中学二年生の僕

 中学二年生になった。


 父親は相も変わらず僕で欲を発散していた。

 最初は抵抗していた僕もここまで回数を重ねられると抵抗する気力も起きなくなっていた。


 この年、僕の所属していた科学部の実験が賞を受賞した。

 誰かに何かを称賛されるのは初めてのことだった。

 初めて手にした賞状はとても輝いていてただの量産型の紙にはとても思えなかった。

 家に帰り、母親に受賞した事を自慢したくて賞状を渡した。

 しかし、仕事前の忙しい時間だったといこともあり、母親は賞状を確認することなく僕の目の前でゴミ箱に捨てた。

 僕には輝いて見えた紙も、母親や他の人からしたら所詮はただの量産型の紙だった。

もしかしたら僕が浮かれていたのを見て、周りの人は「あんなので浮かれてる。」「しょうもな」と思っていたのかもしれないと思った僕は途端に初めての賞状に、ただの量産型の紙に、こんなにも舞い上がって浮かれていた自分がとても恥ずかしく感じた。

その日から僕は、自分の価値観を否定されたり馬鹿にされるのが怖くなり、気持ちを表に出すのが苦手になった。

 表情を悟られるのも怖くなり、マスクを手放すことが出来なくなった。


 中学二年生の夏、林間学校があった。


 小学生の時にもあったが、いい思い出が無いことから僕は今回の林間学校も酷く腰が重かった。

 友達のいない僕は人数合わせで入れてくれたグループの中で皆の邪魔にならないようにやり過ごすことにした。

 ただグループの人たちについて行くだけでいい3泊4日は楽で良かった。

 たまに、「ノリが悪い」とか「楽しくなさそうなのやめてほしい」という声も聞こえたが、人数合わせの僕に気にしないでそちらはそちらで楽しんで欲しいと思っていた。

 僕は、楽しそうな君たちを見ているだけで満足だった。


 二日目の夜、どうも外でカップルグループがなんちゃって王様ゲームをしているらしいと部屋の皆が盛り上がっていた。

 僕には関係ないと思い、部屋の隅でその日の出来事を絵葉書にする宿題をやっていた。

 後は色塗りで完成というところで他部屋の女子生徒に呼び出された。

 断ると空気も悪くなりそうだったので、言われるがままについて行った。

 先に要件を聞いておけばよかったと目的地の光景を見た瞬間に後悔した。

 案内されてたどり着いた場所にはカップルが3グループいた。

 一瞬何事かと思ったが、すぐに先程の部屋での会話を思い出した。

 鈍感ヒロインでも分かる最悪な展開しか想像出来なかった。

 一人の生徒が僕の方を見て「ずっと好きでした。」と言った。

 分かる。これは王様ゲームでの罰ゲームだ。分かっているのに返事が出来なかった。

 皆が見ている前で断るのはどうなんだ?周りの人たちは断る僕を見て何を思う?「あいつ、真剣に答えててキモ」と嘲笑うだろうか?「えぇ、本気だったのに可哀想。サイテー」と罵られるだろうか?どっちに転んでも僕は助からない。ここは理解出来ていない振りをしてやり過ごすしかないと思い、はにかんだ顔で誤魔化した。

 するとその生徒は、僕のマスクを勝手に下げて口づけをした。

 これはダメだ。皆が見ている。これは誤魔化せない。

 周りの目が怖くて、反応が怖くて、僕は何も確認できずに走ってその場を逃げ出した。

 次の日の夜、晩御飯の時間に同じ席で食べていた女子生徒に「今日もキスするの?」と聞かれた。

 僕は何を言っているのか理解できずに女子生徒の顔を見て固まった。

 女子生徒の隣に座っていた男子生徒は、少し楽しそうに「やめろよ、困ってんじゃん」と女子生徒を制した。

 僕が話の内容を理解する前に話は切り上げられてしまったが、女子生徒が「だって、恋人いる人にキスって」と笑っているのだけはハッキリと聞き取れた。

 まただ。小学六年生の時と同じ。また、皆見ていたはずなのに僕が悪者。

 林間学校明け、害にならないように身を潜めてきた一年半の努力が水の泡になった事を実感した。

 黒板には大々的にビッチと書かれていた。


 自分がどれだけ努力しても結局周りがそれを水の泡にする。

 空気になって傍観者で生きることは出来ないんだと察した。

 自分が生き残る為には逆に人と仲良くなって味方を作ることをしないといけないんだ。

 都合のいい人で居れば誰にも嫌われることは無い。

 僕は自分のために生きることを辞めた。

 自分の人生の中でさえ僕は主人公にはなれなかった。


 都合のいい存在になるのは簡単だった。

暴君の父親の元で育ったことで、自分の意見を言うのは苦手になっていたから、相手の言うことだけを聞く生活には慣れていた。

その状況の成れの果てが父親の性処理相手だった。

何も考えずに言われたことだけを実行した。舐めろと言われれば舐めたし、自分でやってるところを見せろと言われれば感じていなくても無理矢理にイった。

父親はどうも汚い僕の声が嫌いだったようで、行為中は声を出すことを禁止された。少しでも声が漏れるもんなら暴力を振られた。


 この日、どこかおかしかった。

 家に帰ると、玄関で待ち伏せしていた父親に物置に連れていかれた。

 中に入ると、そこには知らないおじさんが居た。

 僕は怖くなって逃げようとしたがすぐに捕まった。いくらある程度成長したからと言っても大の大人には力では勝てなかった。

 無理矢理抑え込まれた僕にもう一人の男はニヤニヤと楽しそうに注射器を向けてきた。

 僕は本能的にそれはやばいものだと察知して倍の力で暴れた。

 しかし大人二人に叶うはずもなく、いとも簡単にそれは僕の体内に流し込まれた。

 僕の意識は簡単に飛んだ。


 意識が戻った頃には全てが終わっていて僕一人だけが物置の中に放置されていた。

 痛い頭を押さえて落ち着かせようとしたのに、その痛みは僕に嫌な現実を突きつけてきた。

 断片的に思い出される記憶の中に僕が必死に二人を求めている姿があり、吐き気と嫌悪感に襲われた。

 断片的に残った記憶の僕が本物だと思いたくなくて必死に自分を否定した。

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