第27話 ドカベン炒飯二段重ね
服部
黒髪のショートボブに金色のスネークアイ、莉々嬢よりも控えめなバスト、そして深緑色の鱗に覆われた蛇の下半身と、蛇行移動により鍛えられ見事にくびれた腰回りが魅力的な外見をしている。
そしてアニメや漫画が好きで、自らもイラストを嗜み、部活も漫画研究部に入部予定という、今時珍しくもないオタク系女子である。
それなりに容姿も整っているため、「クラスで最上級の美少女」とまではいかないまでも、七~八割程度の者たちが「かわいい」と称する事だろう。
そんな彼女だが、今日は少々落ち着かない様子であり、駆が教室に入室するとびくりと体を震わせ、遠慮がちに漫画雑誌(週刊連載の少年誌だ)を読むふりをして顔を隠し、視線を駆に飛ばし続けている。
一方の駆の方はというと、ちらりと服部さんの方をワシミミズクの瞳で眼鏡越しに確認した後は、なるべく平静を保って、まるで何も意に介していないかのように自らの席に着席した。
そして案の定すぐに
「はーい魅美ち、ストップストーップ。大きく息を吸って10数えてみよー。さんはい、いーっち!」
「ぶひぃーっ!」
「ぶひwwwwwwww 豚かよwwwwwwww」
冷静さを欠き過ぎて
なお、魅美は一切ふざけず真面目である。
「もうこの際豚でも何でもいいですわ。寧音、そのままホールドアップを続けたままカウントを。魅美、あなたは落ち着くまで深呼吸! 人類種に戻りなさい!」
「りょ! ってことだから魅美ち、悪く思わんといてよね! にーぃ!」
「ンゴーッ!」
(なんJ民……)
桃だけがツボに入ってむせた。
ことあるごとに暴走しそうになる魅美をそのたびに寧音が抑え続け、何とか昼休みを迎えた。
魅美は目が血走り、鼻息もフシュウフシュウと荒く、もはや爆発寸前の人型爆弾のように膨れ上がっていた。
「その……なんだ、こんな状態で放課後まで持つのか……?」
なるべくいつも通りに振舞うために魅美たちの机にやってきた駆だが、今までこんなにも嫉妬に狂う魅美は見たことがなかった。
この状態で魅美らといつも通りの昼食を……?
ちらっ、と服部さんの方の様子を窺うと、やはり遠慮がちにこちらの様子を観察しているが、なるべくそれを表に出さないように自身の弁当箱に意識を向けているようだった。
「耐えてもらうより他ありませんわね。ほら、いつまでも膨らんでないで早くお昼ご飯になさい! ……相変わらずのお弁当ですわね」
魅美のクソデカ二段重ねドカベンには、上下にぎっしりと炒飯が詰め込まれていた。
「じょ、上下炒飯一色……」
自身のこじんまりとしていてバランスの取れたお弁当と比較して、桃が腰を抜かす。
「いや、飯のチョイスとボリュームが男子のそれなんよwwwww」
相変わらずコンビニで購入したと思われる軽食の寧音は、あんまりにも炭水化物一色でボリュームのごり押しをする魅美の弁当箱に写真を取りながらゲラゲラ笑いまくった。
「いや、現役男子高校生の俺でももう少しバランスは整っているぞ」
かく言う駆の弁当箱もドカベンではあるものの、中身は豚肉の生姜焼きと千切りキャベツ、それに大量の白飯といった具合であった。
「とりあえず食べれば少しは落ち着きを取り戻すことでしょう。ほら、さっさとお食べなさい!」
莉々嬢は半ば強引に魅美の弁当箱からスプーンをかっさらうと、そのまま無造作に炒飯をすくい上げ、同じくらい無造作に魅美の口へと突っ込んだ。
「むごごうむごう……ぜはっ! はーっ、はーっ、はーっ……」
「どうですの? 少しは落ち着きまして?」
「~~~~~~っ!!!!」
魅美は抗議するかのように唸り声をあげて莉々嬢を睨んだが、同時に空腹も限界を迎えていたため、それ以上は何も言わず莉々嬢からスプーンを奪い取り、がつがつと炒飯を食べ続けた。
このヒロイン、男らしすぎる。
「……ちょっと、あんまりにもあんまりじゃない!?」
炒飯を完食し終えて、改めて魅美は莉々嬢に抗議の意を訴える。
とはいえ、ヤケ食い気味だが食事をとったことでストレスが多少発散されたのか、魅美がいくらか落ち着きを取り戻すことには成功し、ようやくまともな人語を介した会話が可能になった。
「まあまあ魅美ち、よく言うじゃん? 『腹が減っては戦はできぬ』ってさ。重要な局面に空腹で余計なこと考えてると、十分なパフォーマンスができないもんだし。魅美ちも中学ん時にバスケ部でマネやってたんならわかるっしょ? 少なくともあーしは中学ん時テニス部の顧問にそー言われたべ!」
「まあそりゃあそうだけど……」
実際、空腹による雑念が取り払われ、思考が鮮明になったような気がするのは事実だ。
そのついでに他の苛立ちも軽減されているあたり、単純な魅美らしいとも言えなくもないが。
「そもそもだな……当事者でもないお前がそこまで躍起になられても困るんだよ。本来これは俺があたふたするような問題だろ」
生姜焼き弁当を食べ終えた駆が水筒のお茶を飲みながら魅美に指摘するが、その様子は対照的に落ち着き払っていた。
「……駆は何でそんなに落ち着いていられるわけ? ほとんど知らない女の子からラブレターもらって、何か思わないの? 『嬉しーっ』とか、『怖ーっ』とか……『アタシがやきもち妬きそう』、とか……」
「まぁ、色々思うところはある。俺も男だからな。知らない相手とはいえ、女子から好意を向けられたらそりゃ嬉しく思う。ただ、それが知らない相手となると不安な気持ちもある。あと確実にお前はギャーギャー騒ぐとも思った」
ぐさり、と最後の一言が魅美に刺さる。
「でも、これは俺の問題だ。変に過干渉な事をされても、関わったみんなが迷惑を
ぐっ、と魅美は唇を噛む。
そうだ、自分は駆に感情を押し付けるがあまり、駆の事を信頼せず、気持ちを
それは自分勝手な感情であって、決して駆の為にならないものだ。
手紙一つでここまで取り乱して、そんなことにも気づけなくなるなんて……。
気付き、恥じ、俯き押し黙る。
魅美は自分の未熟さが嫌になった。
らしくなく強めの反省モードに入った魅美の様子を見て、駆は彼女の頭をガシガシわしゃわしゃする。
「みゃっ!?」
「いいって、もう気にすんな。ちゃんとわかってくれたのならそれでいいし」
そのまま駆は弁当箱を片付け、立ち上がる。
「色々思うところがあるのはしょうがないけど……まぁなんだ。俺なりの誠意や筋は通すつもりだから、お前もそのつもりで構えててくれ」
駆が席に戻る様子を、魅美はただ頷いて見送った。
服部さんの方はというと、心配そうに両者へと交互に視線を送っていた。
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