第24話 選別者


「テメェェェェ、このクソがぁぁぁ●●●●●を●ン●いてやるッ」


 激怒した顔は会場のひと達は知らないのか? 「ホゼが別人みたいに豹変した。コワ~~い!」と叫んでいる。


(右手の封印はどうした? めっちゃ使ってるしw)


 ホゼは怒りで我を忘れて、右手を使うどころか、肘やら蹴りやら、もうなんでもありな状態になっている。


<カンムリパーマ>

:この兄さん何者ね?

<微形男子>

:元プロだけど

<カンムリパーマ>

:WB……なんね? 

<微形男子>

:……オッサン、なに言ってるかイミフ


(そろそろいいかな?)


 神プレイヤがボクのカラダを操る速度がさらに上がった。メチャクチャに振り回しているホゼの拳を掻いくぐり、真横からホゼの顎を打ち抜くと『パキャッ』と変な音を立て、操り人形の繰り糸をいっせいに切ったかのようにチカラが抜け、崩れるように倒れた。


 会場がざわついている。それはそうだよね。飛び込みの客が、闘技場屈指の拳闘士を倒したのだから。


「え、えー勝者……名前なんでしたっけ?」


 報奨金として、100ゴルドをもらった。かなりの大金に驚いた。まさか拳闘士が敗れるなんて思ってもいなかったんだろう……。



────────────────────

 クエストをクリアしました。

 報酬:【水遊び(D)】

────────────────────


 ホゼをコテンパンにできたかというと、一撃でのしてしまったので、クエストクリアとなるのか心配だったが、豹変した姿を大衆にさらけ出したので、社会的にコテンパンにされたということなのかな? それにしても手に入れたスキルは水遊び……これってなにかの役に立てばいいけど。


 悪目立ちしすぎたので、客席には戻らず、お願いして関係者専用の通用口からそのまま円形闘技場の外に出た。騒ぎになる前にこの町から出なければ……。


「キミはいったい何者なんだい?」


 町はずれまでやってきたところで、怪しいふたり組に声をかけられた。

 雨も降っていないのに傘をさした紫髪の少年と先ほどの闘技場でもお目にかかれなかった巨躯にその体格だけで、戦闘力の高さが想像できる。


「素人同然の動きから、この世のものとは思えない動きまで……どういうこと?」

「さあ? なんのことなのかボクにはさっぱり」

「ふたつの人格……いや、操られているという方が近いかな?」


 相手が何者かわからないが、ほぼボクと神プレイヤの関係性を見抜いている。

 紫髪の少年の問いにあいまいに答えながら、背を向けて逃げることも視野に入れて、様子をみることにした。


「キミと争うつもりはないよ」

「そうですか。それでは……」

「ニオイ、がするんだよな~。キミから」

「なにが言いたいんですか?」

「さあね。ただボクたちは〝選別者・・・〟を探してるだけなんだ」


 選別者? それって神プレイヤに選ばれたボクのことを言っているのかな? 仮にそうだとしても相手の正体、目的がわからない。素直に話すのは危険だと見た方がいい。


「ボクには関係がないので、それでは」


 足早に去る。建物の角を曲がる時に振り返ってみると、まだこちらを見ていた。

 今は、神プレイヤも他の神々もいないのかな? 誰からも反応がない。


 闘技都市アリグレアを出ると、あとは平坦できれいに整備された街道をひたすらまっすぐ進むだけ。王都ファルカまで歩きであれば4、5日くらいで到着できる距離まできている。


「そこのアナタ」

「……はい?」


 すれ違いざまに声をかけてきたのは、ディレクト教の神官戦士。ボクが生まれ育った辺境の村メイズにも数か月に一度、神事を行うため、司祭の護衛兼補助者として神官戦士がやってくるため、独特な水色の縦模様がはいった祭服に金属板で補強された服装に見覚えがある。


 なんだか立て続けに話しかけられる。こんな時に限って声がきこえない。


「私の名前は、ロノ・A・ケピアント、王都ファルカの神殿から参りました」

「ボクは……」


 こちらも自己紹介した。ロノさんがボクを呼び止めたのは、ボクからタダならぬ気配を感じたからだと話した。


 でも、今は神プレイヤも他の神々もなぜかボクのことをみていないようだ。勝手な判断で面倒に巻き込まれてもマズいので、知らないフリをした。



 やはりロノさんは神殿で神託を受けて、西の地に降臨した神プレイヤの使徒を探す旅に出たそうだ。


「そうですか……ではせめてお祈りだけでもさせてください」


 そう言って、ロノさんが、簡略化した祈りを行う。ロノさんってかなり神官としての格が高いのだろう。祈りとともにボクのカラダの周りにちいさな光の玉がくるくると円を描いて頭上で消えた。


「それでは神プレイヤの祝福があらんことを」


 そう言って、ロノさんは闘技都市アリグレアに向かって去っていった。

 なんか悪いことをしたな~。でも勝手なことはできないし、神プレイヤか他の神々がボクのことを見始めたら、相談してみよう。


 ボクはロノさんとの出会いが自分の生死にまでかかわる重要なことだったとは、この時、ぜんぜん気がつかなかった……。



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