第2話 悪役おぢVSギャル聖女


 「ええー……マジですか……」


 アタシはまじまじとおぢさんを見た。


 年齢は30歳か40歳くらい?

 よくわかんない……おぢさんって顔が疲れすぎてるから、全部同じに見える。

 痩せて背が高いし、中学のときの算数の先生に似てる気もする。


 あれ、異世界だからか、ちょっと外国人風だよね。よく見ればイケメンかも。


 いやいや、それにしたって顔がコワすぎでしょ。世界を滅ぼす顔だよ。


「マジでおぢさんがアタシのこと召喚したの?」


「……そうだ」


「マッチングアプリで?」


「何を言っている? まっちんぐ……あぷり?」


「え、だってエイミはマチアプ入れて、条件入れて……」


 なるほど、と声を上げたのは王子だ。


「神の召喚式は異世界では違う形を取るそうだ。このようなめぐりあわせをなさるのだな」


「しょーかんしき?」


「そう。聖女召喚は極星教院ファリコンスキュールが許可をした場合にのみ、召喚者の霊命力ウィクラを使い、ソラリス召喚式を使って行われる。召喚者は代償を払い、ゲンダイ世界と呼ばれるそちらの世界から人材を召喚、顕現アゾルタさせるわけだが……」


「ちょ、待って、まって。全然分かんない。何語? アニメの設定?」 


 一瞬、王子の目の中にこっちをバカにしたみたいな光が見えたけど、彼はすぐにニッコリと、イケメンの笑顔に戻った。


「すまない、こちらの世界の言葉はまだよくわからないだろうね。とにかく、召喚者は『代償』を支払って神の許可する『術』を使い、神は求めに応じてゲンダイ世界の様々な仕組みに介入、『召喚を希望する人材』をメルファリア世界に送り込むことになっている」


「召喚を希望する人材って、そんなこと……」


 アタシはあっと声を上げた。


「アプリで……『家に泊めてほしい』ってコメントで入れたから……!?」


 王子は今度こそ満足げな表情で笑い、アタシの後ろの悪役おぢさんに視線を移した。


「さてギルバルト陛下、先ほど行った陛下の召喚式は成功した。こうして聖女が召喚された以上、第一の条件は満たしたと言えるだろう。合格だ」


「だが……彼女は本当に聖女なのか? こんな子供が」


 ギルバルトっていうんだ、この悪役おぢさん。


 ちらっとエイミの方を見たけど、なんか見下してるっていうか、本気で子ども扱いしてんな。ムカつく。


「聖女召喚で来たんだから、アタシが聖女に決まってんじゃん。子ども扱いはやめてよ、もう16歳だよ!」


 おぢさんは驚いたような表情になったが(そうするとなんだか良い人そうに見えたけど)苦い顔に戻ってアタシを睨んだ。


「……まだ16歳だ。我が帝国の成人年齢は18歳。たしかゲンダイ世界でもそのくらいが成人基準だったと聞く。お前は十分に子供だろう」


「いや年齢区分じゃなくて、役目とか、ヤル気とか、そういうので認めてって言ってんの!」


「実績もない初対面の子供の評価や認定をすることはできない」


「だから! その子供っていう決めつけをやめてつってば!」


 くっそー、頭の固いおぢさんだな!

 ますます中学の先生っぽい!


 王子が目を細める。


「『氷葬のギルバルト』陛下に正面から言い返すとは、なかなか芯のある少女だ。正当な聖女召喚で顕現しているし、聖女が自分でそう言っている以上、認めて差し上げたほうがいいのでは?」


「だが」


 渋るおぢさんに、王子は何とも言えない笑みを向けた。


「16歳という年齢にこだわっておられるのか……過去に囚われていては、未来を掴めませんよ、陛下」


 おぢさんはハッとして、でも動きもせずに唇を噛み締めた。


 アタシはなんだか胸を突かれたような気持になった。

 なんだろう、この感じ。


 この人……悲しんでいるような。


 いや全然分かんないけどさ!こんな初対面の悪役おぢさんのことなんて!


 でも、なんだかそう思ったんだよね。伝わったというか。

 心の傷を抉られたような、そんな悲しみを受け取った気がしたんだ。


 あともう一つ。

 理由は分からなくて、これはただ直感なんだけど。


「……王子って、もしかして性格悪い?」


 思わず言っちゃったアタシに、王子はゆっくりと視線を向けた。


 すごい怖い顔だった。

 あのナンパ男なんか目じゃない。ゾッとするような顔。




「……いいだろう。そろそろ次の条件の話に移ろうじゃないか」

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2024年11月30日 17:00 毎日 17:00

悪役おぢとギャル聖女  ~悪役扱いされている帝国のおぢさん皇帝が聖女を召喚したらギャルが来た~ 夏目桐緒 @natukiri_0320

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