第23話 温泉愛好家×温泉愛好家
After
かっぽーん……
湯気満ちる空間に、お定まりの音がする。多分、誰かが洗面器を置いたのだ。ドドドド、とお湯の注がれる音も、また響き出した。
「「あああ~~~~」」
私とゆかりの声が重なる。さやさやと頬を撫でる風は、すっかり冬のそれで、キンと冷えていた。この温度差が、たまらない。露天風呂。
「癒されるわねぇ……」
「ほんと……柚子の薫りがまたいいわ」
「そっか……今日は冬至だものねぇ」
風呂にぷかぷか浮かぶ柚子からは、涼やかな薫りが立ち上る。
「……雪、降ったら雪見風呂になるんだけどな」
「雪道は滑るからねぇ。私はちょっと怖いなあ」
「それは本当にそう」
二人顔を見合わせてくつくつと笑った。
「やだねー。情緒より身体を取っちゃう」
湯に沈む身体も、何処もかしこもガタピシ喚くし、しわしわのしみしみだ。
「けど、大事。だって、健康で居たら、ずっと一緒に居られるんだから」
お湯の中で、私の鶏ガラの手を探り当て、握り締めてくれる手がある。同じように鶏ガラになっちゃったけど、それでも昔から変わらず、この世で一番愛おしいそれ。
「……そーれもそうだ」
「ね」
その手を握り返して、また「は~~~~」と息を吐く。心の底からホッとする。温かくて、いい薫りがして、隣には好きな人。極楽の予行演習を、今日も楽しむ。
※※※
Before
「いい湯だねぇ」
「ほんと」
温泉は、大好き。濁り湯も、炭酸湯も、内湯も、外湯も、どれも好き。
でも。
「見て、山の緑が迫って来るみたい」
「こういうの、ほんといいよねぇ」
アンタと入る温泉が、一番好き。
周りの景色に夢中になってる、その白い背中が一番好き。
真っ直ぐで、染み一つ無くて。健やかな気配がいっぱいなのに、そこが何処か色っぽい。
(ドキドキしちゃう)
それって単に性欲であって、温泉関係無いんじゃないのって言われそうだけど。
違うんだな。
「ね、あの鳥なんだろう?」
「どれどれ?」
好きと好きが掛け合わさったときに生まれるわくわくとドキドキと、こっそりあるムラムラが、心地好いのだ。
「……温泉、いいねぇ」
「ね」
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