研究所探索(怖すぎる)

 暗い建物内をちょっと探索してみると……こちらへどうぞ、という貼り紙とともに地下への階段が。


 シャレにならないぐらい怖い。先のドアが半開きになっているから不良くんが先行したのだろう。いや、度胸。


 あんまり置いて行かれないように後を追う。


 ……地下を進むと、おどろおどろしい空間が。薄暗い黒鉄の廊下。ガラス張りの壁の向こうには、桃色に発光する培養液に入った謎の生物か、植物かが入っていて。それがずっと並んでいる。


 なんだこれ。危ない好奇心が刺激される。帰ったほうがいいのに、足が前に進む。


 さすがに不安になった。本意ではないが……呼んでみる。


「ふりょ……不知火く……さん!」 


 ……返事なし。はい、オシマイでーす。


 そもそも幻覚だったのでは? 首をかしげてみる。


「えっ、悠君? だよね?」 

「ひっ」 


 顔を覗き込んできたのはツインテールの少女。 翡翠色のワンピース姿が愛らしい。


 マジか。不良くん、秒でイメチェンしたのか。かわいい。


 いや違うだろ。なんで――。


「にっ、二階堂さん? なんでここに!」 

「いやー、なんかネットに変な広告があって。それがどうしても気になっちゃって……えへへ」 


 かわいっ……じゃない。


「へー、そういう趣味あったんだ。意外だね」 

「え?」 

「ん?」 


 なんだ、この空気は。地雷踏んだ? まぁ嫌われるのは得意だからね。はは。あー、オシマイだ。


「いや、きみが学校来なくなる前にお話したじゃん」 

「……あ」 

「趣味、一緒だねって」 


 ……あぁ、そうか。あまりにも学校が嫌すぎて記憶が曖昧だった。


 彼女もオタクだったな。ちょっと話して少しだけ会話を弾ませたくらいにしただけだが。


「てかきみさ……学校来なよ」  

「嫌だ」 

「即答!?」 


 当然だ。


「なんで行きたくないの? 楽しいよ?」 

「………………」 

「どうしたの?」 


 分かるまい。


「きみはいいよな。友達がいて。どうせ彼氏とかもいるんだろ」  

「え……?」


 分かるまいよ。


「俺は出来損ないだから、勉強も運動もできない。だから陰口だって分かるように言われるし、突然横から小突かれたりする」 

「そんなこと――」 

「あるんだよ!!!」 


 あなたは全部といかないまでも、片方を持ってる。勉強ができる。だからカーストの上位にいる。


 カースト上位の人間は、下位の人間の心情に気付くことはないんだ。


「……ごめんなさい」 

「ちょっと、待ってよ! まだ話は――」 


 その場にいられずに、走り去ってしまった。


 こんなのただの八つ当たりだ。やはり最低だ、自分は。。帰ろう。




▷▶︎▷




 待て。研究所から出れないぞ。おかしい。


 確かに来た道を戻ったはずだ。


「……やっぱ一人は怖いっ」 


 もう一度来た道を戻ろうとした。その時。


「おい」 

「ひえっ!?」 


 えー。不良くんかぁ。ここまで二階堂さんが追いかけてきてくれたのかと……。まぁ贅沢は言わない。


「あの、ここって……」 

「だよな。出れなくなってる。先に進んでもなんもねぇから引き返したんだが」 

「うん」 


 やっぱりそうか。てか不良くんと話しちゃった、へへ。


 とか、ニヤニヤしながら考えていると。


「ん、こんな扉あったか?」 

「え……」 


 ふと、彼の目線の先を見てみる。


 鋼鉄の扉。いかにも立ち入ってはいけなさそうな匂いがプンプンだ。


「入るか」 

「う、うん」 


 おおい、もうちょっと警戒とかしないのか。スッて入ったぞ。スッて。


 中は小さめの研究室。レポートまみれの机とか、観葉植物とか。ホルマリン漬けのナニカとか。誰かが住んでいてもおかしくないような。


 とりあえず二人で探索することに。


 ……しかし進展がない。レポートは見ても分からないし、植物は変なだだし、不良くんは怖いし。


 何よりここから出るための鍵っぽいものがない。


「なぁ」 

「ひゃいっ」 


 不良くんか。思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「お前はなんでここに来たんだ?」 

「えっ」 


 ああ、やっぱり邪魔だったのか。それはご迷惑をおかけしましたねぇ。


「ごめんなさい」 

「あ? なんでだよ。ここに来た理由を教えてみろっつってんだよ」 

「……はい」 


 怖い。あ? とか言うなよ。頭真っ白になるて。


「ええと、サイ冒っていうアニメが好きで……あ」 


 やっちまった。しかも略称だし。こんなこと言っても伝わるわけ――


「マジ? 俺もなんだよ!」 

「っ」 


 向日葵のように。純粋で、ぱっと明るい笑顔。


 こんな顔は見たことがない。戸惑ってしまった。


 不良くんも、こんな顔するんだな。


 その時。


「痛いっ!」 


 ナニカに親指を刺された? 嚙まれた?


 ジンジンする。最悪だ。


 ……おや。


「なんか、眠たい」 


 視界がぼやけて身体がふらつく。


 ああ、この時間いっつも家で寝てるからな。活動限界だったんだ。


 不知火くんがなにか言ってるな。なんだろ。暴言だろうな。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る