プレイヤの託宣は本当だったので、感動しました」


 一週間前。ムンク司祭が夢で神プレイヤからお告げがあり、10日以内にアーキテクト王国から〝使徒〟がやってくるだろうと言われたそうだ。それで3日前からここに待機して兵士たちをその間に色々な手を使い、買収したそうだ。


(いや、オレはこんなヤツにお告げなどしてないが?)


<ムフフ99【司会者】>

:システムが通知したかもしれないね

< 微形男子>

:買収したって言ったぞ。神に仕えるものがw

<福沢ゆきちん>

:そこは察してやろうや


「では参りましょうか」

「え、一緒にですか?」


 ムンク司祭はボクについていくことを決めているようだ。だけど、神プレイヤがなんというか……。


(まあ、しばらく様子見だな)


 よかった。特に問題ないないみたい。


 ──と思っていたのは、一時間前の話だった。


「いいですね~セル殿。神プレイヤの生の声が聞けて」

「ええ、まあ……」


「どのようなお声ですか? やっぱり男らしいお声でトキメキますか?」

「うーん、普通の声だと思いますけど」


「神プレイヤは、女神とかにモテるんですかねー? イヤー気になるー」

「どうでしょうね」


「やはり使徒になるというのは特別な感じですか?」

「えーっと、あんまり特別なのかよくわからないです」


「神プレイヤの御姿って、どうだと思います?」

「うーん、ちょっとわかんないですね」


「好きな食べ物あると思います? あ、神だから食事はなさらないですかね、やっぱ」

「たしか……〝らーめん〟というのを食べたとか言っていた気が……」

「これは教典に新たに書き記さないといけないですね──書き書き」


(セル……)


「あ、はい。なんでしょうか?」

「ぐふぇ? 今、神からお告げが来てるんですかァァァァァ。ハァハァ……」


(そいつウザい)


「あの……神プレイヤが、司祭のことをウザいと言ってます」

「はぅあッ!! なんとぉぉぉ……それでウザいとはなんでしょうか?」


(よし、そいつに100秒、目を閉じて数を数えろと言え)


 言われた通りムンク司祭に伝えると、目を瞑って数を数えだした。


(よし、黙って走れ。「え?」って言うな。とにかくひたすら前に向かって走れ)


 全力で走る。かなり遠くから「セル殿ぉぉぉ~~~ッ」と呼び止める声がきこえた気がするけど、体力の限界まで走り続けた。


「ぜーッぜーッぜーッ」


(よし、もういいだろう)


 死ぬかと思った。だいぶ鍛えてもらっているから、もっと走れるかと思ったけど、意外とキツく感じた。そこからは追いつかれないように早歩きで、ザッヴァーク帝国の帝都「トロメキア」に向かった。


 5日後、ムンク司祭に道を教えてもらっていたので、迷わずに帝都に入ることができた。入口で呼び止められるかと思ったら、素通りできた。その時、不思議に思ったのは、帝都から外へ出ようとする人々に対して、厳しく取り締まりを行っていた。普通、逆だと思うけど、なにか意味があるのだろうか。






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