第21話 感謝の形

「ありがとう」という言葉を、最近意識して使うようになった。それまでは当たり前だと思っていたことにも、少しずつ感謝の気持ちを込めるようにしている。両親に対しても、友人に対しても、支えてくれる全ての存在に「ありがとう」を伝えること。それが、自分の中で心を軽くする方法になっている気がする。


以前の私は、「感謝を伝える」という行為を少し照れくさいものだと思っていた。両親が家事をしてくれることや、友人が話を聞いてくれることに、心の中では感謝していても、それをわざわざ口に出す必要はないと思っていた。


でも、ある日ふと気づいた。私自身が「ありがとう」と言われると、少しだけ救われる気持ちになることに。些細なことでも感謝されると、自分が誰かの役に立てたのだと感じられる。それならば、私ももっと積極的に「ありがとう」を伝えていこうと思った。


最初は不慣れでぎこちないものだったけれど、少しずつ「ありがとう」を口にすることが自然になってきた。例えば、母が食事を作ってくれたとき。「いつも美味しいご飯をありがとう」と言ったら、母は少し照れくさそうに笑っていた。


父に対しても、透析から帰ってきた後に「お疲れ様、いつも頑張ってくれてありがとう」と伝えるようにした。父は「お前がいるから頑張れる」と言ってくれた。その言葉が、私にとって大きな励みになった。


感謝は、心を通わせる力を持っているのだと思う。私が「ありがとう」を伝えることで、相手の心が少し温かくなり、そしてその温かさがまた私に返ってくる。そうやって、感謝の連鎖が生まれるのだと感じる。


もちろん、感謝だけでは解決できない問題もある。両親の病気や経済的不安、将来への悩みは、感謝の言葉ではどうにもならない部分が多い。それでも、「ありがとう」という言葉を積み重ねることで、家族の絆や自分の心の在り方が少しずつ変わっていく気がする。


「感謝を伝えることは、贈り物のようなものだ」と、誰かが言っていたのを思い出す。私はこれからも、その贈り物を大切にしていきたいと思う。どんなに小さなことでも感謝を伝えることで、私自身も周りの人たちも、少しずつ優しくなれるのではないかと信じている。


今日もまた、小さな「ありがとう」を見つけて、誰かに伝えたい。感謝の形は、きっと未来への希望の形でもあるから。

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