第12話 魔法と魔術(2)




「おっ、よく聞いてたね。そういや基本的な話はしてなかったな……」


 こほん、と咳払いをしてシスレーは先生みたいな表情になった。


「この世界メルファリアには微少な精霊素ウィクスが偏在してる。空にも、水にも、大地にも、そして生物の中にもね。それを使って起こす奇跡が、魔法マグスなんだ」


「ほーん。なんとなく分かる!」


「魔法には『属性』と『スキル』の二種類があるって、王子が言ってたよね。実際に見せると……氷結シヴァラよ、わが手の上に!」


 シスレーが手を前に出し、声を上げる。

 すると手の上に小さな、氷の花のようなものが出来てすぐに消え去った。


「すっごーい! 王子は光だったけど、シスレーは氷なんだね。キレイ!」


「うひゃー、ゲンダイ人の感想気持ちイイ! こんな初歩魔法でもありがたがってくれるなんて。そうそう、これが『魔法』。個人が使う、出力が安定してない奇跡式のこと。私は氷属性なので、基本的には氷魔法しか使えない。長めの詠唱を唱えるし、レベルが一緒の人でもバラつきが大きい。効果も低めで、属性や個性、天気なんかにも左右されちゃう。それでも日常生活には便利だけどね」


「なるほ。ゲームの低レベル魔法に長めの呪文とランダム効果がついてる感じ?」


「まあそんなとこかな。そして次の魔術マグナスだけど」


 今度は手の指輪を横の壁に向け、息を整える。


氷結花シヴァリ=エラ


 青い魔法陣が二つ、重なって浮かび上がる。バリッとすごい音がして、壁に大きな氷の花が浮き上がり、すぐに溶けて消えていった。


「さっきより大きいね!?」


「そうだね。基本的な魔法に陣やら魔法式をセットして詠唱を短く、大きな結果を定量的に出るように設計構築されたものが『魔術』。ただし魔法と同じように属性や個性の制限を受けるし、魔法式や魔法陣の知識、資格、制御のコツも必要になる。要は修行が必要ってことだね。大体は魔術学院でやるけど、野良で勉強・修行して試験だけ受ける人もいるよ」


 おおー、とエイミは納得の声を上げた。なるほど魔法にも段階や仕組みがあるのか。魔術を使う人=魔法使いのイメージに近いかも。


「それで……先に軽く説明したけど、我が国はその先、魔術を属性や個性に限定されず、ある程度は平等に使えるよう研究しているわけだ。物理運動する機構に魔術を組み込んで使う。私の魔方椅子とか……ほら、あれ」


 シスレーが指さした先では侍従らしき女性と、そのあとをコロコロと小さな台車が続いていくのが見えた。車の上には本らしきものが山積みになっている。自動で追いかける室内用カーゴって感じかな。


「ああいうのも、他国だと個人が作り出す『使役精霊』だったり、魔物を支配下に置いた『使い魔』なんかで代用することになるんだよね。それって出来に個人差が多いし、魔力消費量も多いワケ。でもうちの魔術機構なら、木材や金属を加工して車輪を付けて、追尾する魔術式と魔力増幅器をつけて、最後に使用者が少しの魔法で発動させれば済む。資格もいらないし、魔力消費も最小限だ。これなら魔力量の少ない人でも、衰えた人でも、みんな使える」


「それってアタシの世界の『機械』っぽいかも! 魔法のバリアフリーって感じだねー!」


「『機械』は知ってるよ。だいぶ近いかもね、動力が燃料か魔法かの違いだけ。ばりあふりー……最近の言葉だっけ? 障害を取り除く、とか。まさにそうだね。私もこれが無ければ膨大な魔力を消費して歩くことになるだろうし」


 シスレーはしみじみと自分の魔法椅子を見た。


「すごいねえ、まさに必要は発明の母だ……」


 エイミは感心した目で周囲を見まわす。この暖かさも、明かりも、シスレーの椅子も、そういう仕組みだったのか。


「他の国にもあるの? そういう機械みたいなやつ」


「他も研究は進んでるけど、ここまで完全に、大規模に固定化と汎用化できたのは我が国だけだねえ。最先端技術国ってことになる。だから我が国のぉ! 魔術機構技術はァ! 世界メルファリアイチぃいいいいいいいい、なワケ」


「ただ叫びたいから叫んでた訳じゃないんだね」


「まあ叫びたかったんだけどね……どう、すごいだろう?」


 シスレーが得意げに胸を張った。

 エイミは周囲を見回した。誰でも少しの力で使える魔法、か。もともとの性質からしたら本当に便利だし、だからこそリュミエール王子が無理難題を突き付けてまで欲しがっているのだろう。連合ってやつの本心がようやくわかった気がした。


「いまのアタシには聖女の力はないけど、普通の魔法は使える?」


「いや、無理だね。異世界から来る人には、もともと魔法を使うための『脈』が無いらしくてさ。聖女はこの世界に来たらそれが開いて、属性とスキルをゲットして使えるようになるんだけど……」


「まだそれがないってわけか。ざんねーん、異世界に来たら魔法が使いたかったんだけどなー」


 元の世界の子供だったら誰だって魔法に憧れる。エイミたちだってそうだった。パパがいた小さい頃は家に漫画も絵本もあったから、お姉ちゃんと夢中になって魔法少女の絵を描き写したりしたっけ。自分で作った魔法の掛け合いもした覚えがある。

 もっとも、最後にはお姉ちゃんの必殺技「ギガギガ=イオナドン」でエイミが即死して大泣きする展開が多かったけど……。

 

 シスレーが人形みたいな笑みを浮かべる。


「大丈夫、スキルを得るには……いろんな方法がある。きっとすぐに使えるようになるよ。そうなるとすごいぞー、聖女は個人魔力の消費ナシで奇跡を起こせるんだ。それに普通の人にはないスキルばかりなので、私たちからするとエイミたちの方がすごいんだよ」


「そっかあ、早く使えるようにならないとね!」


 えい、とエイミが手を前に突き出した途端、何かに当たった。白い……シェフみたいな服?

 ん、と顔を上げると、困惑したお爺さんがこちらを見ている。


 「わっ、ご、ごめんなさい」


 エイミが慌てて後ずさると、お爺さんはニッコリと笑った。


「聖女様、お待ちしておりました。お食事の用意が整いまして……」


「そうだ、忘れてた! ハラペコです!」


 お爺さんは優しく微笑み、どうぞ、と奥の部屋を指し示す。

 やったー! と両手を挙げてエイミはそのあとに続いた。ついに異世界メシだ!


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いつも評価ありがとうございます。

明日は渾身の帝国メシ回です。




 

 

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