第18話 わかれ道……


(おい、どうした。だいじょうか?)


<ムフフ99>

:キャラどうしたんだ?

<病み営業おじさん>

:セル君、だいじょうぶ?


 目が覚めた。寝台で起き上がると、背中になにも纏っていない裸のキュアが隣で寝息を立てている。

 自分のカラダをみると、全身、アザだらけになっている。それで昨日の恐ろしい出来事を思いだした。


「イヤぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!?」


(なんだコイツ? 昨日襲われたのか?)


<ムフフ99>

:ふっ、盛んな年ごろだw

<漆黒の性年>

:けっ●ねや! クソが。

<オカンしか勝たん>

:そこ、通報すんぞ?

<王!爺ザス>

:まあ鎮まれ、続きを見ていこうじゃないか


 能力スキルの怪力を入れても、昨日はキュアに歯が立たなかった。一方的にボクは裸に剥かれて、あちこちペチョペチョされて、時折、甘噛みされた。それでかゆさのあまり気を失ったのを覚えている。昨日のキュアはおかしかった。いつものようにボクの汗だけを求めたのだろうか……。


「うーん……」

「お、おはよう」

「……なッ!!」


 背中を向けて寝ていたキュアがボクの方に寝返りをうって、すぅっと目を開くと、くわっと目を開き、ボクに鉄拳が飛んだ。頬を抉られたボクは、真っ裸で錐揉み回転をしながら、部屋の壁に激突して、もう一度気を失った。


「き、キサマ、寝込みを襲うとは卑劣なッ!」


 目を覚ますと、キュアは服を着ていて、ボクの反対を向いたまま怒っている。


「ち、違うよ。昨日キュアが酔っぱらっちゃって……」


<ムフフ99>

:不可避なエロやん

<病み営業おじさん>

:セル君がかわいそう

<user3720517596>

:いや、裏山だろw


 なんとかキュアの誤解(だよね?)を解いて、服を着て、準備を済ませ、宿を出た。


 それよりも、神たちの名前がボクの視界の端で、一人ひとり表示されている。皆さんとても不思議な名前をしている。


「神さま達のお名前が見えるようになりました」


<オカンしか勝たん>

:なんかオレらに言ってんぞ? 

<ムフフ99>

:アップデートされたから見えるようになったんじゃないかな?


 アップデート? そういえば昨日、神プレイヤがそんなことを言っていた。


「あの……ありがとうございます」


<ムフフ99>

:どいたま~


 不思議な神たちだ。彼らはいったいボクのどこが気に入っているのだろうか……。



「セルさん」「セルさま!」

「おぷッ」


 イーヴェルの町の領主マークス卿の娘、アンナさんとミタニア商会の屋敷地下に捕らえられていたリー・ミュールがボクの胸に突撃したので、朝食で食べたパンとスープを吐き出しそうになった。


<魔王ニート>

:なにを見せられているんだオレは?

<漆黒の性年>

:女難で刺されろ

<ムフフ99>

:その可能性は否定できないw


 神さま達がいつものように好き勝手なことを言っているが、今日はいつになく厳しい気がする。なんでだろ? あとキュアが宿る左目も心なしか熱い気がする。気のせいだろうか……。


「セルさん、いつでもこの町に立ち寄ってください。困ったことがあったらボクらはセルさんを全力で支援しますから」

「あははっ、ありがとうございます。困ることがないよう精進します」


 新生ミタニア商会会長のウラン君と別れのあいさつを済まし、ボクにくっついているアンナさんとリーをなんとか引き離し、イーヴェルの町をあとにした。








「ここから先は二手に道が分かれているんでさ」


 イーヴェルの町を発って2日が経過した。ボクはこの先が分岐している場所にある馬宿で一泊し、朝食をとりながら馬宿で下働きしている男のひとから話を聞いていた。


「向かって左の道は平坦な草原が広がっていて、魔物もほとんど出やせん」


 多くのひとが左側の道を選択するそうだ。安全で道もでこぼこしておらず、行商や旅人などの往来も多い。だけど、徒歩だと次の町まで5日はかかるそうだ。


「右の道は、ダルカス山を越える山道でこっちはおススメしやせん」


 行き交うひともほとんどおらず、道もあまり整備されていないので馬車で通ろうとすると、何度も脱輪してしまうので、得策ではなく、山道には魔物も頻繁に出るそうだ。山道を越えた先の森のなかに村があり、こちらの道なら3日もかからず、次の町に行けるそうだ。


 徒歩だし、魔物もボクにとっては、プールヴの森深界から生還できたくらいなので、そこまで脅威には感じられない。もし、神プレイヤが見ていたら面白そうだからという理由だけで、険しい道の方を選びそうだが、幸い昨夜から声が聞こえてこない。こういう時はだいたい寝ているので、静かにことを運びたいと思う。


「旅の方ですか?」

「はい、王都へ行く途中です」


 貧相な身なりの男の子と女の子が声をかけてきた。聞くとふたりは姉弟で、右の道を選ぶ場合は道案内ができると提案してきた。


 特に急ぎの旅ではない。なので普通なら平穏な左の道を選ぶが……。


「わかりました。では道案内をお願いします」


<ムフフ99>

:まあ、右を選んでくれた方が退屈しないけど、意外っちゃ意外

<微形男子>

:キャラ壊れたかw

<福沢ゆきちん>

:なにか考えがあるんじゃない?


 そう、ボクにはこの姉弟が放っておけなくなった理由があった。






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