第15話 手放すという選択
「全部抱え込まなくていいんだよ」
福祉窓口の相談員に言われたその言葉が、心に響いた。私は、どれだけの間、自分一人で全ての不安や責任を背負おうとしてきたのだろう。両親の病気、経済的不安、将来への恐れ――それらをなんとか解決しなければと思い続けることが、私の日常になっていた。
でも、よく考えると、すべてを抱え込む必要なんて最初からなかったのかもしれない。
私はいつも、「頑張らなければいけない」「解決しなければいけない」と思い続けてきた。だからこそ、助けを求めることに罪悪感を抱き、誰かに頼ることを「負け」だと感じてしまう自分がいた。
でも、その考え方が自分をどれだけ苦しめていたのかに気づき始めたのは、最近のことだった。ある日、ふと「これは全部私の責任じゃないんじゃないか」と思ったのだ。
両親の病気も、経済的な問題も、私一人で解決できるものではない。そんな当たり前のことに気づいたとき、肩の荷が少しだけ軽くなった気がした。「手放す」という選択肢があるのだと気づいたのは、その瞬間だった。
手放すといっても、それは諦めることではない。ただ、「できること」と「できないこと」を分けて考え、無理なものを誰かに任せたり、時間に委ねたりするという意味だ。それは、自分の限界を認めることでもある。
例えば、両親の病気については、専門の医療機関や福祉サービスに頼ることができる。経済的な不安については、制度や支援を活用して乗り越える方法を模索することができる。すべてを一人で解決しようとしなくても、周りには頼れる人や仕組みがある。
もちろん、手放すことには勇気がいる。頼ることへの抵抗感や、自分が弱いと認めることへの怖さがある。でも、「一人で頑張りすぎる自分」を手放すことこそが、本当に必要なことなのではないかと思い始めている。
最近、少しずつ「手放し」を実践している。相談支援事業所に頼ること、友人に話を聞いてもらうこと、そして自分に「完璧でなくてもいい」と言い聞かせること。それらを少しずつ取り入れることで、心に少しずつ余裕が生まれている気がする。
手放すことは、決して弱さではない。それは、自分を守りながら進むための賢い選択だ。すべてを抱え込むことが正解ではないと気づいた今、私は少しずつその重荷を下ろしていきたいと思っている。
まだ完全にはできていないけれど、それでも私は確実に変わり始めている。この選択が、私の未来にどんな影響を与えるのかは分からない。でも、今の私にとってそれが必要な一歩であることは間違いない。
手放すことで、私はもっと自由に、もっと軽やかに生きられる日を目指している。これからも少しずつ、そうやって進んでいきたいと思う。
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