第23話 「ぼくしんぐ」ってなんですか?


(ふーん、さすがにスキルの使用は封じられているか)


 〝円形闘技場アンフィテアトルム〟の観客席は、大きな主塔のほかに5つの支塔が闘技場をぐるりと囲むように配置されている。その各塔から微量の雷が壁のように放出されていて、闘士たちがスキル無しで真剣勝負ができるようにするため。また闘技場の観客席でのイカサマや暴動が起きないようスキル封じを施しているそうだ。


(まあ見てるだけでもなにか得るものはあるだろ)


 神プレイヤの言うとおり、観戦しているだけでもすごく勉強になった。

 しばらくすると試合の合間に観客へのサービスが始まった。


「お集りの皆さん、ウデに自信のあるものはいませんか?」


 どうやら余興で、この闘技場でも屈指の実力を誇る闘士と勝負をするというもの。もちろん真剣勝負ではなく、拳に分厚い緩衝材を巻き付け、足や肘、頭などはいっさい使用を禁止され、拳のみで戦うというルールになっている。


(ボクシングじゃん)


<ムフフ99【司会者】>

:まさしく拳闘

<カンムリパーマ>

:このチャンネルはボクシング系?

<微形男子>

:いや違うしw 異世界もの

<カンムリパーマ>

:ちょっちゅ見てみようねッ

<微形男子>

:なんか不思議なオッサンが入ってきた……


 ボクシング? はじめて聞くことばを神たちが連呼しているが、ボクにはよくわからない。まあどんなものか、とりあえず観戦しよう。


『ヒョイ』


「おーっと挑戦者が現れましたぁぁぁ、なんと勇敢な少年でしょう。それでは下に降りてきてください」


 プレイヤさまぁぁぁぁぁーーーッ。なんてことしてくれるんですかぁぁぁーーッ⁉


 はぁはぁ。神プレイヤがボクの腕を操って手を挙げた途端、当てられてしまった……。


 闘技場は分厚い壁に囲われており、客席からハシゴで降りた。剥きだしの地面の中央に円形のレンガが敷き詰められた舞台があり、階段を数段登り、対戦者の前に立つ。


「それでは紹介しよう。本アリグレア闘技場が生んだ若き天才拳闘士〝ホゼ・ダフマン〟⁉」


 会場が地響きでも起きたのかと錯覚するほど大きな声援と拍手に染まる。そして司会者がボクの名前を聞いて、「挑戦者は、ちょっとどこにあるのかわからない辺境のド田舎の村『メイズ』からやってきたセル・モティックーーーッ」と紹介すると、こちらはやや冷めた感じの声援と拍手をもらった。


(セル、舐められてんなw)


 いや、そうでしょう? 田舎からやってきた記念に試合に無謀にも手を挙げた身の程をわきまえないお兄ちゃんと会場全体が思っているに違いない。


「あー、キミ、心配しなくてもオレは左手しか使わないから安心しな」


(ほ~~っ、そうかそうか。じゃみとくか)


 え、なんかイヤな予感……。プレイヤ様がボクを操って戦うんじゃないんだ。


「それでは試合開始ィィ―――――ッ」


 司会がパッと離れると、ホゼはゆっくりと上体を左右に揺らして近づいてくる。


<カンムリパーマ>

:これはウィービングだねー。気をつけなさい

<微形男子>

:まさかのボクシングガチ勢www


 そう言われてもどう気をつけたらいいのかわから……「パンッ」。考え事をしている間に左手がすごい速さで伸びてきてボクを小突くと、一瞬で拳が構えの位置に戻っている。痛くはない。だけどかわせる自信がない……。


<カンムリパーマ>

:ダッキング、そこワン・ツー

<微形男子>

:いや、文字だし、専門用語で伝えてもキャラ分かんねーしw


 なんだか神さま達が騒いでいるが、今のボクはそれどころではない。スキルが封じられていて左目【月炯眼ザ・ホルス】が使えないから、動きがぜんぜん追えなくて、軽く殴られているはずなのに顔がヤケドしたように熱くなってきた。


「キミ、そろそろ倒れてくれないとお客がつまらないよ?」


 神プレイヤの日々のしごきのおかげで、ボクのカラダは並のひとよりは打たれ強くできている。ホゼの拳に込める力が次第に強くなってきた。それでもボクは両手を畳んで前に出して、下手くそながらも足を使ってなるべく直撃はもらわないようにして、耐える。


おまえ・・・、いい加減にしないと、ぶっピーすぞッ!」


 ニコニコとした笑顔の反面、ボクにしか届かないような小さな声で、脅してきた。


(ほーっ、オレ様への挑戦と受け取った)


 すべての時間の流れが止まり、クエストの文字が目の前に現れる。


────────────────────

▶ホゼをぶっ飛ばす

 キャラクターにまかせてボッコボコにされる

【倒した場合の報酬】Dクラスのスキル獲得

────────────────────


(まあ、こんな雑魚を倒すくらいじゃ、上級スキルはゲットできないか)


 それはいいとして、Autoモードのままなら、ボクがボッコボコにされる前提のクエストなのがひどいと思う(ぐすっ)


(よし、じゃあ反撃開始だ)


 ふふふっと神プレイヤの悪そうなこえが聞こえた気がした。


 ホゼの拳が突然、すべて空を切り始めた。対戦相手のボクの動きが明らかに別人のような動きに変わったから……。でもまだ手加減してたみたい。ホゼは拳の速度をさらに上げるが、それでもむなしく風を切る音だけが響く。


 『パカパカッ』──今度は逆にホゼの両頬を軽快な打撃音が鳴る。ボクもまた「手加減しているよ」と取れる行為に及ぶ──プレイヤ様が操っているから……。


 そして神プレイヤにひと言だけでいいから言えと命令された言葉をつぶやく。


「えーと……ザコ」



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