第30話 王室招待庭遊祭


「タダで譲ってやってもいい。ただし条件つきだが……」


 店主の出した条件は「復讐を果たすこと」。ちなみに復讐したい相手がいない場合は、それならそれでいいそうだ。


「だが、復讐しないといけない相手が現れたら、かならず復讐すること」

「はい、もし、この先そんな相手が現れたら父マルコの名にかけて復讐します」


 まあそんな相手は現れるかのか、怪しいけど。


 武器防具店を出て、城へ向かう途中、左目からキュアが出てきた。


「その、悪かったの。チカラを封じて」

「え?」


 闘技都市アリグレアを出ようとした時に声をかけてきたふたり組。キュアはあの時点で彼らに気づかれたら、チカラが戻っていない自分ではボクを守れないと判断して、隠れることにしたそうだ。


「神との接続まで切れるとは誤算じゃった」


 彼女が使ったスキルは【強制終了シャットダウン】、自分で眠りにつき、存在自体を隠蔽する方法。ただ自分自身で目覚めることができず、外部から呼び起こしてもらう必要があり、今回たまたま神殿長と高位司祭たちによる浄化で一緒に目が覚めたそうだ。



(ちょっと待て、そのふたり組ってなんだ?)


 神プレイヤにふたり組のことを聞くように言われ、キュアに訊ねる。


「やつらは〝魔人〟それもかなりの実力者じゃった」


 キュアと同じ魔人だが、面識はなく、キュアの方が察知能力が高いため、先手を打って気配を消せたそうだ。


<猿トピ佐スケ>

これはひとつの仮定でござるが……

<王!爺ザス>

:ござるw ひさしぶり!

<猿トピ佐スケ>

:キャラクター……セル殿が、神プレイヤの使徒。そして先ほど神殿長から聞いた話、魔人は冥府の女神ミープルの使徒になりきれなかったもの。このふたつの意味するところは……。

<ムフフ99【司会者】>

:興味深い。続けて

<猿トピ佐スケ>

:冥府の女神側にもゲームをする〝プレイヤー・・・・・〟がいる……ということだと考えたでござる


(なるほどね。たしかにあり得るな……)


 ボクにはよくわからない天界の話をしている。世界はランダムに生成されるので、同じ世界をプレイするプレイヤーはいないが、異世界を舞台にした対戦ゲームであれば、話が変わると言っているが、なんのことだかさっぱりわからない。


(ちょっとその辺のことをロリ娘に聞いてみて)


「キュア、魔人ってことはキュアも女神ミープルと関係あるの?」

「まあそうなる……ワシの場合は、裏切り者という札がついておるがな……」


 キュアが裏切り者? だからあんな森の奥深くに封印されていたのか?

 なぜあの場所で封印されていたのか? そのことに触れたかったが、彼女はこれ以上、あまり話したくないのか左目のなかに戻ってしまった。


「セルさまですね。お待ちしておりました」


 城の門までくると、行列ができていた。こんなに多くのひと達はいったいなにを待っているのだろうと、最後尾に並んだところで、前方から身なりの整った男性が早歩きでやってきてボクへ話しかけてきた。



「マルコ殿のご子息がここへ来るとは、とても喜ばしい限りです」


 男性はアーキテクト王家に仕えて長いらしく父のことを知っていた。城門前で他のひとは、検閲を受けているなか、男性に連れられ、ボクだけ素通りで、城門をくぐった。



「今日はなにかあるんですか?」

「ええ、年に2回、城の庭で王室招待庭遊祭ロイヤルガーデンパーティーが2日に渡って催されるのですが、本日は王室、貴族外の客人を招いております」


 城門を過ぎたところで、装備一式を預け、上着だけ着替えさせられた。広い庭のなかでは、慌ただしく準備をしている2番目の城郭の門のところには、八人の騎士が両脇で控えていて、あのなかに突入していこうなんて考える人間はまずいないだろう。


「それではパーティーが始まるまで、こちらでお待ちください」


 案内されたのは、庭の端にある人工池に浮かんだ東屋ガセポで木造りの桟橋を渡り、席に座る。


 なんだか落ち着かないなー。人工池には三本の桟橋がこの中央の東屋に渡されていて、池の水面は青みを帯びた緑色で、時折、魚の背中が水面へ浮かび上がる。


「退屈そうだな少年」

「──ッ⁉」


 いつの間にすぐそばまで近づかれたか、気がつかなかった。

 ボクは思わず、立ち上がり、距離を置いたが相手になにも思惑がないことは表情をみてすぐにわかった。


「おどろかせて悪かったな」

「……いえ」

「ふぁぁ~ッところで、なにをしてるの? こんなところで」

「実は……」


 街中ではありふれた格好をしている青年。席に座ると足を組んで、うしろに仰け反りあくびをしている。


「ふ~~ん、王様、にね」

「あなたもこの庭遊会へ招待されたんですか?」

「オレ? うーん、まあそんなもんかな」


 父のことを知っているのだろうか? 家名を聞いた時に眉がすこし動いたのが気になった。


「ここに来る途中、なんか面白いことはあったか?」

「ええ、まあ面白いかはわかりませんが……」


 ボクは神プレイヤと他の神々……そしてキュアのことは、伏せて道中の話をした。


「ヤッベェ。セル、おまえ英雄じゃん?」

「いえ、たまたま運がよかっただけです」


 嘘は言ってない──ボクはそもそもあのプールヴの森で、オーガーにあっさり殺さる運命にあったところを神プレイヤに助けてもらった。そしてその後も、御力無しでは到底、この場にはいなかったはずだ。


「ラウル、こんなところでなにをやっている」

「げッ兄上⁉」


 正面から三人、桟橋を渡ってきた。ひと目でわかる。この国の王ペイジェルマン13世。その威厳は並のものにはとてもではない真似できない王者の風格が備わっている。


 隣には、薄桃色の長髪ををゆるく後ろの方で留めている高身の男性。空色アザ―ブルーの瞳に宿った目つきは鋭く。表情を変えないままラウルを見咎めた。





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