第9話 襲撃
「セル、どうした。その血は?」
「いえ、ちょっと転んでしまって」
なんてことをしてるんだボクは……。神の御業で相手を血だるまにした返り血なんてこの目の前にいる好意的に接してくれる騎士さまに話すことができないなんて。
「──そうか。まあいい。森のなかのことを教えてくれるか?」
フェナに説明したのと同じように、神々の話と魔人キュアの話を省いて説明した。
「そうか。にわかには信じがたいが、生きて帰ってきたのが証拠なんだろう」
騎士は兵士詰め所のなかで、周囲を見渡す。
「しかし、深界に潜って生きて帰ってこれるものなど、国がおこす大規模な調査隊じゃないと無理なレベルなのにひとりでよく帰ってこれたものだ」
深界まで迷い込んだ時は正直、運もよかったと思う。どんなに神プレイヤがボクを操るのが神がかっていても、ボク自体の能力がたかがしれていた。遭遇したら即、死につながる魔物もうじゃうじゃいただろう。だけど、帰りは違う。帰り道はキュアの【
「どうだ? これから少し手合わせしてみないか?」
騎士のひと言でボクは、兵士詰め所の隣にある広場で木剣を使って模擬戦を行うことになった。
(めんどい、任せた)
神プレイヤはそういい、Autoモードにしたのでボクが騎士と戦うはめになる。
森のなかでの特訓はすさまじいものがあった。たった一体でも苦戦する兵士を2体同時に相手をするという試練を課せられたのだ。
そしてボクのスキルである彼ら兵士は優秀過ぎた。ボクより素早さもチカラも全然、格下なのにボクを圧倒する。魔力を惜しむことなく使い、スキルを駆使するも届かない。なんどもなんども木の棒で打ち据えられて、身体じゅうが痛い。それでも延々と続けられた特訓はボクの耐久力と魔力を倍以上に引き上げた。そしてなによりボク本人の戦闘経験値の蓄積。
これまでは、強敵に遭遇した場合すぐに神プレイヤが「Manualモード」を使い、ボクのカラダを操って戦っていたが、特訓後はなるべくボク本人に戦闘を任せるようになった。そのおかげで今のボクは……。
ビュンビュンと騎士の持つ木剣の軌道を読んでかわす。キュアの【
「──ッ!」騎士は手加減してくれていたようだ。あまりにも攻撃の当たらないボクにフェイントを入れて途中で木剣の軌道を変えてボクの肩を狙ったが、ボクもまた手に持つ木剣で受け止めた。
「すごいな……独学でこれなら正式に剣術を習ったらこの国でもいちばんの剣士になれるかもしれん」
騎士はたいそう喜び、ボクに王都の騎士養成所の紹介状を書くと約束してくれた。
「た、大変です」
「どうした?」
用件がすべて終わったので、家に帰ろうとしたら、この村の巡回中の兵士のひとりが詰め所に飛び込んできた。
「プールヴの森から大量のゴブリンが村を襲ってます」
「見張りの塔の警鐘は?」
「それが、ゴブリンの斥候に最初にやられたようです」
「被害は?」
「仲間が数人、大けがを……今、村の北の丘に陣取ってます」
「すみません、これお借りします」
「あ、おい。セル待つんだ」
待ってなんていられない。村の北。その丘の下にはボクの家があるんだから……。
「母さん、フェナ!」
──いない。
扉を勢いよく開け放ち、なかに入ったが、家のなかは荒らされてはおらず、ゴブリン達が家を襲ったわけではないようだ。
今ごろ「カンカンカン」と村の中央にある鐘が鳴らされ、ようやく慌ただしく避難を始めている村のひと達の足音が外から聞こえる。
「たすけ……くはっ」
女性の叫び声……外に飛び出すと、近くで逃げ遅れた女性が、背中を2体のゴブリンに錆びた剣で貫かれ、倒れている姿を発見した。
「うわぁぁぁ」
通常、両手で扱う
ボクの腕力はすでに並の人間の腕力を逸脱している。錆びた剣をへし折り、そのままに頭蓋骨を砕いたボクの手にある凶器は、もう一体のゴブリンの胴体を捉え、数メートル吹き飛ばして、壁に死体をぶちまけた。
ひょいっとカラダが勝手にうしろに動く。いつの間にか神プレイヤがボクのカラダを操りはじめた。ボクがつい先ほどまでいた場所に数本の矢と槍が突き刺さる。
(こんな雑魚にやられそうになってんじゃねーよ)
「すみません」
(ったく、次に危なくなったら交代な?)
「はい、わかりました」
ボクは、もう一度カラダの自由を得ると、坂道のうえに5体いるホブゴブリンを確認する。そのまま駆け出して、目の前まで迫っている数十体のゴブリンに戦棍をふるって、潰していく。
ホブゴブリンの一体は弓矢を持っており、もう一度、ボクに照準を定めるが、逆に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます