ひきこもりVS未知生物(クリーチャー)(最高の見どころ)
「……ん」
目が覚めると、全く別の場所で横になっていた。
「牢屋みたいな部屋だ……牢屋ぁ!?」
石造りの部屋。鉄格子の中にベッド一つ。トイレ一つ。
「い、意味が分からない」
さすがに鮮明に覚えてるぞ。研究所に迷い込んで二階堂さんに会って、不知火くんに会って……それで……あれ、やっぱ覚えてない、笑い。
「本当にここから出れないのか……?」
試しに鉄格子を押してみる。
キイ……。
「いや、開くんかい!」
思わず声が出てしまった。
とはいえこれは僥倖だ。
外に出てみよう。
あと、ずっと親指がジンジンする。いやな感覚だ。
▷▶︎▷
僕はやがて、外に出た。
そこには衝撃的な光景が広がっている。
「現実か?」
灯台が照らす鋼鉄の施設。
いくつもの
それが超えられない高さの金網に囲まれていた。
極めつけは、ここが
僕が出たのは
しかしながら不思議だ。人の気配がなさすぎる。
「ふ、二人はどこ」
か細い声。
……そんな声を聞きつけたのか。足音がする。
もう誰でもいい。話をしよう。
「あっ、あの――」
その考えが、間違いだった。
足音の正体に、絶句。
それは、広告で見た生物と同じ。
頭は山羊。体は人。脚は馬。蛇の尾。手に
「グオオオオオオ!」
「うわあああああ!」
絶叫。絶叫。絶叫。怖い怖い怖い。
走る。必死に走る。
「はっ、はっ」
聞いてない聞いてない聞いてない! 僕はここに研究者になりにきたのに! 襲われるなんてっ!
当然だが、悠長に逃がしてはくれなかった。
「ぎううううう!」
走る激痛。例えようのない痛み。
そのバケモノはそこから動かずに蛇の尻尾を伸ばして右脚を嚙みちぎったんだ。理解したくないが血の
「痛いっ、痛い。ふぅ、ふぅ……」
アスファルトを這いずる。……生きたい。生きたい。
未知生物はわざとゆっくり歩いてくる。意地が悪いよ。
こんなやつばっかりだ。人も、バケモノも。
「マジでふざけんなよ! なんで僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ……!」
やっぱり家から出なきゃよかったんだ。
反芻する。
家から出なきゃよかったんだ。
母さんからも言われてたし、少しは頑張ってみようって思ったけど。間違いだった。
……ああ、でも分かってる。本当は。
本当は、いつだって言い訳して誰かのせいにしたいだけ。ただ、頑張れない自分が嫌いなだけなんだ。
ああ、あああ。まだ頑張って生きていたい。こんな、こんなところで。
「死にたくなァァァァァァァァァイッッッ!!!」
心の底からの叫び。
だが無慈悲にもその斧は、振り下ろされる――。
僕、宵ノ宮 悠は目を閉じた。
………………。
まだ、生きている。なぜだろう。
………………。
『試しに家から出てみよう』。
そんな一見ちっぽけに見えるその行動が、大きな勇気が、眠れる才能を呼び起こしていたからだ――!
気づけば斧と、未知生物の巨躯の大半が消し飛んでいる。
「グオオオオオオッ!?」
その
「……え?」
よく見ると、僕の傷ついた右脚が治り、コオロギの脚のようになっているではないか。
「ひっ、なんだコレ!?」
はっきり言ってキモイ。しかし、これに助けられたのは分かる。
なぜって、産まれた時から備わっているように自由に動かせるから。
「とんでもない脚力……! あ、そういえば」
研究所みたいなところでナニカに刺されたのを思い出した。
親指を見てみると、
「これが原因か……でも今は考えてる場合じゃなさそうだ」
見渡すと。複数体の未知生物に取り囲まれていた。
「グウルルルルルゥ……」
よだれが垂れている。どうやら仲間をやられ、我を忘れて怒っているらしい。
そんなの、僕だってそうだ。突然命を奪われかけたんだから。
これまでなら、ただ黙って見ているだけだった。
けれど、今の自分なら……!
「っしゃぁぁぁあ! かかってこいよぉぉぁぉぉ!」
敢然として立ち向かう。
「ガルルルルアアァ!」
飛び掛かってくる未知生物たち。
僕はただの一度、回し蹴りをした。
「はぁっ!」
周囲の空気が爆ぜ、パン、と爆音が鳴る。それと同時。向かってきた未知生物がはじけ飛んだ。……こんなこと言うのはなんだが、なんて爽快なんだ。はっきり言って、ざまあみろ。
「ギリリリィ……ガァ!」
未知生物の軍勢はまだ諦めていない。
「いいぜ。いくらでもかかってこいよ」
しかし。
突如、僕の動きが鈍る。
「はっ……!?」
能力を使用した副作用なのか。僕の身体は動かなくなっていた。
その場でこける。
「しまっ――」
未知生物の踏みつけ。今度こそどうしようもない。
再び、瞼を閉じる。
それでもまだ、生きていた。
目の前には倒れた未知生物と、男女二人。
「大丈夫!? 悠くん!」
二階堂さんだ。蝶の羽らしきものが生えていた。
「後は任せておけ! お前は休んでろ!」
不知火くんだ。全身が虎のようになっている。
恐らく僕と似たような能力で助けてくれたのだろう。
「ふ、二人とも……! 生きてたのか……!」
「そうだよ。途中で合流して、君のこと話してたんだ。やっぱ悪い子じゃないよねって。なにより趣味が合う!」
「ふん」
「そ、そうだったのか……!」
そして二人の手を借りて立ち上がる。
「僕も闘うよ」
もう僕は情けなくないし、一人でもない。
はっきり言って、負ける気がしなかった。
「絶対、みんなでここから生きて出ようね!」
二階堂さんに発破をかけられて。
「
全員で、息を合わせる。
……その後、なんとか切り抜けた僕たち。
二階堂さんに掴まって、飛翔。監獄を脱出したのだった。
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