最後の反逆者

第1話

　その日、私はすでに一度死んだ 。世の中は変わり、恨みに蝕まれた肉体は、怒りを発散するための別の犠牲を求めていた。ただ一度も感じたことのなかった強い感情に胸が引き裂かれるようだった。漆黒のような独房で成し遂げられなかった夢だけを胸に抱いて消えていく人々が感じる怒りがこんなものだったのだろうか？ この疑問に対する答えは、さらに別の疑問を引き起こした。 こんな沸騰する恨みが地を荒廃させるのだろうか？ こんな利己的な欲望が水を腐らせるのだろうか？生まれ変わるならば、ただ私を残して去った人々のための追慕の道を歩むと自分自身に誓い、その怒りを慰める復讐のためだけに魂を燃やすと神に誓うしかなかった。

　日差しが一切入らないノズフェデン神殿の深部で、足音が響く。白いローブを着た少女が、ある部屋の前に足を止めている。一歩先も見えない漆黒の中から門の間に光が漏れている。彼女はさりげなくドアを開け、ローブを脱ぎ捨てる。

　「ここですね。」

　彼女は大きくため息をつき、部屋を見回す。四方に湿気と苔が生えた部屋で、ある少女が強烈な光を放つ鎖に捕らわれている。彼女は気を取り直し、目を閉じたままその少女に手を伸ばす。彼女の手から、鎖が発する光と同じ色のエーテルが煙のように噴き出し、少女を包む。すぐに鎖が切れ、少女がそのまま落ちた。

　「私はエルマです。目を開けましょう。ベルセイジ。世の中はあなたを待っています。」

　「うーん…何だろう…この夢のような気分は…」

　ベルは手を地面につけてゆっくりと立ち上がる。

　「気が付きましたか？目覚める時間です。」

　「何があったっけ？あなたは私の名前をどうやって知っているの？きっと私は。」

　ベルは眉をひそめて座り込む。

　「先にこの鎌を受け取ってください。」エルマはベルに鎌を投げ渡す。

　「うーん…頭が…ベルが鎌を受け取ると、眠る直前の記憶が思い出され、頭が割れるような痛みが走る。」

　ベルは足の力が抜けて、再び地面に座り込む。

　「大丈夫ですか？」エルマはベルに手を伸ばし、ゆっくりと近づいていく。

　「デミス、あいつは今どこにいるの？」ベルが突然怒りに満ちた目つきで大きく鎌を一度振り回す。

　エルマは素早く避け、急な声でベルを促す。

　「落ち着いてください。今は喧嘩している場合ではありません。一刻も早くここを脱出しなければなりません。」

　その時、真上で騒がしい足音とともに誰かの声が聞こえる。

　「侵入者が現れた。皆警戒を強化せよ。」

　「ちょっと…もう気づくなんて…」

　エルマは不吉な感じがして顔をしかめる。

　「何？ここに私たち以外に他の人がいるのかな？」

　「神殿を守る聖父軍の警備です。すぐに封印が解けたことに気づくでしょう。」

　「だから敵ということなの？邪魔する奴らは全部無くしてしまえばいい。」

　ベルは平然とした表情で歩いていて、また一度よろめく。

　「うーん…頭が…」ベルは頭をつかんで地面に座り込む。

　「目が覚めたばかりなので、多分完全ではないのが当然でしょう。早くここを離れて安静にした方がいいと思います。」

　「ここはどこ？その奴を見つけて斬るべきだ。」ベルの目が怒りで燃えている。

　「落ち着いてください。ここは雲海の中のハヌル島にある神殿。歩いては入ることもできないし、出かけることもできない場所です。」

　「じゃあ、あなたはどうやってここに入ってきたの？」

　「脱出手段を別に用意しておきました。とりあえず、そちらに行きましょう。」

　「信じていいんだろうね？」

　「ここまで危険を冒して助けに来たことを考えると、そんな嘘をつく理由がないと思います。」

　「じゃあ、どうして私を救おうとするの？」

　「詳しい話は一応ここを抜け出した後にした方がいいと思います。」

　「そうだね。とりあえず、そうしよう。」ベルはエルマの言う通りに従うことに不満を持っているが、どうしても断ることはできない。

　二人が急いで部屋を出て神殿の廊下を走っている途中、角で誰かの気配を感じる。

　「ちょっと待って、ここで待機。」ベルが素早く身を隠すと、エルマもすぐに足を止める。

　もしかすると非常に小さな風の音でも聞こえるのではないかと思い、2人は息を殺したまま彼らが交わす対話に耳を傾ける。

　「すでに神殿を守る警備員数人が奴にやられた。侵入者が誰であれ防がなければならない。ねずみ小僧一匹も抜け出せないようにしなさい。」

　「当然の話です。決して逃げられません。」

　「傲慢になるな。私たちはまだ侵入者が誰なのかさえまともに知らないからね。」

　「はい！分かりました！」

　ベルは彼らがまた散らばったことを確認し、静かに出てくる。

　エルマはベルに慎重について行く。ベルがエルマをちらっと見つめながら先に話を持ち出す。

　「見たところ, よほど騒いでいるようだね。 そうだね、気をつけばよかったのに。」

　「特に大きな騒ぎを起こしたわけではありません。」

　「城府郡の警備に何をしたかは分からないが、こんなところにこっそり入ってくる時は足音を出すだけでも大騒ぎだ。」

　「それは…しょうがない…」

　「まあ、いいよ。助けに来たありがたい人にこんなことを問い詰めるのも礼儀ではない。」

　「それではこれからどうやって…?」

　「こうなった以上、もっと大きな騒ぎを起こすしかない」

　「もっと大きな騒ぎだとしたら…」

　「不死者を利用するんだ。」

　「ここに不死者がいることをどうやって知っていたのですか？ 言及すらされていなかったのに。」

　「その程度はあえて教えなくてもわかるよ。私の感覚が少し鈍くなったけど、燃え上がる感情が感じられる。叶えられなかった感情にとらわれた泣き声が耳元を響かせているんだ。」

　「なるほど。」

　「それで、今どこにいるの？」

　「今、神殿の監獄にいます。」

　「なぜ彼らをここに閉じ込めておくの？」

　「この神殿と島を保護する結界を維持するためには莫大なエーテルが必要です。彼らを生け贄に捧げているのです。」

　「昔も今もただの燃料だというのか？」

　「解放でもするつもりですか？」

　「そう、どうせ閉じ込められたまま死ぬ日だけを待つやつらだから暴れたくていらいらしているんだろう。 彼らが暴れて警備員の目を引く隙に私たちはこの神殿を脱出する。 地下監獄はどっち？」

　「私がご案内いたします。こちらへ…」

　ベルはエルマについて神殿の深いところに入り、ある入り口で立ち止まり、暗闇の中に身を隠したまま注意深く観察する。

　「まさにこの先が監獄エリアです。」

　「警備が二人。」

　「どうするつもりですか？」

　「騒ぎ立てると見つかるかもしれないから、私が静かに処理するよ。 この鎌だけしばらく持っていてくれ」ベルが背負っていた鎌をエルマに渡す。

　「はい…」

　エルマが鎌を受け取るやいなや、ベルは素早く衛兵のところに駆けつける。

　「お…お前…お前は…」

　警備員がベルを見つけて剣を抜こうとすると、ベルは彼の足を引っ掛けて倒す。警備員は剣を地面に落として転がる。その時、すぐ後ろで他の警備員がベルに剣を振り回す。彼女はまるで彼の動きを読むかのように何度か軽く避け、地面にある剣を拾ってまっすぐに彼を止める。

　彼女と彼の剣が震える中、さらに別の衛兵が立ち上がる。ベルが彼をちらりと見てから、目の前の警備員を蹴飛ばす。彼はすぐうめき声をあげて地面を転がす。反対側から怒りがこみ上げてくる警備をこっそり避けて、彼の腕を掴む。ベルは彼を見つめながらにっこり笑い，一方の壁にもたれかかってよろめく警備員に容赦なく投げつける。警備員2人が一緒に壁に強くぶつかって地面に倒れる。

　「さあ、もういいよ。出てもいいよ。」ベルは警備2人が完全に気を失ったことを確認し、エルマが隠れている方に視線を向けて手招きする。

　「武装した警備をこんなに簡単に処理するなんて…すごいですね。」エルマはベルの合図を見つけ，二人を交互に見ながらゆっくりと近づいていく。 エルマは再びベルに鎌を渡す。

　「ただのザコじゃないか。 私が本当に狙うやつはこんなやつらとは次元を異にす。」

　「ここが監獄だということ？ 確かにこのドア越しにすごいエーテルが感じられる。」ベルは視線を再び正面に向けて監獄のドアを一度撫でてみる。

　「私の番ですね。」エルマは強力なエーテル結界が作用する監獄の門を眺めながら大きく深呼吸する。

　「消える気配が見えないほど強く燃える未練。」ベルが鎌を再び背中に負う。

　エルマが手を伸ばし、ドアの結界に自分のエーテルを流し込み、ドアがエルマのエーテルに反応してすぐに開く。

　「さあ、行きましょう。」エルマはベルに手招きする。

　ベルはじっと立って顔をしかめ，エルマをじっと見つめた。

　エルマは振り向いてベルの顔色をうかがう。

　「何か問題でもございますか？」

　「いや、思ったより簡単に開いたことに少し驚いただけだよ。監獄じゃなくて自分の家のドアを開けてるみたいで。こんなことをたくさんしたみたいだね？」

　「まあ、慣れていると言えますね。先ほど言ったように、私は神の分身であり、ここがその神を祀る場所だから、自分の家のドアを開けるというのが完全に間違っているとは言えません。」

　「へえ…これがまさにエルマ、あなたの言うことが事実だと証明することでもいいということか？」

　「証拠だと私の口で話すには少し照れますが…そうだと言えるでしょう。」

　「封印を維持するのに必要なエーテルを補うために不死者を使ったと言っていたよね？」

　「はい、そうです。もしかして、それが気に食わないんですか？」

　「いや、それは違う。 とにかく死ななければならない存在。 世の中のエーテルを吸い込みながら山と川を荒廃させる存在に過ぎない。 ただ、このようなことに不満を持っているのは、私を裏切って一族を虐殺したあの人物が今も同じことをしているということに腹が立っているだけだ。」

　「わかりました。」

　ベルは監獄に入り，監獄のバーを通して不死者の状態を一瞥する。

　「みんな静かだね。」

　「監獄の内部にかかった魔法が不死者の感情を抑えているのです。どんなに箱の中に入ったネズミでも暴れれば迷惑なのは同じですから。うるさいよりも大人しいのがどうしてもいいということです。」