第10話 ゴブリンジェネラル戦


 ──現在、兵士が3体いるが、そのうちの一体に矢を持たせた。【指し手】により召喚された兵士の武器はランダムだと思っていたが、出現する際、持っている武器を選択できることが、先週わかった。


 坂道の幅は約5メートルくらい。中央のボクと残りの2体で道を塞ぎ、その間に弓を持った兵士に背後から飛び道具を持っているホブゴブリンを削る作戦に出た。


 ホブゴブリンは、普通のゴブリンよりも知性が高い。こちらの作戦に気がつくと、木や岩陰に隠れて、こちらの弓兵に狙われないように身をひそめた。

 だけどここまではボクの作戦に含んでいた。ゴブリンなんて何十体いてもボクと兵士たちの敵ではない。坂道を下ってきたゴブリン達を片っ端から倒して、坂道を一気に駆け上がる。



 ──すごく速かった。高速で飛来する槍にボクは胸を貫かれそうになるものの、兵士の1体が身を盾にして防いでくれた。坂道を駆け上がって平坦になっている場所は、木々や岩陰が多少あり槍を投げてきたのが、どの魔物なのかがわからない。近場にいるホブゴブリンから相手をしている間にまたも死角から槍が飛んできて、2体目の兵士が餌食となる。

 そして、最後のホブゴブリンを倒したと同時に3体目の弓矢を持った兵士が地に伏した。


 ゆらりと岩陰から出てきたのは、2メートルを超えるゴブリン。通常のゴブリンやホブゴブリンと違って、鋼のような筋肉に身を包んでいる。左右にはホブゴブリンが2体控えていて、一騎打ちなんて概念がない魔物にとって、ボクはただの獲物にしかみえていないだろう。


 【月炯眼ザ・ホルス】で中央のゴブリンの能力をみる。


 ─────────────────────

「個体名なし」 オス 12歳

 ゴブリンジェネラル

 筋力  3.815 +0.400

 瞬発力 0.882

 耐久力 1.871 +0.400

 魔力  0.000


 <固有スキル>

「空き」

 <スロットスキル>

【槍投げ(C)Lv4】:永続型(効果:槍投げの威力、飛距離に補正)

「空き」

「空き」


 <能力スキル>

【強靭(D)Lv4】:永続型 (効果:筋力、耐久力に補正)


 ────────────────────


(ちょっとキツいな)


:操作するん?


(いや、キャラに任せるわ)


 うーん、正直勝てるか微妙なところ、まあボクが死にそうになったら神プレイヤがボクを操ってくれるだろうから、余計なことは考えずに目の前にいる3体の魔物をどうするか、動きをよく見定める。


 ゴブリンジェネラルのそばには、まだ2本も投てき用の槍が残っている。ホブゴブリン2体をボクに突撃させている間に投げ槍でボクを仕留めるつもりだろう。あとスキルがついている分、威力が尋常ではない。木々を遮へい物に利用したとしても、木ごと貫かれてしまうと思う。


:セル氏、ランチェスターの2次法則を潰すでござるよ


 神のひとりが、アドバイスをくれたが、ことばの意味がわからないので戸惑う。


(接近戦に持ち込めって意味だろ? キャラが混乱するだろが)


相済あいすまぬ


 いろいろ気になる会話だけど、今はそれどころではない。


 それと接近戦に持ち込むためにはどうしても一投目を回避しないといけない。あの速度は神プレイヤには可能かもしれないが、眼を使っても身体能力的にボクには無理だ。


 だけど突撃する。距離は約20メートル。やはりゴブリンジェネラルはボクを近づける前に片付けるつもりだ。槍を大きくふりかぶって、投げた。回転しながら唸り上げる音とともにボクの腹部に風穴をあけようと迫ってくる。


 考えてみた。よけることができなければ、撃ち落とせばいい。手に持っている戦鎚を思いきり真横に振ると、激しい衝撃とともに撃ち落とせはしなかったものの、軌道を逸らすことに成功した。その間にも距離を詰め、剣と斧を持っているゴブリンが、ゴブリンジェネラルへといたる道をふさぐ。


「くっ」


 ホブゴブリン2体を同時に相手しても、そこまで苦戦を強いられなく勝つ自信はある。だが、背後にゴブリンジェネラルがいなければ、の話だ。このままでは串刺しにされる。でもボクには突撃するしか手はない。


「まったく世話のかかるヤツよ」


 ボクの左目に宿るキュアが、飛び出すと腕を横に振った。その途端、視えないなにかにぶつかったように真横にホブゴブリン達が吹き飛んだ。

 

「うぁぁぁぁッ!」──叫びながらゴブリンジェネラルに突貫する。ゴブリンジェネラルも最後の槍を投げる姿勢が完了しており、真後ろに構えた槍を投げる動作に移る。


 ぐしゃっと、肉がひしゃげる音がすると、ゴブリンジェネラルは持っていた槍から手を放した。一瞬の差だった。ボクの戦鎚の方がわずかにはやく敵に届き、顔面に一撃をあたえ、倒すことができた。


「キュア、ありがとう」

「ふん、まったく弱いヤツをかばうのは骨が折れる」


 そう言いながら、ゆらりとキュアが倒れそうになったので、あわてて腰に手を回した。


「//なっなにをする不埒ものッ!!」

「ゴメン、倒れそうになったから」


 ボクは抱え起こして手を放そうとしたら、今度はキュアがボクの背中に手をまわしてきた。


「……チカラを使ったからワシは腹が減っておる」

「おなかが空いてるの?」

「うむ、だからよこせ」


 キュアはボクと一緒に食事をしなかったから、食事をとらなくて大丈夫なのかと思ってたけど我慢してたのかな? 顔を伏せてしゃべっているので、彼女の表情を読み取ることができない。


「そこに座れ」

「あ、うん」


 言われるがままに地面に座ると、背後からキュアがボクの首すじに舌を這わしてきた。




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