第5話 まさかのノースキルってヤバない?


 

「……ない」



 エイミは目を丸くした。

 え、いま、ないって言った?

 聞き間違いカナ?


「ないって、何? どゆこと?」


「聞いての通りだ。今の時点で、鑑定できるようなスキルは一つも保持していない」


 え、ええ……?


「なんか……なんかあるんじゃないの? 聖女で召喚されるってことは、神様から何らかの何かをもらってるはずでは? 癒しとか、浄化とか、護りの力とか。召喚されてるのにノースキルってありなの?」


「そうだな、試してみよう。手を出して」


 王子に言われ、エイミは右手を前に出した。


「そのまま手のひらを上に向けて……治癒レリスと唱えて」


治癒レリス


 チリッと表面が温かくなった気がしたけど、なんにもおきない。


「通常は緑の光が沸き上がるのだがね。こちらの聖女鑑定盤には確かに聖女力ルーシアを持っていると出るし、世界の精命力をとりこむための聖女脈ルナも開いている。だが、その力を発現するスキルがないようだな」


 王子の手がパッと空中をよぎる。

 するとゲームのキャラ設定画面のようなものが浮かび上がった。


【エイミ・コジマ】

【職業】聖女

【Lv】1

【属性1】---

【属性2】---

【属性3】---

【スキル】---

【聖精量】999,999


 おお、とエイミは声を上げる。

 日本語じゃないけどなぜか読める謎の文字。

 あ、最後の数字、現代世界といっしょかも。


 てか数字、多くない?


「……これは、つまり……?」


「この世界で魔法を使うには『属性』『スキル』の二種類が必要になる」


 王子は三本指を掲げた。


「属性、というのは、炎・水・木・金・風などの効果属性のことだ。聖女の場合は光や闇、星属性もある。魔法は、その属性を使って起こす奇跡なのだ。炎を出したり、氷を出したり。私は母が聖女でね、光魔法が得意なんだ。……光の花よ咲き誇れ《ルミア=イルタ》」


 王子の手の上にパッと輝く花が描かれる。

 うわー、とエイミが声にならない声を上げると、彼は得意げに鼻を鳴らした


「そしてスキルは属性の影響を受けつつ、個人が発揮する特殊能力だ。属性や種族、人種、それに個人差が大きく、聖女特有のスキルとしては主に治癒、浄め、護り、珍しいところでは精神操作などがある」


「いろいろあるんだね。最後の数字は?」


「体内にため込める精霊素ウィクスの量……いわゆる普通の人の魔力にあたるものだ。聖女エイミの数値は他の聖女と同じで、計り知れない、という表現になる。つまり、すでに世界と接続されており、燃料は無限だ。だが君は、他の者のように燃やすことができない」


「ガソリンタンクだけでエンジンのない車……ってコト!?」


「ゲンダイの言葉は詳しくないが、とにかく機能がない、ということだな」


「うええー……アタシってポンコツじゃんよ……」


 エイミはガックリと肩を落とした。

 異世界に来たけど、聖女の力はないって。

 それって聖女の地位を乗っ取るタイプのニセ聖女枠キャラじゃん。


 いやアタシ以上にギルバルトおぢさんがガッカリきてない?

 咄嗟に振り返ったら、やっぱりしぼんだ梅干しみたいな顔になってた!

 笑える……いや笑えないや。


 スキルがないって、どーしよー。

 聖女として呼ばれた意味なくない?


 ……いや、でも。


 エイミはぎゅっと手を握り締めた。


 王子が目を細める。


「そうだな、属性は不明、スキルもない、とすると、聖女として召喚した意味はないかもしれない。これはいっそ、ゲンダイ世界に戻し、別な聖女を再召喚という……」


「その必要はないよ」


 エイミはあっけらかんと顔をあげた。


「スキルも属性も、これからゲットすればいいじゃーん!」

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