第7話 居場所を探して
「あなたはどこで暮らしたいと思っているの?」
ふいに母がそんな質問をしてきた。家族で暮らしている今の家ではなく、将来、私が一人で生きていくことを前提とした話だとすぐに気づいた。胸がざわついた。「どこで」という問いに答えられるほど、私はまだ未来のことを考えられていない。
居場所。私にとって、その言葉はとても大きな意味を持つ。家族がいる今の家は確かに私の居場所だ。でも、両親がいなくなったとき、私はどこでどんなふうに暮らせば良いのだろう。私にとっての「家」は、どこにあるのだろう。
将来を考えるとき、一人で暮らす自分の姿を想像してみる。でも、そのたびに不安が押し寄せてくる。障害を抱えた自分が、社会で自立して生きていけるのだろうか。もし体調を崩したら、誰が助けてくれるのだろうか。そもそも、どこに住めばいいのか――答えのない問いが頭の中をぐるぐる回る。
居場所がなくなる恐怖。それは単に住む場所の問題ではない。「自分の存在を受け入れてくれる場所がなくなるのではないか」という恐怖でもある。家族という安心感がなくなった後、自分が何を拠り所にして生きていけば良いのかわからない。
最近、地域の相談支援事業所に話を聞きに行った。将来的に利用できる福祉住宅やグループホームについて、詳しく説明を受けた。正直、その話を聞きながら「本当にこんな場所で自分が暮らせるのだろうか」と思った。けれど、一人で抱え込んで考えるよりも、具体的な選択肢を知ることで少しだけ気持ちが軽くなった気がする。
「居場所」というのは、物理的な場所だけでなく、心が安心できる環境でもあるのだと思う。福祉サービスや支援を受けることは、今の私にとってその一部を形作る手段になるのかもしれない。
友人と話す中で、私はよく「自分の家を持つことに憧れる」と言ってしまうことがある。本当の意味で「自分だけの場所」ができたら、どれだけ安心できるだろうと思うからだ。でも、それは決して「一人で何でもできる人間になりたい」という意味ではない。むしろ、誰かとつながりながら、自分のペースで生きられる場所を作りたいという願いに近い。
居場所は、自分の手で少しずつ作っていくものなのかもしれない。家族がいなくなった後も、私は新しい居場所を探し続けるだろう。それがグループホームでも、支援付きの住宅でも、どんな形であれ、そこが私にとって安心できる空間であれば良い。
「どこで暮らしたい?」という母の問いに、私はまだはっきりと答えられない。でも、少しずつ自分の理想の居場所を描いていくことはできる。それが、未来に向けた私の小さな歩みになるのだと思う。
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