第8話 教育的指導


「騎士さま、このものが私の主人を殺したんです」

「奥さんちょっと落ち着いて……話はこちらで聞きますので、お引き取りを」


 騎士はポリポリと頭をかきながらウグノさんの奥方をなだめ、他の男衆とともに家の外に出し、解散させた。


「まったく、コイツがそんな大層なことするわけないっつーの。なぁ? セル」

「騎士さま、ありがとうございます」

「なに、マルコさまのご子息が、父親に恥じるようなことはしないって知ってるからな」


 父のことを知っている。30代くらいのその騎士は、僕ら家族のことを今までそっと見守ってくれていたらしい。


「まあ、森のなかのできごとを聞く必要があるけど、ちょっと用事を済ますから1時間後に詰め所にきてくれ」


 騎士がそう言い残し、家を出ていくと、フェナがその場でへたり込んだ。


「お母さんコレ」


 ボクは、プールヴの森でさんざん魔物を倒して手に入れた魔石を袋ごと母に渡そうとしたが、手を握りそっと返された。


「あなたもマルコの血を引いているのね……」


 ボクが旅に出ようとしていることが、ことばを出していないに関わらず察したようだ。

 父の血を引いているから、自分を試したい、という訳ではない。神プレイヤがボクを使徒として選んだのは、ボクがこの世界でなにかを成さねばならないはずだから……。それがなんなのかわからないけど、ボクは旅に出ないといけない。きっとそれがこのモティック家の再興にもつながるはずだから。


 母は、由緒あるモティック家のなかでも特に名を馳せた近衛騎士マルコの妻であり、今は貧民の身であるが、その品位はいっさい損なわれていない。


 ボクはあきらめて、家を出て、村の万事屋よろずやに向かった。


:セルくん、こういう時はね……


 女性の神なのだろうか? ボクが神プレイヤに見初められたその時から、毎日のようにボクを見守っている御方がいる。戦闘や生存術には疎いようだが、先ほどの母とのやりとりをみて、助言をひとつしてくれた。──そうかそれなら母が気を遣うこともない。


 ガシっと、いきなり両脇をつかまれた。この村の年上のひと達。彼らの妹がボクの妹をイジメている。

 つかまれたまま、村のはずれにある人が住んでいない廃屋に連れていかれた。


「ひとを殺しておいて、よくこの村に帰って来れたな?」


 5人いるなかのリーダー。この村の村長の息子で、ずいぶんとワガママで粗野な性格で村のひと達も徒党を組んでいるこの5人組を恐れて、多少、人目のあるところで暴れてもみて見ぬフリをする。


「なんとか言えよコラッ!」


 両脇を押さえているふたりとは別のものに拳で思い切り殴られた。


:おーこれは汚い

:よし、コイツらは■ッてよし、オレが許す

:いやいやお母さんとか妹がいるからダメだろ?


 神々もこの行為は、よく思っていないみたい。彼らの拳や蹴りなどあの地獄の1週間に比べたらささやかなものだ。しばらく我慢してたら飽きて解放してくれるはず。それより幸いなのは神プレイヤはこの状況に気がついていないということ。もし、神プレイヤが気がついてしまった大変なことに……。


『ピロ~ン』


(あ? なんだこの雑魚ども)


「待ってください。刺激しないでください」

「刺激? なんのことか知らんが、家に帰れると思うなよ?」


 リーダー格の少年がそう言うと、隣の部屋から他の少年が、棒きれを数本運んできた。


「よし、今日ここでオマエを死刑にする」

「お願いですから、ボクのことは放っておいてください」

「バァ~カ、ここでオマエが死んでも誰も気になんてしねーよ」


 ──もうダメだ。そんなことしたら……。


 ────────────────────

  Autoモード

 ➡Manualモード

 ────────────────────


「お? なんだ最後の悪あがきか……おぶッ!」


 神プレイヤがボクのカラダを操り始めた。両側から押さえていたふたりを投げ飛ばし、棒きれでボクを叩こうとしたリーダー格の少年を殴り飛ばす。


「ひぇ……」


(誰が逃げて言いつった?)


 家の出口には、兵士が3体立っていて逃げようとした少年のひとりの頭を鷲づかみにして、奥に吹き飛ばした。


「……っ痛ぇ……だれだコイツら? オマエらオレはこの村の村長の……ぎゅふっ」


(なんだ? 雑魚がしゃべってるぞ? まあいいオレのモノに手を出した落とし前をつけようか)


 カラダの自由を支配されたボクは、リーダー格の少年の腹を殴り、押し倒し馬乗りになる。


「お、オマエこんなことして……がはぁッ!」


 殴る殴る殴る……。


 神プレイヤはかなり手加減して殴っているのがボクにはわかる。だけど、リーダー格の少年に慈悲をかけてやっているわけではない。


「こ゛め゛んな゛た゛い゛、も゛う゛ゆ る゛ち゛て゛」


 時間をかけた暴力により恐怖をカラダに刻む。少年が2度と歯向かわないように……。


 他の4人も同じように馬乗りになり、ごつごつと殴り続け、一周回ったところで2周目が始まった。


 ボクは操られてなにもしゃべってないのにこのことは誰にもしゃべらない。妹たちにも自分たちが、ボクの妹にちょっかいをかけないと約束した。


「あの……プレイヤさま、実は……」


 先ほど、この村の騎士と1時間後に約束していたこを説明するとようやく彼らを解放した。そのまま近くに転がっている少年のひとりの鼻や口から流れ出ている血で、床に文字を書く。

 

 ──「2度目はない」と血文字を書き残し、そのまま廃屋をあとにした。



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