第14話 ミタニア商会の闇


 スキル【無音歩行】のおかげで、ボクの移動は足音がまったくしない。ただカラダが壁にぶつかったり、走ったりすると音が出るので、その点は注意を払わなければならない。


 ──牢獄のなか。中にも外にも誰もいない。そっと鉄格子の扉に近づくと施錠されておらず、通路に出られた。


 いくつか通路があり、各牢屋のなかに数人の女の子が閉じ込められている。

 通路の先に階段があり、そのそばに見張りの男がひとり椅子に腰かけて退屈そうにしている。


 <ちょっと待つでござる>


 神々のひとりが、見張りの背後にまわって、気絶させて鍵を奪おうとしているボクを止める。


 <よく小説やコミックでは、見張り番がカギを持っている設定が多いが、実際はそうでござらん>


 小説? コミック? なにを言っているかわからないが、たしかに見張りがカギを所持していたら、奪われたら即、脱獄につながってしまう。男がカギを開けるかを見極めて行動に移した方がよいと教えてもらった。


「声をかけるまで席を外してもらえますか?」

「へへっ坊っちゃん。わかってますよ~」


 階段から少年がひとり降りてきた。歳はボクよりも下で灰色の髪を眉のあたりの位置で真横に切りそろえている。身なりからしてこの屋敷のなかでも身分の高い者にみえる。

 見張りの男は下卑た笑みを浮かべ、階段を登っていく。


:ウランくんか

:なんか可愛い……

:おまえ、そればっかりな


 カギを持っている。そしてすべての牢屋のカギを開けていく。


「どうして?」

「キミ達、はやく隠し通路から逃げるんだ」


 女の子のひとりが、牢屋から恐るおそる出てきて、質問した。どうやらボクが侵入した抜け道から女の子たちを逃がすつもりらしい。


「うぐッ」

「こんなことだろうと思ったよウラン」


 ウランが背後から羽交い絞めにされた。先ほどの見張りの男とは別で、その動きからして、訓練されたものであると考えられる。

 階段からゆっくり降りてきたのは、頭髪を染料で、赤、青、黄、緑、白と縦方向に5色に塗り分け、服装も極彩色で派手の極致にある。眉がなく、白粉をまんべんなく顔に塗りたくり、頬と唇は紫色の紅をさしている。


「ちっ父上。私はこの子たちを商売の道具に使ってはいけないと考えています」

「やれやれ……」


 ため息をつく男……マークス卿から容姿を聞いていたミタニア商会会長、トロム・ミタニア。一代で財をなした男は、ボクには異形のものにみえた。


:パンク概念きたぁぁぁぁ

:街で目が合ったら、オレなら100%目をそらすw


「おまえは兄のレオナルドより賢い。後継者にしたいぐらいなのに」

「イヤです。ボクは裏稼業を継ぐ気なんてありません」

「この商品たちはどうなるのか知っているか?」

「他国に奴隷として売り飛ばすなんて反対です」

「半分はな」

「それはどういう意味ですか?」

「〝素〟で売れない粗悪品は、解体しないと割に合わないんだよ」

「そんな、父上。あなたという人は……」

「少し反省が必要なようだ。おい」


 トロム会長が、ウランを羽交い絞めにしている部下の男に指示をだして、近くにある空いている牢屋にウランを半ば引きずり押し込めようとする。


:臓器売買か……

:実録、闇ブローカー業w


(これは潰し甲斐がある)


:同意

:キツめに頼む


 ボクのカラダは、神プレイヤに操られていて、自由がきかない。通路の壁にある篝火かがりびを避けて影を伝い、トロム会長の背後にまわり込み、首をに片腕をまわし、反対側の腕でその手を固定して締め上げる。


「ぐッなんだキサマ!?」


(おいキャラ、オレの言っている言葉がわかるなら今かららいう言葉を口に出せ)


「動かないでください。さもないとこの人が苦しくなります」


(違ぇ―よ。『動くな、コイツの命はオレが握っている』だろ!)


「いやーちょっとそれはボクには言えないです」


(あーもういい。じゃあ次は……)


「ウランくんと女の子たちを全員解放してください」

「うぐっおい、言われた通りにしろッ」


 ウランを拘束していた男は、こちらの要求通りに動いた。最後は「牢屋のなかへ入ってください」と命令し、カギをかけた。


「あの……あなたは?」

「今は、ここからの脱出が先決です」


 ウランくんにボクが何者か問われたが、ここで悠長に会話を楽しむ余裕はこれっぽっちもない。ボクがトロム会長を盾にして、皆、後を追ってもらい階段を登り始めた。


「キサマっ、今朝のフザけた野郎ッ!」

「動かないでください。会長の命はボクが握っています」


 地階から1階にあがり、外に出るべく廊下を進んでいると、用心棒の3人を連れだってレオナルドが駆けてきた。しかし、会長の首すじにあてたナイフをみて、立ち止まる。


「なにをしている? さっさと退かんか」

「親父……ソイツらを逃がしたらエライことになるぞ?」

「キ、キサマ。なにを考えている?」


 レオナルドがニヤリと笑う。それをみてトロム会長の顔が蒼ざめた。


:さすがクズな親の元ではクズが育つなw

:いや、ウランくんはまっすぐで、いい子だ

:ホントだよ。どうなってんの? 実子じゃない?


(よし、【指し手】発動。ひとりは窓を割って〝投げろ・・・〟──残りのふたりは前方を死守)


 神プレイヤの言葉どおりに兵士たちが行動に移す。同時に用心棒として雇われているだろう3人の男と兵士ふたりが衝突する。かなりの手練れだ。このままでは押し切られるのも時間の問題……。



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