第四章
その日、宮殿を走っていたロスとラスは前をよく見てはおらず、誰かにぶつかってそれで止まった。問題は、そのぶつかった誰かだった。
「あっ陛下」
それは、国王ギリアドであったのだ。
怒鳴られる――。
ロスとラスは思わず目を瞑った。平生のギリアドならば、それがふつうであった。
しかし、違った。
「……気をつけろ」
彼はそう言ったのみで、また何事もなかったかのようにあちらへ歩いて行ってしまったのである。
「え? あ、はい」
「き、気をつけます」
ロスとラスは顔を見合わせて、それから首を傾げ、
「?」
という顔になって、そして言われたとおりに走らず、歩き出した。
それを見ていた近衛隊長ランスロットは、近くにいた宰相ザイオンにこんなことを言った。
「国王陛下は最近、お人が変わりましたな」
「うん?」
「以前はああいった場面では怒鳴られていたのに」
「そういえばそうだな」
「ご結婚、なされてからではないですかな」
「……そうか? 気のせいではないのか」
「私はどうもそのような気がする」
ランスロットはそんことを呟いて、ロスとラスと話すアリシアとヤスミンの側へ挨拶に行った。
「妃殿下におかれましては、ご機嫌うるわしく」
「あらランスロット隊長、こんにちは」
ヤスミンはいきなりランスロットがやってきたので、頬を染めて小さな声で挨拶した。「ランスロット様」
「ヤスミン王女」
しばらく世間話をして、ロスとラスがこんなことをランスロットに尋ねた。
「ランスロット隊長は結婚しないんですかー?」
すると彼は、胸に手を置いてふっと笑った。
「私は、この身を剣と国王陛下に捧げています。結婚などとは、考えておりません」
では、とランスロットは下がっていった。
ヤスミンはぼーっとその後ろ姿を見送った。
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