第4話 誰にも言えない本当の気持ち
「どうしてもっと早く相談しなかったの?」
以前、役所の窓口で支援を受ける相談をしたとき、そう言われたことがある。相手に悪気はなかったのかもしれない。でも、その言葉が私の胸を突き刺した。早く相談しなかった理由なんて、簡単には言えない。私はずっと、自分の不安や悩みを誰にも伝えられずに抱え込む癖があるからだ。
相談するのが怖いのは、きっと自分の状況を改めて言葉にするのが辛いからだ。両親が病気で、経済的に厳しくて、自分自身も障害を抱えていて、未来が見えなくて――それを誰かに話すことで、「やっぱり自分は大変なんだ」と認めることになる。その現実が怖くて、ずっと目をそらしてきた。
私は伝えるのが苦手だ。特に、自分の弱さや辛さを人に伝えることが怖い。誰かに話すことで、「こんなことくらいで」と思われるのではないか、「もっと頑張れ」と言われるのではないか、と考えてしまう。でも、それ以上に怖いのは、もし本気で心配されたらどうしよう、という思いだった。
誰かに心配されると、自分が「問題のある人間」だと認められたような気持ちになる。それは私にとって耐え難いことだった。だからこそ、私は何も言わず、一人で考え込むことを選び続けてきた。心配をかけるくらいなら、耐え続けるほうが楽だとさえ思った。
そんな私でも、最近少しずつ変わり始めたきっかけがあった。それは「自分が話さなくても、相談を聞いてくれる人がいる」という事実を知ったことだ。役所の窓口でも、地域の相談支援事業所でも、言葉を詰まらせても「大丈夫です、ゆっくりでいいですよ」と優しく受け止めてくれた。
初めて相談したとき、私は泣きながら話した。思っていた以上に自分の中に押し込めていたものが多かったことに驚いた。でも、不思議と話しているうちに気持ちが軽くなるのを感じた。「話すことでこんなに変わるのか」と思ったのは、そのときが初めてだった。
それでも、私はまだ自分の気持ちを全部言葉にできるわけではない。悩みの全てを人に話すのは今でも怖い。でも、「誰かに少しだけ話してみる」という一歩が、自分を少しずつ楽にしてくれるのだと感じるようになった。
私は、今もまだ一人で考え込む癖が抜けない。でも、その癖と付き合いながら、「時々は誰かに頼ってもいい」と思えるようになった自分がいる。相談することに慣れるには時間がかかるかもしれない。でも、それが少しずつ未来の重さを軽くしてくれるのだと信じている。
「話すことが怖い」という気持ちを抱えながらも、一歩ずつ向き合っていきたい。私にとって、それが新しい自分を作る始まりになる気がするから。
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