ひきこもりの僕が試しに家から出て未知生物(クリーチャー)と闘ったら無双したんだけど

楪 紬木

ひきこもり、外に出る(この時点でまじで偉い)

 赤く染まる空。


ここは、とある監獄の敷地内だ。


もちろん犯罪者なんかじゃない。


そんな、なんの罪もない僕は今――。


未知生物クリーチャーに襲われている。


「なんで、僕がこんな目にあうんだ! ただひきこもっていたいはずなのに、どうして……!」


脚に裂傷。アスファルトを這いずってソイツから離れようとしていた。


ソイツは、頭が山羊。体が人。脚が馬。蛇の尻尾。手には戦斧バトルアックスが握られている。全身は漆黒。


どうやら知能は高く、僕をいたぶるようにわざと遅く追いかけている。


ああ、本当にどうしてこんなことに。少しだけ振り返ってみる。


これが走馬灯ってやつかな。はは。




▷▶︎▷




 僕の名は宵ノ宮 悠。高校一年生。


 何を隠そう、ひきこもりだ。その期間は二ヶ月。


 今日も自宅。ベッドの上でアニメを見ながらポテチを貪る。


「あぁー、俺もこんな無双してぇー、彼女ほしっ」 


 授業中、何度妄想したことだろうか。はっ、あり得ないことなのに。笑い。


 ふとピンコン、とベルが鳴る。ちっ、またあいつか。ほら、甲斐甲斐しく母さんが二階に呼びに来た。


 ……せっかく女の子が来てるんだから出なさい、だと? はぁ。男も女も関係ないよ。


 なんとはなしに、カーテンを少しだけ開けて窓の外を見た。


「悠くん、今日のプリント届けに来たんだけどー! いるんでしょー?」


 やっぱあいつだ。同級生の二階堂 せりか。明るめの茶髪をツインテールにして、メガネをかけている。ぶんぶんと手を振っている姿が眩しい。たしかオタクではあるが、友達が多い。陽キャラなのか陰キャラなのか分からない。


 どうせ僕を利用して好感度上げようってんだろ。もういいって。


僕はまた寝っ転がってインターネットの海に飛び込んだ。気持ちいい。


「……なんだ、これ?」


ふと見つけたのは、こんな謎の広告。ちょっとグロめの生物の画像で。


『キミも、未知生物クリーチャーの研究者になってみないか!? この世に存在しない生物を、共に創り出そう!』

「なにこれ、胡散臭っ」


……でも、ちょっと興味あるな。


 だってそうだろ? このなんの希望もない世界で、科学を通して二次元的な理想を叶えられるんだぜ? てか、好きなアニメの構造に似てる。


「でも外出たくないな」


……しばし目をつぶった。自問自答する。結論。


「明日にするかー」 


 微睡みの中へ。おやすみなさい。


 こういう時って絶対動かないよな、僕。




▷▶︎▷




 奇跡だ。珍しい。槍でも降るのか。


 よほど自分にしては気になったんだ。広告に掲載された集合場所に来てみた。


 都心、裏路地、寂れた薬局みたいな建物。うん。クソ怖い。帰ろう。


 そう、踵を返した時。


「おい」 


 ……マジかよ。なんでここにいるんだ。


 声をかけてきたのは不良の同級生、不知火 ワタル。寝ぐせだらけの赤髪。学ランボンタンを履いている。ポケットに手をつっこんで、メンチを切るような視線。嫌な感じだ。


「なんでここにいるんだ、お前」 


 こっちのセリフだっつの。


「あっ……その、広告で、はい」 

「俺もだ」 

「そうなんですか……って、え?」 


 衝撃的な一言だった。不良はこんなのに興味ないと思っていたから。


 ふ、ふーん。なかなかいい趣味してるじゃん。


 とか思っていたら置いて行かれていた。


 一緒に行く流れではなかったのか。あっ、はーい。

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