第28話 不安の正体に向き合う

不安は、いつもそばにいる。それはまるで、自分の影のような存在だ。両親の病気、経済的な問題、自分の将来――どれを取っても、解決の糸口が見つからないことばかりだ。不安が私を取り囲むとき、それはまるで濃い霧の中を歩いているような感覚になる。


私はこれまで、不安と向き合うことを避けてきた。どうせ答えが見つからないなら、考えないほうが楽だと思っていた。でも、不安を見ないふりをしても、それが消えるわけではなかった。不安はむしろ、私が目をそらすたびにどんどん大きくなっていった。


あるとき、「不安が何を訴えているのか考えてみるといい」と、ある本に書かれているのを読んだ。その言葉に半信半疑ながらも、不安の正体を探ることにしてみた。ノートに不安を一つひとつ書き出してみると、それが少しずつ「具体的な問題」に変わっていった。


例えば、両親の病気への不安。それは「自分が彼らを十分に支えられるだろうか」という思いから来ている。そして、その支えが経済的な問題と絡み合っていることにも気づいた。また、自分の将来への不安は、「一人になったときにどうやって生活していくのか」という現実的な問いから来ていることが分かった。


不安の正体を言葉にすることで、それが少しだけ扱いやすいものになった。それは漠然とした恐れではなく、「具体的な問題」に変わったのだ。


もちろん、すべての不安が解消されたわけではない。でも、不安の正体を理解することで、「これは今すぐに対処すべき問題」「これは長期的に考えればいい問題」といったように、優先順位をつけることができるようになった。それが、不安に押しつぶされそうな日々から少しずつ抜け出すきっかけになった。


最近では、不安を抱えたときに「これは何を伝えようとしているのだろう?」と自分に問いかけるようにしている。その答えがすぐに見つからなくても、問いかけるだけで不安との距離が少し取れるような気がする。


不安は完全には消えない。だけど、それと向き合いながら自分の気持ちや状況を整理していくことで、少しずつ進んでいくことができる。


不安は決して敵ではない。それは、自分に「大切なことに気づいて」と伝えようとしているメッセージなのだと思う。これからもそのメッセージを受け取りながら、日々を生きていきたい。


霧の中を歩くような日々でも、進む道を探す手がかりは必ずある。その手がかりを見つけるために、不安とともに歩む覚悟を持ちながら、今日もまた一歩ずつ前へ進もうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る