高校一年生の僕

 内定取り消しなども無く、無事に高校の入学式を迎えることが出来た。


 高校では鼻から友達を作る気など無かった。味方を作るなどのたうち回っていた頃の気力などとうに失われてしまっていた。

 そんなことよりも人間関係に疲れ切っていた僕は誰とも関わりたくなかったのだ。休み時間も独りで過ごすつもりだったが、入学して最初の昼休み、前の席の女子生徒が僕の机に当たり前の様に弁当を広げた。

 驚いて読んでいた本を持ったまま固まっていると、その女子生徒は「あれ?お昼の時間だよね?」と時計を確認しだした。

 僕は「はい」とだけ答えて、一応来る途中で買っておいたおにぎりを取り出した。

 僕の作っていた心の壁なんか気にしないで流れるように僕の領域に入ってきた女子生徒に流される様に僕もお昼を楽しんだ。

 その後も女子生徒はことごとく僕に話しかけてくれた。

 移動教室も一緒に行動し、ペア決めの時も常に一緒だった。

 気づけば周りからは相棒とか相方とか呼ばれる様になっていた。


 自分のことを知っている人が誰もいない高校生活。今からならまだ0からスタート出来る。

 そう思い、僕は高校三年間を平和に過ごせるように頑張った。


 周りにはバレない程度に愛想笑いをして、仮面を貼り付けて、困っていそうならすぐに声をかけて、来るもの拒まず去る者追わずの精神で一定の距離間で人間関係を築いた。

 ノリが悪いと言われるのは怖いし、団体生活に馴染めなくてハブられるのも怖いので、たまに自分の意見かの様に相手の欲しがっていそうな意見を言って馴染めている風を装っていた。


 そんなある日、僕がある生徒に片思いしていたとある生徒から相談を受けていた時、流れでハグをした。

 友達なんて出来たことの無かった僕だから距離感が分からず、相手の求めていること全てに応えていたのがまずかった。

 とある生徒には恋人がいて、その恋人にとある生徒はハグされたことを自慢したらしい。

 僕は当事者の友達に教室の外に呼び出され、当事者不在のまま事の経緯を問いただされた。

 頼まれたからしただけ。と正直に話した。恋人の友達は、「恋人いるんだから頼まれてもやって良い事と悪いことくらい分かるよね?」と言った。

 しかし、僕にはそれが分からなかった。人との距離感が分からなくて、バグっていることをこの時初めて知ったのだ。

 頼られることが嬉しくて、必要とされている時だけ生きてていいんだ。と思える僕の心はどうも壊れてしまって居るらしかった。

 今まで生きて来て愛された実感がなく、必要とされてこなかった事がここに来て弊害になるとは思っても見なかった。

 後々ネットで知ったことだが、こういう子供を『アダルトチルドレン』というらしい。


 結局、その恋人は同じクラスだったということもあり、嫌われた状態からスタートした。

 恋人との人間関係が修復されたのは、二人が別れた後だった。


 この時から両親の居なくなった家では、仕事で遅くまでいない兄よりもまだ学生の姉が権力を握っていた。

 姉の気分次第でその日を平和に過ごせるかが決まっていた。

 父親に一番性格が近い、むしろ瓜二つくらいの姉がその立場になるのはもはや納得できたし、理なのかもしれないとも思ってもいた。


 そして、親の代わりに学費を払ってくれていた兄に僕は体で返済させられていた。

 こちらもやはり間違いなく父親の子供だった。

 薬を使われない分体は楽だったが、意識が飛んでいる間に全てが終わっていた時に比べたらどんどん心がすり減っていった。

 まるで自分の意志で事を進めている様な、自分から望んでせがんでいる様な、どうしようもない惨めさに襲われた。

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