第17話 メンテナンス


(これからしばらくメンテナンスに入るらしい)


:はあ? 今日はこれからがいいところなのに

:運営に苦情入れたる

:やめろ、どうせムダだ


 メンテナンスってなんだろう?

 神々はあまり歓迎してないみたいだけど


(マイキャラ、聞こえてるか?)


「あ、はい聞こえています」


(これからしばらく、通信が途絶える)


 通信? 連絡のことかな?


(オレとの通信が再開されるまで危ない目に巻き込まれるなよ?)


「はい、わかりました」


:やさしーw

:主が言うとキモい

:愛、だな


(うるせッ)


 そう言って、神プレイヤの声も神々の声も聞こえなくなった。

 アクセサリーショップに戻り、できあがったペンダントをキュアに渡した。


「なんだこれは?」

「この町の言い伝えなんだって」


 河原に落ちている青い透明な石には、ご利益があるといわれているそうだ。縁切りと縁結び……。遠ざけたいものから遠ざかることができ、より近づきたいものに近づける。そんなチカラがあると言われている。


「首に提げてみて」

「なっ、図々しい願いじゃなッ」

「気に入らなかった?」

「まあまあじゃ、ほら、着けだぞッ」

「よく似合ってるよ」

「///なっ///私が美形だからなんでも似合うのじゃ」


 キュアはそう言い、態度ではあまりわからないが、ペンダントトップの青く光る石をぎゅっと握りしめて、首から外すつもりはないようにみえる。


 喜んでもらえてるよね? 顔を少し紅潮させて、プイっと横を向いているが、そこまで長い付き合いではないけど、たぶん喜んでくれていると感じる。


 そこから大通りに出て、露店を眺めながら通りを練り歩く。

 日が沈み始めたので、お年寄りから子どもまで、皆、事前に買っておいた仮面をかぶる。


 大通りを抜けて、正門の前から町の外壁沿いにある通りに曲がる。先ほどの大通りとは違って、子ども連れなどの家族は減り、すこし大人の割合が増した気がする。


「なあ、仮面を被ってるだけで、なんであんなに大胆になれるんだ?」

「さあ……なんでだろうね」


 あちこちでお酒を飲んで騒いだりしている大人たちもいれば、睦まじく腕を組んでいる男女もいる。


 あれをしたいのかな?


「ねえ、手を出して」

「な、なないきなりなにをッ!?」


 キュアの手を取り、指を絡める。

 小さい頃は妹のフェナの手を迷子にならないように、よくこうして繋いだものだ。


「///おおおおっオマエ! 自分がなにをしているのかわかっているのかッ?」

「えっ手を繋いでいるだけだけど……イヤだった?」

「どどどぉーしても、繋ぎたいなら好きにするがよい」

「うん、好きにするよ」



 彼女の手を握りしめたまま、進んでいくと公園があり、薄暗いなか男女がちらほらと木々の隙間を縫って見え隠れする。


 な、なにここ……。

 その、なんていうか、男女ですごく淫らなことをしている。


「おおおオマエ、こっ、こんなところにワシを連れてきてなにをすすすすするつもりじゃ」

「ぼぼぼボクも知らなくて」

「さ、さてはここでちゅーをしようとか思ってたんじゃな」

「そそんなつもりじゃぁぁぁぁーーッ」

「うるせーぞ! さっきから」


 公園の入口でふたりでギャーギャー騒いでいたら、公園の外から男達が入ってきた。3人とも男でかなりお酒を飲んでいるみたい……。


「くそっこんなガキでも女がいるのになんでオレらだけ……」

「お姉ちゃん、そんなガキ放っておいてオレ達と遊ぼうぜ?」

「あのうるさくしてすみませんでし……」あやまっている途中に先頭の男に拳で頬を殴られた。


「うるせーよ。はやく彼女をおいてお家へ帰って寝るんだな」

「オレ達が彼女と仲良くしてやるからよ」


 下卑た笑い……。周囲をみると、公園のなかから皆、避難を始めている。


「……サマ……」

「あ?」

「キサマらぁぁ~~、よくもぉぉぉぉぉッ!!」

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~ッ」」」


 ここから先は、男たちだけで遊んでいたこの人達にとって仲間同士で大人しく飲んで遊んでおけばよかったと、きっと後悔しているに違いない。


「「「ずびばぜんでしだ」」」


 キュアによって男たちは一生消えないトラウマを刻まれ、全員、原型がわからないくらい顔を腫らせて、近くの木に逆さまにぶら下げる刑に処された。


「まったく……せっかくいい感じ……ごほんっ月夜がきれいなのに」

「だいじょうぶ?」

「なんか喉が渇いた……お、良いのがあるではないか」

「え、ちょっそれって……」


 キュアが男のひとりから取り上げた。まだ飲まれていない瓶を栓を開け、ごきゅごきゅっと喉を鳴らして一気に飲み干す。


 それ、たぶんお酒……。止めようとしたが間に合わなかった。

 ゴゴゴゴゴゴゴッと地響きが聞こえてくる気がする……。


「──セル・・

「あ、はい……」


 はじめてキュアに名前を呼ばれた。公園のなかは街灯が届かず、仮面を外したキュアの顔がよく見えない。


 ま、まさか酒乱? 

 これまでの彼女をみていたら酔ったら暴れる系の可能性が高い。町を崩壊させたりしないよね?


「はやく宿屋に帰ろ。キュア、お風呂に入りたくなっちゃった♡」

「へっ?」

「もうダーリン、はやく行くわよ~~っ」

「あ、うん」

「今日もいぃ~~~っぱい体液ちょうだい?」

「う、うん」


 なんだろう? 性格がものすごく変化した。神さまたちが今のキュアを見たらなんて言うんだろう……。



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