第11話 魔法と魔術(1)


 部屋を出たエイミたちは、まず階段を登り、上の階に向かった。


「ここって地下なんだよ。エイミが召喚されたのはその中の魔術通信室。主に大陸連合と会議や会話をするのに使うんだ。地下は軍事施設ばっかで殺風景だからね、驚いたでしょ」


 シスレーが先導しながら言う。魔法椅子は階段もフワフワと浮かび、かなり楽そうだ。エレベーターやエスカレーター……はさすがにこの国にもないみたい。


 彼女が言った通り、地下から地上に上がると途端に廊下や床の装飾が華やかになった。ゲンダイで言えば中世風というか、ロシア風というか。飾りや照明がありえないところについてる。これぞ異世界って感じがする。


「いやでも……全体的に黒っぽくない? たまに模様の中が赤く光ってない? 悪の組織の本拠地っぽいよ?」


「それを言わないでよー、うちは精霊結晶……いわゆる燃料素材や、使える鉱石が少ないのが悩みでさ。黒骨岩が唯一、丈夫な国産石材なもので、ついついその色で統一しがちで」


「赤く光ってるのは何なの?」


「魔術機構の明かりだね。これのおかげで全館暖房できてるんだよ。あと赤いとかっこよくない?」


「うーん……アタシ的にはもう少し明るい色彩の方が好きかなー。ま、カッコいいけどね、悪役っぽくて!」


「それって誉め言葉になってないよ……変えたいけど、予算がねえ……」


 ぶつぶつ言うシスレーと1階を回っていく。

 建物の色は黒いけれど、設備はさすがに豪華だった。大きな玄関ホールに始まり、ピカピカの床や天井、何十人も横になって通れそうな大きな階段なんかもある。異世界コミックのイメージとぴったりだ。


 他には応接室、謁見の間、大舞踏室に大広間。大きな建物は六角形の形をしていて、雪の結晶をイメージしているらしい。

 建物の真ん中は中庭として開いていて、窓から見ると薄暗い木立にはうっすらと白い雪が積もっている。外はすっかり夜になっていた。


 シスレーが廊下の奥を覗き見る。


「一階の奥には離宮への通路があり、その先には大会議場があってね。いまごろエイミを正式な帝国の聖女だと承認するための特別議会が開かれてるよ。ギルがしかめっつらで印璽を押しているはずさ」


「アタシはいかなくていいの?」


「最初は出すつもりだったみたいだけど。まあエイミもそのままでは……ちょっと承認されないかもだしね……明日にでもお披露目式を開くってさ」


 シスレーはエイミの頭の先からつま先まで眺めた。その視線で言いたいことは大体分かる。

 パーカーに、緩いVネックのニットに、短いスカートに、長いソックス。

 ポッケには謎のぬいぐるみがついた電池切れのスマホが刺さってる。

 ずりおちたメガネをくいっと上げて、エイミは胸を張った。


「そりゃ今日はすっぴんだしネイルも剥げてるけどさ、ギャルはこの格好がデフォだよ! かわいいじゃーん!?」


「まあ時と場所をわきまえれば、ね。明日は制服着ると良いかも」


 シスレーは苦笑しながら次の階段をふよふよと登っていく。


「王宮は三階建てでね。二階には各大臣の部屋だの会談室なんかもある」


 閑散としていた一階とは違い、二階にはたくさんの人がいた。つまりまだ残業してるってことだ。どの世界でも大人は辛いなー、とエイミはしみじみと思った。ギルも疲れすぎて死にそうな顔してたもんね。


 歩いている人の多くはギルとよく似た黒い服を着ていて、必ずシスレーにお辞儀をしてくる。皇帝の妹だし、研究所の所長って言ってた気がするし、かなり偉いのだろう。まあこの黒い制服ってのもなー。デフォで悪役っぽいよなー。


 エイミのこともチラチラ見ていたから、チーっス!ってギャルピースしたらそそくさと逃げていった。ええー、この可愛さが分からんとは……ギャル初見ならまあしかたない、許そう。


 二階の建物自体は下と同じで、入れない部屋も多い。

 ぐるりと回ったところでかなり満足してしまい、エイミは周囲を見回した。


「天井の明かりも魔法? 召喚式の立体映像といい、魔法すごいね」


「まあメルファリアは魔法が使える世界だからねえ。でもゲンダイにもあるでしょ? 似たやつ」


 エイミはうん、と頷く。


「モニタとかVRとかあるけど、でもあそこまで立体的なのはあんまりないよ。どうなってんの?」


「隣の部屋に宮廷魔術師がいてね、彼が術を調整してたんだよ。立体投影魔術の専門家さ」


「全然気づかなかった。……というか、魔法と魔術ってなんか違う? 微妙に使い分けてるよね?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る