第28話 運命の体育館裏
そして、迎えた放課後。
駆は一足先に体育館裏にてスタンバっていた。
そしてその様子を物陰から見守る怪しい二人組もスタンバイしていた。
「あぁーもう、駆のやつそわそわしちゃって……! 顔に出さないようにしてても気持ちが丸わかりじゃない、この浮気者!」
「魅美ち、ステイステイ。『頭隠して尻隠さず』どころか、頭だけモロ出てるからね?」
魅美と寧音であった。
魅美は勿論、駆が服部さんの事をどうするのかという事の顛末を最後まで見守るために押し掛け、寧音は野次馬根性で駆と魅美がどうなるのかを見たいのが半分と、魅美が暴走した際のストッパー役としての出動である。
なお、莉々嬢は「そんな下世話な話題に首を突っ込みたくない」として回避、桃は210㎝の巨体を隠すのが難しいと判断したためパスした。
つまりこの二人は下世話なやつらという事である。
一方の駆はというものの、服部さんに何を話すつもりなのかはわからないものの、緊張気味にそわそわと動き回り、髪をなでつかせたり服の埃を払ったりと、落ち着きのない様子である。
「きぃーっ、仕草が完全に告白待ちの恋するトキメキ乙女じゃないのよもぉーっ! 本来ならアタシがそういうことをする立場なんですけどぉ!?」
「魅美ちがトキメキ乙女とかウケるーw 少なくとも乙女は二段重ねの弁当箱いっぱいの炒飯をバカ食いなんかしないんよwwww」
「うっさいわね! 成長期なんだから食べてナンボよ! 寧音もそんなんだから小さいんじゃないの?」
「いや、あーしはフェアリーだから種族的には十分標準だって。それよか静かにしてないと秒でバレっから、わちゃわちゃ動かずボリューム落としてくんないかなぁ?」
魅美ちってホントに声以外でもにぎやかだよねー、と言われてしまい、むすっとしつつもようやく押し黙る。
「うーっし、いいよー魅美ち、そのまま静かに待機待機ー。やればできんじゃん!」
「アタシは猛獣か何かなの!?」
「割と間違っちゃいな……しっ! 魅美ち、ガチモンのマジモン! 誰か来たから声落としてマジで!」
魅美と寧音が遠目で見守る中、駆が待つ体育館裏にやってきたのはラミアの服部さん……ではなく、二本の飛び出たウサギ耳が特徴的な種族、ワーラビットである。
それも、男子だ。
黒髪でいかにも冴えないといった風体で、元々小柄なワーラビットであることを差し引いても、更に小柄で子供っぽいという印象がぬぐえない印象だ。
「ふぁっ!?」
「バカ魅美ち、声大きい! 展開が謎いのはあーしも一緒だから、とりま落ち着くべ!?」
こそこそ様子を見守る二人が深呼吸をしていると、ワーラビット男子が駆に気が付き、遠目から様子を窺う。
駆もそんなワーラビット男子に気が付き軽く会釈をし、相手も会釈を仕返し……沈黙が流れる。
「えっ、これどういう事……? てかあの男子誰……?」
「展開は謎いけどあの男子の事なら知ってんよ。同じクラスの
隠れて様子を見守る二人を尻目に動き出したのは、高角君の方からであった。
「あ、あのさ。青原、だよな? 同じクラスの」
「んあ……えっと、誰だっけ、すまん」
駆は少しだけ宙に目を泳がせ脳内名簿に検索を掛けるが、寧音ほどの圧倒的コミュ力はないため引っかからなかったようだ。
高角君は別に気にした様子もなく「同じクラスの高角だよ」と自己紹介をした。
「それで青原……気を悪くしたら申し訳ないんだけれど、何でこんなところにいるんだ?」
それはこっちの台詞だ、と遠目で見守る二人組が無言のツッコミを入れる。
いや、お前たち二人こそこんなところにいるべきではないのだが。
「あーいや、何というか……野暮用、的な?」
駆が誤魔化したような言い方をすると、すかさず高角君が「『的な』?」と食いつく。
「……その、なんだ……手紙を、受け取ってだな……放課後、ここに来るように呼び出されたんだ」
しばしの沈黙。
高角君、宇宙猫の構え。
しかし程なくして高角君は一人で勝手に「まさか」とか「もしや」などと色々と一人で勝手に盛り上がり始める。
「お、おい、高角……?」
心配になって駆が声を掛けるが早いか、そのまま高角君が五体をひれ伏し、THE・土下座の構えを取る。
何が何やら訳が分からないままに仰天している駆(と、それを見守る後方のギャラリー)を尻目に、高角君が更に畳みかける。
「ごめんなさい、青原君! それ、多分僕のだ!」
「は?」
「だから……そのラブレターの送り主は、この僕なんだ!」
「えっ、嘘」
その声は駆からでもなく、ましてや魅美からでも寧音からでもなく。
ラミア故の蛇行移動により足音が少ないが為誰も気づくことがなくその場に現れたショートボブの女子、表情が絶賛宇宙猫タイムの服部嬉々さんによる声だった。
服部さんはまず冷静に状況を整理しようと努めた。
目の前には愛しの青原君……と、彼になぜか土下座をしているワーラビットの男子。
名前はちょっとよくわからないが、彼は青原君にラブレターを送ったという。
それはおそらく、待ち合わせの場所である放課後の体育館裏に両者が現れていることから察するに事実だろう。
青原君自身も、相手が男子であることを理解した上でここにきているはずだ。
つまりそれは……男子同士の禁断の……!
結論!
「ホモ!!」
どこぞのドラ太もびっくりのとびっきりいい声が響いた。
「いや待て違う! 服部さん、待ってくれ、話を聞いてくれ! どうしてそうなる!」
「大丈夫よ青原君! 私そういうの嫌いじゃないから! むしろ描かせて!」
弁明しようとする駆に、謎のスイッチが入ってしまった服部さんの返答でさらにややこしい事になる。
「待ってくれ、どういう意味だ! 何を描こうとしているんだ!?」
「えっ、そりゃあもう……イケメン有翼人攻めでかわいい系ワーラビット受けの濃厚でアブノーマルな薄い本だけど……あっ、もしかして逆の方がよかった?」
「やめろ、なんだそれは! わかる単語で話せ! おい高角、お前からも何か言ってくれ!」
しかし、顔を上げた高角君の方はというと。
「僕は人さえ愛せれば性別はどうだってよかったのかもしれない」
ガンギマった悟り顔で禅の境地に達したようなことを言い始めた。
「高角!? おい馬鹿変な事を言うのはやめろ、そもそもお前は何でここにいるんだ!?」
「そうだね……本来なら僕は別の人に愛の告白をするつもりだった……だが今は違う! 君に出会い、今やっと愛の意味を知った! 青原君、僕と付き合ってくれ!」
「何をふざけてるんだ!?」
「ふざけてなんかいない、むしろ割と真面目で切実な話さ……! もう恋人がいないクリスマスもバレンタインデーも真っ平御免なんだ……! 童貞より先に処女を捨てる事になっても、僕は構わない!」
「やめろ! 生々しい事を言うな気色悪い!」
「私、そういうのイケますから!」
グッとサムズアップする服部さんからは、おとめちっくな腐臭がした。
「駆ぅ~~~、ホモ堕ちは嫌ぁ~~~!!!」
遂に寧音の制止を振り切り、猛獣と化したポンコツサキュバスまで乱入し、その場の収拾は全くつかなくなった。
「魅美!? それに寧音も!? なんだこれ……まるでインフルエンザの時に見る夢みたいだ……うごご……」
遂にキャパを迎えた駆の脳みそは、自我を保つためにセルフでスリープモードに入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます