危機状況
大きな爆発音が船を一瞬の静寂に招き入れる。突入部隊指揮官である浅川三佐はすぐに状況の確認に努めた。どうやら艦橋内部で大きな爆発があったらしい。まずい、まだ2人の隊員が残っている。
「杉元!俺と状況確認に行ってくれ!」
「了解!」
2人の隊員は一路来た道を戻った。このときには食堂制圧を担任した二班の隊員もおり、計5人の隊員がすでに警護を固めていた。
「頼む、無事でいてくれ。」
浅川はそう願ったが艦橋に入った瞬間、その希望は打ち砕かれた。一面真っ赤だった。
「おい何があった!?おい!!」
近くに倒れていた成田二等海曹が震える手で目の前の肉の塊を指さし、絞り出すような声でいった。
「じ、じば、じばく、自爆、自爆した。」
敵を確保するためうつぶせになっている敵を仰向けにしようとひっくり返した瞬間、手榴弾のピンが抜け爆発したようだった。
「池田、池田三曹はどうした!」
成田が指を右にみける。そこには左腕を失い、意識をなくした同僚の姿があった。
「池田、、、池田なのか?」
杉元がそう言って固まる、さっきまであった手がない。同僚の、同僚の手が一つしかない。俺の手は?俺の手はついてるのか?血だ、血がついてる、もしかして俺は撃たれたのか?い、嫌だ。死にたくない!死にたくない!
「ぎゃああああああああ」
「落ち着け!!お前は無事だバカ野郎!」
「うあああああ」
「杉元!杉元二等海曹!!」
「っ!」
なんとか隊長の呼び声で正気に戻る。隊長は無線機を取り出し
「突入部隊よりいずもへ重傷者2、1名は左前腕部が欠損、もう1名は火傷がひどい。救助ヘリを要請する。」
「了解した。後部デッキへの誘導を願う。」
隊長はすぐに救助ヘリを要請するとそのまま回線を切り替えて立ち入り検査部隊へと連絡した。
「突入中止!突入中止!」
杉元は隊長を見上げて聞いた。
「たった13人でどうするんですか?」
「あ?俺達は特別警備隊だぞ、命がなくなるまで一人一人が一騎当千、いや一騎当万のつわものだよ。当然任務は継続する。」
隊長の狂気的とも言えるその目はなぜか杉元を勇気づけた。
「おいお前は成田を担げ、俺は池田をやる。」
「人質の警護に三人、貨物警備に三人、艦橋に二人残し五人で後部デッキに向かうぞ!!」
「了解!」
後部デッキ 突入から12分
後部デッキ、甲板は比較的開けていてヘリの離着陸が容易な場所である。負傷者を更迭するために急ぎ向かったがそれが罠であるとすぐにわかった。敵も船の構造を理解しており、隊員一人を負傷させればその負傷者を引きずった突入部隊が必ず後部デッキに現れることを見越してここに強固な防御陣地を築いていたのである。敵の主力だ。月明り一つない早朝の海上に幾百もの銃の閃光が光る。暗闇を裂くように放たれるその光は人の心を惑わせる。人間の醜さが作り出した破壊の力の集合が静寂さを嫌うかのように輝く。となりで見ていたむらさめ乗員はその異様な光景に恐怖、そして筆舌しがたい高揚を覚えていた。その光の影で何が起こっているかを知らずに。
「畜生、杉元、浜田、すぐに負傷者を遮蔽物の裏に隠せ!!」
浅川隊長は負傷者を安全な位置に移すと残り二人の隊員とともに比較的敵が陣地を築いている位置より上の位置に陣取り互角の位置で応戦した。しかしここでさらに最悪の情報が入る。
”ネレウスは東京化学石油コンビナートに進路をとっており、あと一時間で突入する”
「艦橋より、隊長へ!エンジンが停止できません!」
テロリスト側はリモコンか何かでエンジンを操作しているらしい。あと一時間でタンカーが石油コンビナートに突っ込む。遠く遥かに陸地の光が見えた。
「隊長!私に作戦があります!」
意見具申をしたのは泉二等海尉だ。
「あそこにエンジンの排気口があります。あそこの排気口は直接真っ直ぐにエンジンルームに繋がっています。ここを破壊して、エンジンルームに火災を起こし、安全装置を作動させてエンジンを停止させましょう!」
「いけるか、中尉。」
「撃たれても走って見せます。」
「よし、幸村!中尉を援護しろ!」
閃光弾を投げ入れ、強烈な閃光が甲板を包む。泉はまっすぐに身を起こして敵陣地の後方にある排気口に突進した。一瞬の間をおいて泉の突撃に気付いた敵が彼に銃を向ける。しかしその銃火の光のもとを浅川と幸村准尉が正確に撃ちぬく。泉が排気口直前の少し広い区画に差し掛かったその瞬間二人の敵が飛び出してきた。泉は狭いここで小銃は不利と判断し小銃を捨て、ナイフと拳銃を抜いた。銃はその弾丸は脅威であるが逆に銃口の前に立たずに、ふところに潜りこんでしまえば引き金を引くよりナイフの方が速い。まして泉は特警隊員だ陸自相手なら3人、素人なら10人くらい余裕で潰せる。冷静に一人の喉にナイフを突き立て思いきり捻る。ナイフが抜けないと判断した泉は近くにあった消火器すぐに拾い上げてを残った敵の顔にかけ、ひるませた後、直接そのまま消火器で頭を潰した。
「食らえ」
エンジンルームに時限式の手りゅう弾を二つ投げ入れる。激しい爆発音に安堵した泉だったがまだ息のあった敵が拳銃を握ったことに気付くのにコンマ二秒おくれた。
バンッ
敵の凶弾が泉の防弾チョッキの隙間を射抜く、しかし、そんな状況でも泉は慌てずに倒れこんでいる敵に最後の鉛玉をぶち込んだ。
「ちっ、やられた。」
ポーチの底から止血帯を取り出し結び、出血を押さえて、その上からモルヒネを打った。これであと1時間は戦えるはずだ。
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