第26話 サンタ×サンタ
After
もう何十年も、私たちは『サンタクロース』をしている。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、明日ね」
十二月二十四日。いつもは同じ寝室で寝る私たちが、別々に寝る日。
彼女はアトリエにある仮眠用ベッド。私は、いつものベッド。
習慣になった『おやすみなさいのキス』をしてから、彼女が部屋を出ようとして。
「……自分で言い出したことだけど、寂しいわ」
「ふふっ、今日一日だけですよ」
やっぱり今年も戻って来て、私を抱き締めた。背の縮んだおばあちゃんになっても、寂しがりやなところは変わらない。なんて可愛いんでしょう。
「おやすみなさい、私のサンタさん」
「ええ、おやすみ。私のサンタさん」
私たちは、お互いの背をぽんぽんと叩き合うと、明日の朝を約束した。
恋人はサンタクロース。なんて素敵なことかしら!
※※※
Before
「ねえ、私たち、お互いのサンタクロースにならない?」
「お互いの……?」
親の反対を押し切って、私たちは二人で見知らぬまちに来た。
誰も私たちを知らない、私たちも誰も知らない。そんなまちに二人きり。きっと子供時代のまちには、一生戻らない、戻れないから。
せめて『クリスマス』なんていう甘く優しい家族の夢みたいなイベントを、その甘さのまま二人でも抱えていたいと思ったのだ。
「私のが宵っ張りだからさ。朝子が寝てる間に朝子の枕元にプレゼントを置いて……」
「早起きした私が、まだ寝てる夕海の枕元にプレゼントを置く、というわけね」
そういうこと、と私が笑うと、彼女は「いいわね」と柔らかく微笑んだ。
「とっても素敵」
この穏やかな笑顔をいつまでもいつまでも隣で見続けたいと、狂おしく願う。
「楽しみだね」
「ええ、とても」
一番欲しいのは、そんな未来がずっと訪れるという約束かも知れなかった。
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