第4話 超無責任な神々


 ──10日が経った。

 ボクはずっとプールヴの森をさまよいながら、森の奥深いところ……深界にきてしまっていた。


 なぜ、森の奥深くに来たのかがわかるのかというと、遭遇する魔物がこれまでみたこともないような魔物ばかりが跳梁跋扈している。それも恐ろしい強敵ばかり……。


 本当にここが深界なのであれば、アーキテクト王国の精鋭でもない限り、こんな深いところまでは辿り着けない。


 おそらく神プレイヤがボクのカラダを自在に操ったとしても、力量差がありすぎて、敵わないだろう。


 それなのになぜこんなところにボクが到達し、今なお生存できているかというと……。


 ガサッと、真横の茂みが揺れると、鋭い針が飛んできた。でもその長い針はボクには届かず、手前にいる兵士によって受け止められていた。


 別に道中、森のなかで探索しているひとと出会ったわけではない。このひと型の兵士は、たまに神プレイヤが見せてくれる「ステータス」というボクの能力を文字にしてくれる板に書かれている固有スキル「指し手(U)」によるもの。


 常にボクのそばにいるわけではなく、今回のようにボクに危険が及ぼうとすると、自動でなにもない空間から一瞬で登場する。


 チカラとスピードは、ボクより弱くて遅いけど神プレイヤがボクを操っている時みたいに動きに淀みがなく、まるで歴戦の勇士のような戦いを演じてくれる。


 そしてもっともすごいのが、たとえ魔物にやられて消えたとしても少し時間を置くと、すっかり元通りになって復活するところにある。


 この兵士のおかげでボクは、何度も命の危機を逃れ、なんとかこの場に立っていることが許されている。


 それともう一つ。3日前に戦ったトカゲ型の魔物が持っていたペンダント。

 ペンダントには赤い石がはめ込まれていただ、ボクが触った瞬間、パリンと割れて、目の端に「能力【模写(SSS)】を獲得しました」と文字が流れた。

 

 しばらく経ってから神プレイヤが能力を手に入れたことに気がついたらしく、(引きがスゲーなこのキャラw)と大層喜んでくれた。


 この模写という能力は、相手の能力を一度、目でみて確認したあと視界の端っこに流れる「模写条件」というものをクリアをしたら、相手の能力を獲得できるというとんでもない代物だった。


 この能力のおかげで、3つも新しく能力を手に入れた。神プレイヤにみせてもらうステータスウインドウに新たに【残像(D)Lv1】、【無音歩行(B)】、【火炎(C)Lv1】が表示された。どれもこの魔物の巣窟であるプールヴの森で大変活躍しており、ボク個人の強さもずいぶんと跳ねあがったのを感じている。


 それにしても、ウグノさんの手伝いをしててよかった。

 生存術を身につけているおかげで、森の中にあるものだけで、動物を捕まえるための罠や、雨水の集め方、食べることができる木の実やキノコの見分け方など、ひとりで森の中を生き延びるには必須な技術だった。



『とまれ……』


 ──ッ!?

 今のこえは、神プレイヤじゃない。なのに頭に直接響いた。


:おーい、なんかイベント始まってるぞー

:主、寝てんじゃない? 昨日も遅くまでやってたし

:キャラ任せw

:コイツ、スゲー弱いからヤバいんじゃないか?

:ユニークスキル持ちだから、何とかなるかも


 他の神々のことばは、文字として流れているが、神プレイヤのこえが聞こえない。


『引き返せ……』


:なに言ってるんだ。イベントだろ? はよ行け!

:オレ達がついてるぞー。見てるだけだけどw

:待って、セルくんがかわいそー!


 戸惑っているボクに神々が「進め」と言ってきた。この10日間でわかったことは、他の神々はとてつもなく無責任であり、少し前まで話していた神がいなくなり、初めてボクをみるという新しい神が発言したりもする。ときどき神々の口から「配信」ということばを聞くが、どうもそれはボクとボクを導く神プレイヤが行っていることを指しているようだ。


『警告を破るものよ……』


 うわぁ、どうしよう? 声の主が怒ってるよぉ。

 

『汝には死よりもつらい罰をあたえよう』


:上等だ。やれるもんならやってみろやッ!

:いや、おまえのキャラじゃないしw


 すでに【指し手(U)】で兵士を召喚して前を歩いてもらっているが、あまりにも心細い。


 ──すごく立派なお墓だ。

 木々が立ち込める森のなかで、ポカンとひらけた広場に出ると、真ん中に巨大な石造の墓が鎮座していた。ズズッと音が周囲から聞こえると、周辺の地面の土がめくれ上がり、人間の死体が大量に這い出してくる。


『どうした。ひとの子よ。怖気づいたのなら逃げてもよいぞ?』


 そうだ逃げよう。無理だよ……こんなの勝てるわけがない。


『ピロ~ン』


(おいおい、な~んで敵前逃亡しようとしてんだ? 楽しみはこれからだろうが)


:重役出勤w

:登場のタイミングみてた? みてたよね?


(あ? みてねーし。今起きたとこだよ)


:そんなん、どうでもいい

:はよ戦え


(くっテメーら……まあいい、今からゾンビをボコるから黙ってみてな)


 ひぇぇぇ、ひどい。神でなしだぁぁぁぁッ!





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