第2話 親の背中を見つめて
私が幼い頃、母はどんなに忙しくても家族のために動き回り、父は寡黙ながらも家計を支えるために仕事に励んでいた。そんな両親の姿を見て育った私は、ずっと「強い人たち」だと思っていた。でも、病気という現実は、そのイメージを少しずつ崩していった。
母の糖尿病がわかったのは私がまだ学生だった頃。家族で外食に行くと、母は「私はこれでいい」と言いながらメニューの中から最も控えめなものを選ぶようになった。甘いものが好きだった母が、デザートを控える姿を見て、病気の深刻さを子どもながらに感じたのを覚えている。
父の腎臓病が発覚したのはその少し後のこと。透析を始めるようになってからは、毎週決まった日に病院へ通う生活が当たり前になった。治療の日は、帰宅してもぐったりしていて、「大丈夫?」と声をかけると、「大丈夫だ」と笑ってみせる。その笑顔の裏にある疲労を、私は見て見ぬふりをしてきた。
最近では、両親がため息をつく姿を見ることが増えた。ため息が出る理由はたくさんある。体調のこと、家計のこと、老後のこと。けれど、何よりも深刻なのは「お金がない」という現実だ。
母が入院を勧められたときのことを、私は忘れられない。「仕事が休めない」「お金がかかる」「これくらいなら耐えられる」――そう言って入院を断った母に、何も言えない自分がそこにいた。「入院して」と強く言いたかった。でも、その言葉を飲み込んだのは、経済的な事情を一番知っているのが私だからだ。
「もしも、もっと裕福な家庭だったら」――そんなことを考える自分が時々嫌になる。親を支えたいと思っているのに、実際には何一つできていない自分がいる。私の存在がむしろ両親の負担になっているのではないかと感じる瞬間がある。
それでも、両親は私に「自分のことを大事にしなさい」と言う。そんな両親を見ていると、どんなに辛くても前に進まなければいけない気がする。支えることができるかは分からない。でも、私が今ここにいることが、少しでも彼らの希望になれているなら、それだけで意味があると思いたい。
私は、これからの人生でどれだけ親を支えられるのだろう。答えはまだ見つからない。それでも、今はただ、親の背中を見つめ続けることしかできない自分を受け入れてみようと思う。小さな一歩でも、いつか未来につながると信じて。
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