第16話 一人じゃないと思えた日

「あなたは一人じゃないよ。」

そんな言葉を聞いたのは、私が自分の不安や悩みを誰かに打ち明けた、初めてのときだった。その言葉は、まるで心に灯がともるように響いた。それまでは、自分の抱える問題は自分で何とかしなければならないと思い込んでいた。だから、「一人じゃない」という言葉が、どういう意味を持つのかさえ分からなかった。


私はずっと、他人に心の内を見せるのが怖かった。「重たい人だ」と思われるのが嫌で、どんなに苦しくても笑顔を作り続けた。助けてほしいときでも、自分からは何も言えず、ただ時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。


でも、それでは何も変わらなかった。むしろ、不安は大きくなり、心がどんどん疲弊していくのを感じていた。誰かに話してみよう、と思い始めたのはそんなときだった。


最初に相談を持ちかけたのは、地域の福祉窓口だった。「一人で全部抱え込むのは大変ですよね」と相談員の方が優しく言ってくれた瞬間、私は思わず涙が出た。話しているうちに、自分がどれだけ孤独を感じていたのか、自分でも驚くほどはっきりとわかった。


「一人で解決しようとしなくていいんですよ。私たちもいますし、他にもたくさんサポートできる人がいますから。」その言葉は、私にとって希望そのものだった。


一人じゃない、という実感を持つまでには時間がかかった。でも、少しずつその言葉が心に浸透していくのを感じた。友人と話すときも、少しずつ「実はこういうことで悩んでいて」と言えるようになった。彼らは驚きもせず、「それ、分かるよ」と頷いてくれた。その瞬間、私の中で何かが軽くなるのを感じた。


今でも、一人で悩み込む癖が完全に抜けたわけではない。だけど、以前よりもずっと、「誰かに頼る」という選択肢を自分に許せるようになった。一人で抱えなくてもいい、という考えが私の中に根付き始めている。


「一人じゃない。」

その言葉は簡単に見えて、実際にはとても深い意味を持つ。人とつながることの大切さを少しずつ学びながら、私はこれからもこの言葉を胸に、前に進んでいきたいと思う。私にとってその言葉は、未来への道しるべのようなものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る