第32話 12年前の事件
(退屈だわ、ちょっとコンビニに
<ムフフ99【司会者】>
:行ってらぁ~
<王!爺ザス>
:放置ゲーw
神プレイヤが「コンビニ」というところに行くらしい。それって天界の雑貨店みたいなものなのだろうか?
「話を続けても大丈夫か?」
「え、あ、はい!」
意識が神さま達に行ってしまっていて、ラウルさんがひとり言を喋っているような感じになってしまっていた。
「セル、おまえのオヤジってあの〝盾斬りのマルコ〟だろ?」
「はい、その異名は村のひとから聞いたことがあります」
盾斬りのマルコ。父は騎士ではめずらしく盾を持っていなかったそうだ。その代わりに巨大な剣を両手に握り、いかなる盾も破壊してのける怪力で、チカラだけではなく、その剣術はこの国に並ぶものなし、と当時、称えられ、隣国ザッヴァーク帝国との武力衝突の際は、その名を隣国にも広く知らしめたそうだ。
そんな父マルコがなぜ犯罪者のらく印を押されたかというと〝紅い夜〟事件の犯人だから、父はなぜか元王妃を殺害したとして、処刑された。当時、えん罪ではないか? と国民からも声があがったが、結局聞き入れてもらえず、処刑されたそうだ。
「王子……ラウルさんも、そうだと思いますか?」
聞かずにはいられない。多くのひとがこれまでずっと疑問を抱き続けた。事件の不可解さ。
「マルコさんは、元王妃のそばで血のついた剣を持って気を失っていたそうだ」
長い渡り廊下。そこで王妃が一太刀で切り伏せられていて、隣には怪力で剣技に長けたマルコ……。ほかの騎士や兵士が駆け付けた時には他に誰もおらず、あまりにも状況証拠がそろってしまっていたそうだ。
「なあセル……真実を知りたくないか?」
「え?」
ラウルさんは、父マルコの事件について、なにか知っているそうだ。
「ただし条件がある」
人差し指をボクの前に立てたラウルさんはニヤリと笑う。
ボクが一ヵ月、近衛見習いとして、王城に留まること。その暁にラウルさんが誰も知らない父の情報をボクに教えてくれるという。
<ムフフ99【司会者】>
:Autoで大丈夫なのか? 一ヵ月拘束されるって言ってるけど?
<王!爺ザス>
:配信終了w ん、いやちょっと待て
──────────────────
【メインクエスト】
アーキテクト城において、【紅い夜】の謎を解く
報酬:アイテム【星々の卵】
──────────────────
<王!爺ザス>
:なんだ星々の卵って?
<猿トピ佐スケ>
:それよりメインクエストというのは初めてではござらんか?
<ムフフ99【司会者】>
:そもそもメインクエストは選択肢なんて元々ないからしょうがない
「わかりました」
「じゃあオレから父や兄上に話しとくよ」
ラウルさんに連れられ、第二城郭の前に立っている騎士のひとりにラウルさんが事情を説明して、ボクはそのままその騎士に預けられる形となった。
「アナタがセル・モティック? ふーん。こんなのが、あの盾斬りマルコの子どもとはね」
はじめて会って、いきなりボクを値踏みしてきたのは、ラウルさんやロゼさんの姉、第三王位継承権を有するサラサ王女。双子の兄のベレム王子に負けず劣らずその性格はあまりよくないようにみえる。
「私はこんなの要らないわ。ロゼにでもくれてやって」
モノ扱いする姉に対して、その妹の第二王女はボクに好意的だ。
「そうですか。残念です。ではセルさんは私、ロゼの近衛として働いてもらうことでよろしいですね?」
「それはダメだ」
「そんな……なぜですかベレム兄さま⁉」
「ソイツは、父ペイジェルマン王の近衛見習いとなると決まった。異論は許さん」
どういう風の吹き回しだろう? 王もベレム王子もボクのことはたいして評価してくれてなかったと感じたけど……。
「アーリ。面倒をみてやれ」
「はい、殿下」
先ほど人工池のところで、底知れぬ実力を垣間見た近衛の騎士……アーリさんっていうんだ。
アーリさんに「こっちだ。ついてこい」と言われて、城の中庭までやってきた。中庭は騎士や兵士の鍛錬場となっていて、木でできた色々な武器や防具が置かれている。
「好きなものを身につけてみろ」
「アーリ隊長、試験をするんですか?」
「ああ、先ほど恐ろしいほどの
独学になるが、【指し手】の兵士たちと激しい特訓をしたけど、はたして通用するのだろうか? ボクは剣と盾。袖のない木でできた鎧を上から着込み、兜と手足の防具をつける。
対して、アーリ隊長は、木剣のみ。横で休憩をしていた騎士たちの中からひとり審判を買って出たものがいた。開始の合図と同時にアーリ隊長がゆっくり間合いを詰めてきた。
縦斬りから斜めに斬り上げ、勢いに任せて、回し蹴り。一連の流れはいずれもボクの兵士たちには有効であったが、アーリ隊長は一歩も動くことなく、ボクの攻撃をそらし、弾いていく。あまりにも簡単にあしらわれたボクは、背後へ退がると、同じ速度で詰められ、軽く振るった剣が、もの凄く重い衝撃をボクの手に伝わり、剣を取りこぼしてしまった。すばやく盾を前に向けたが、それも真横に弾かれ、次の瞬間にはボクは、地面に顔がくっついていた。
「多少の心得はあるようだが、まだまだだな……」
それはボクがいちばんよく知っている。神プレイヤに操ってもらえないとボクなんて大した才能なんてない。
「だが、鍛えればモノになる。さすがマルコ殿のご子息だ」
顔を地面に突っ伏したボクの目の前に手が伸びてきた。アーリ隊長の手を借りて立ち上がる。
ボクはここで初めて、アーリ隊長の笑顔をみた。
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